WS000013
http://2ch.sc/より
http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/x3/1262263440/
個人的に大変な力作であるSSだと思うので掲載しましたが

※このSSは長い上に未完です。
※ガンダムXの物語を知らないと分からない部分も多いと思います


興味のある方だけどうぞ。

関連記事まとめ

もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら☆
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/37747904.html
もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 2 (未完SS)☆
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/37762393.html
もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 3(未完SS)☆
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/37762491.html
もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 4 (未完SS)☆
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/37762537.html
もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 5 (未完SS)☆
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/37762581.html


300:通常の名無しさんの3倍:2010/08/10(火) 23:36:41 ID:???.net

朝、アムロが食堂に向かうとロアビィとウィッツが何か討論をしていた。曰く、フリーデンの食事事情について。
ロアビィは概ね是、ウィッツはもっと味付けが濃くて量があるのがいいとか。アムロはジオン勢力圏でのホワイトベースをふと思い出した。
タムラ料理長とブライトの困った顔……「何を笑ってるんですか?」とサラに訊ねられてバツが悪いことこの上なかった
幸いにして(?)ティファの食事を選んでいるガロードに皆の興味が集まったからよかったのだが。
「自分の気持ちが決まってるんなら、ちゃっちゃと動いちゃった方がいいかもよ?後で泣き見るよりはね…」
「でも、『時間が解決してくれるまで動かない』っていう方法もあるわ」 「だけどよぉ、たまに時の流れってのは残酷だぜ……」
ウィッツの言葉に、アムロは少し昔を思い出した。

――貴方は来るのが遅すぎたのよ……――

その言葉はアムロの心臓に霜のように張り付いている。
歩みを阻害するものではないが、踏みつける度に音を鳴らす。
この霜はいつまでも溶ける気配がない。



ティファが新たに向かう場所としてキャンパスに描いたのは海岸と竜の頭のような形をした岩だ。
こればかりは地図にも載ってないので足で探すしかない。
フリーデンのMS隊が海に沿って探索を繰り返す日々が始まった。

「すまんな、勝手な艦長で……」

パイロットの疲労を感じたアムロは休憩を提案しにブリッジに向かい
中でジャミルとサラが会話しているのを立ち聞きしてしまった。

「確かに私にも刻が見えた。人としての未来を感じたのだ。だが実際はどうだ。私は人類を滅ぼす銃爪を引いてしまったのだ。
 だからこそ、知りたいのだ。ニュータイプは本当に人の未来を創るのか、その真実を見届けたいのだ」

「刻か……」アムロは呟いた。
確かにアムロは刻を見た人間だった。だがそのNT同士の邂逅を未来というならば、彼は過去へ帰ることを選んだ人間だ。
かつてパプティマス=シロッコがシャアをして「NTのなりそこない」と評したが、ならばアムロ自身もそれに近い。
「…大丈夫ですよ、キャプテン!」サラがジャミルに答える。
「それに、今更暇を出されても困ります。帰る所も、待ってる人もいませんから。
 私だけじゃありません。この船にいるみんながそうなんです。ここが、私達にとって帰る場所なんですから……」
(この船が……)アムロにとっても帰る場所ではある。
ただ元々のフリーデンクルーほど、心をジャミルに預けるには積み重ねた時間は多くない。
その辺りはウィッツやロアビィも、そうだろう。
この荒廃した世界に生きる人間は常に孤独な力と郷愁の思いを原動力にしている。
「あれ? なぁにしてんのさ」
ロアビィがアムロに声を掛ける。振り返ったアムロは、ブリッジのサラが強ばる気配をアムロは背中越しに感じた。
「……出場亀になるのかな、これは」困ったように頬を掻いたアムロは、ロアビィが手に持っている紙袋に気付いた。
「なんだい、それは」「今度のお仕事って海でしょ? だから、気を利かせたってワケ」



「ぷわはぁ~、あはは~! 気ぃ持ちいぃ~! サラも早くおいでよ~!」 「オッケー! そ~れっ!」

「いいよね~…」 「ホントにいいよな~…」「エロだよ、それは」
ロアビィの提案とはつまり、海なのだから泳ごう……とそういう訳である。
その為に女性陣の水着まで用意していきたというのは流石というべきか。
「ん…?」
アムロの脳裏にNT特有の直感が過ぎる。
「ティファ?」
その呟きに追従するように、ガロード達の視界にボートで外海に向かうティファが現れる。
「あの子、沖へ向かってるわ!」 「そんな! オルクに見つかったら大変よ!」

砂漠化した内陸部に比べ、比較的早く復興し始めた沿岸部と共に海はかつての平和を取り戻しつつあるかに見えた。
だが、それらを略奪することによって生活の糧を得る者達がいた。それが『オルク』と呼ばれる戦闘武装集団である


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301:通常の名無しさんの3倍:2010/08/10(火) 23:38:58 ID:???.net

ティファを連れ戻そうとアムロ達はフリーデンへ駆け込む。
「あ~ダメダメ! レオパルドは飛べないし、カナヅチだから!」
が、ロアビィは出端を挫かれた。そしてアムロは……
「……ドートレスは汎用じゃないのか?」
「汎用機だけどガンダムほど出力がないから海じゃ殆ど役立たずだよ……そのままじゃね」
ニヤっと口を上げたキッドに対し、アムロは眉間に皺を寄せている。
「足が……ないみたいだが」「あんなのは飾りだって、ノンプロにはそれがわからないんだよね~」
だからといってドートレスの下半身を丸ごとドータップにするのはどうなんだ……アムロは心から思った。
だいたいドータップ自体、元々宇宙用でシーバルチャーが海中用に開発したものである。改造の改造なのだ。
まあ同トレスするのにタップは必要不可欠ではあるが。あとクリップ。閑話休題。

不承不承マカイゾードートレスで出撃したアムロはジャミルから通信を受けた。
「水中戦の経験は?」「あるよ」「流石だな」「だが今回はティファの保護を最終戦、だろ」
アムロ自身に経験があっても、経験がないウィッツとガロードを率いて戦うのは分が悪いのだ。
「ああ、要になってくれ」「了解。という訳だ、指示に従えよ、ガロード、ウィッツ」

ジャミルの懸念通り、この海一帯にもオルクが存在した。
その首領の名前はドーザ=バロイ。カミーユみたいな声をもつ男である。


「ティファ!」オルクに追われるティファの姿をガロードが視認する。
「んっ……他に誰かいるのか、ティファ?」感応の答えを得ぬまま、アムロも戦闘に入る。
海に引き摺られたガロードに対し、ビームの威力半減を警告するアムロは
オルクのドーシートの伸縮する腕をかわす。
「そんな不格好なMSの相手なんかするな!ガンダムを狙え!ガンダムを!」
「好きでこんなMSに乗っているかよ!」
オルクの言葉に苛立ちながら、アムロは自分に向かってきたドーシートのエンジンをビームサーベルで貫く。
海中でも密着していればビームサーベルも使い道はある、そうガロードに教えて見せたのだが……
「見て無いじゃないか!」
当の生徒はドーシートに羽交い締めにされていた。
「ガロード、振り切れないのか」「やってるけど……こいつら、ガンダムよりパワーが上だってのかよ!」
水中ではそうなのだろう……アムロは埒もない答えを心の中で呟きながらGXの救出に向かう。
だが、GXに向かい、魚雷は放たれた……
「ガロード!!」
GXに向けられた魚雷は4基……だが、アムロが戦闘海域に向かう頃
カメラが捉えた陰は10や20では済まなかった。
「イルカ……?」
その海の住人達は魚雷を取り囲みながら嘶きを上げる。
それはアクティブホーミング――自ら音波を発し、その反射から目標を割り出す魚雷、を混乱させた。
イルカは超音波で会話する生き物だからだ。
(なぜ……?)と考える余裕は戦場にはない。逆をいえばそのような疑問は死に繋がる。
呆けていたドーシートのパイロットがその事に気付いたのはアムロに撃破された後だった。
「ウィッツ、ティファは確保したか?」「ああ、そっちは大丈夫か?」
「ああ。ガロード、撤退するぞ、いいな!」「了解!」「後でディバイダーとマシンガンは拾っておけよ」「うへぇ…」
ドーザも今回は遭遇戦と切り替え、撤退をし始めていた。
(あのイルカ……)
あのイルカの群からは確かに意志を感じた。
感じはしたが、しかしあの中にその意志の発現者は存在しない……
アムロはそのように感じた。そしてティファは自分より多くを見通しているだろうとも。


302:通常の名無しさんの3倍:2010/08/10(火) 23:41:56 ID:???.net

その夜……アムロはフリーデンのデッキでハロのメンテをしていた。
潮風がアムロの天パをさらにキュルキュルにしている。
「ハロ!ハロ!アムロ、バーリィ?」
どうにもウィッツが変な言葉をハロに教えているらしい。
ちなにみメンテ中に気付いたが、見たことのないパーツや配線の形が変わっていたのはキッドの仕業だろう。
(GXか……)
ディバイダーとマシンガンを拾って帰ってきたようだ。
「ニート!ニート!」
来客にハロが跳ねる。
「静かにしろ、夜なんだぞまったく……起こしたか?」「ハロの遊びで目が醒める程、神経質にはできてない」
生真面目なまま、ジャミルはアムロに答えた。
「お前こそどうしてこんな時間に?」「夢をみたから……かな」「夢? 予知夢か?」
ジャミルはアムロが別の世界でNTと呼ばれたことを知っている。
NTの見る夢には予知夢のような性質があるのはティファは実証している。
「いや……俺がみる夢は昔のことだよ」「……そうか」
ジャミルも同じような経験があるのだろう。
「白、だよ」「どういう意味だ?」「俺の見る夢は、白いのが出てくるのさ」「白い悪魔……それが異名だったな」
アムロはジャミルの言葉に笑った。
「いや、違う。動物さ……でも、今日見た夢は違う動物だった。白いイルカだったよ」
「イルカか……戦闘に介入してきたそうだが」「意志を感じた。こっちのNTは動物を操れるのか?」
「そんな事例は聞いたことがない」「だろうな、ティファとは違った感触だったから……また特別待遇か?」
ティファは何か理由があるのだろうが、勝手に行動しフリーデンクルーに迷惑をかけた。
これは普通ならペナルティがあるはずだが、なにぶん"特別な"ティファの事だ。
「どうするべきだと思う?」「おいおい、いつから俺がフリーデンのキャプテンになったんだ?」
今更フリーデンのクルー達がティファを特別扱いすることに反感を持つことはないだろう。
「もう少し、心を開いてくれれば……いや、だからといって受けとめてやれるかと言えば違うか」
クェスの父親役はできない!とシャアに対して開き直ったことのあるアムロである。
「我々も成長が必要ということか」
「いい歳してな……ははは……」
男二人で月見はいい加減いいだろうと、アムロは立ち上がって艦内に戻ろうと足を進めた。
「ハロ!ハロ!エネルギー感知!」
ハロの声に、そしてジャミルの顔に、アムロは振り返る。
海の果てに天から降りる一筋の光……
「サテライトシステム……」
海水を飲んで喉を焼いたような、苦汁に満ちた呻きをジャミルは残した。
「ああ……確かにあれは……






 
       サ テ ラ イ ト シ ス テ ム
第十六話「白鳥のような美しい導き……」


316:通常の名無しさんの3倍:2010/08/25(水) 00:37:25 ID:???.net

海の向こうにサテライトシステムの光を確認したフリーデンは太平洋の渡海を決定した。
その準備の為にジャミルはシーバルチャーを呼び、物資を集めた。
「これで何とかなりそうだよ、レオパルド」「俺のドートレスもなんとかしてくれ、キッド……」
そこでガロード達はオルクが販売している『Dナビ』の存在を聞く
それは戦時中に開発された高性能海中探査システム。
ドーザ・バロイが昔の研究者使って、一手に作っている、生きたイルカの脳を使った生態レーダー。
「奴らがD(ドルフィン)ハントした後は、海が一面真っ赤に染まるって話だ」


そしてそのDハントから味方のイルカを救う白いイルカ
それはこの海域ではすでに伝説になっていた……
「特殊な能力を持つイルカ、か……」 「たぶん、環境変化による突然変異だと思われますが」
「NT……かもな。イルカの」アムロは呟いた。「そんな話は聞いたことがないが、人間だけにNTが存在すると決まったわけじゃない」
そうなると「NTは宇宙に出た人間の革新」という定義も崩れることになる。それもいいだろう。
結果としてその定義がジオンの選民思想を生んだのだから、アムロとしては否定されて然るべき定義であった。
アムロは知るよしもないが、UC後半には「地球の大地で育ったものこそ強いNTとなる」という思想すら登場した。
アフランシ=シャアやウッソ=エヴィンこそがこの思想によって育てられたNTである。

「そんなことはどうだっていい! 問題なのはその白いイルカが特別な力を持っているために、
 オルク達に狙われてるってことなんだ! これって、まるでティファと一緒だろ!!
 特別な力のために狙われて、誰にも心を開かなくなる……ティファも白いイルカも、同じだったんだ!」

「優しいな、ガロード。その感じ方を大事にするといい」「あ、いや……」
ガロードはバツの悪そうな顔をすると頬を掻きながら答えた。
「知らなかったら、俺もただスゲーイルカがいるってだけって思ってたかも」
「知らなかったら?」
「俺…見たんだ……白いイルカが、ティファといるところを……
 白いイルカは、ティファにも心を開かなかった。"人間を憎んでる"って、ティファがそう言った。
 それでシーバルチャーのおっさんの話を聞いて、だから白いイルカを守ってやらなきゃって思って!」
(だから、守らなきゃ、か……)
白イルカを取り巻く現状と、白イルカを守ろうとすることは直接は繋がらない。
ティファを重ねているとはいえ、白イルカを守ろうと言えるガロードは強く、優しい。
そしてティファや白イルカを守る理由にNTを挟まないのが、ガロードの良さだった。
「……ガロードの話は、本当です」「ティファ!?」「彼女は、自分達の世界を脅かす人間を憎んでいます。固く、心を閉ざして……」
「そうだな。それで、ティファ、君はどうしたい?」言葉を失うティファにアムロが訊ねる。

「助けてあげて! 彼女は今、仲間を守って必死で戦っている!」

「行こうか、ジャミル」「場所が分かるのか?」 「私が、導きます」
ティファの言葉にジャミルがフリーデンを発進させる。
シンゴが声を張り上げて舵を切った「フリーデン、針路変更! ティファ、先導頼むぜ!」


317:通常の名無しさんの3倍:2010/08/25(水) 00:41:11 ID:???.net

レオパルドはまだ改修が済んでいない。
アムロのドートレスは……「バズーカか」ライフルの代わりに水中で有効な実弾を装備し
エネルギーパックを水中用のモーターに差し替えている。
「あの魚雷パック、持っていくぞ」「重たくなるぜ?」
機動性の高いシンプルな機体がアムロの好みだったはずだ。
「いや、初っ端で散撒くだけさ。数を減らせたら儲けもんだ」
当たらなくても敵MSを散開させることができる。
単騎でも水中用に作られた彼らに分があるのに、纏めてかかってこられると厄介だ。
「よし、GXと、エアマスター、ドートレスを出せ」
ジャミルの声が船内に響いた。


「ガロード、相手はDナビを装備してる。水中での機動力は向こうが数段上と考えた方が良い」
「了解……って、アムロどこだ!?」
僚機を見失ったガロードの上で爆発が起こる。
「上!?」「よそ見するなガロード!」
アムロが水面ギリギリを動いていたのには理由がある。
上空のエアマスターを撃ち落とそうとドーシートが水面に上がってくるのを見通していたのだ。
同時にGX程、水中で対応しきれないアムロの機体は水深が浅い処で動き回るのが一番いい。
(ウィッツには悪いが、餌になってもらうぞ……)
アムロは撃ち尽くしたバズーカを投げつけて怯む相手を死角から斬りつける。
(白イルカはいるのか……?)


白イルカは逃げることなく、この海域に留まり続けている。
「……なぜ逃げないの?」
その存在を只一人感知できるティファは、フリーデンの艦橋から訊ねる。

「えっ?……そうよ、人間はあなた達と違って、殺し合いの出来る生き物なの。
 "なぜ"って…? それは……あなた自身が確かめて」

(嫌われているかもしれないな、白イルカには……)
アムロはドーシートの伸びる腕を避け、逆に切り落とす。
「異世界まできて、MSで戦いをやってる俺には!」

――なぜ貴方はこうも戦えるの? 貴方には守るべき人も守るべきモノも無いというのに!――

(ララア、君の言っていたことは正しい。人は守るべきものの為に戦うんだ。
 だから、もう僕にまとわりつくな! 俺は戦っているんだ!!)
背後にエアマスターの存在を感じる。水中に叩き落とされたのか。
「固まれ!」
敵の数はそれなりに減っているが、しかし厳しい……レオパルドの改修はまだか……
アムロが汗を流した時だった。
「バカ! のこのこ出てきたら意味ねぇだろ!」
「こいつが噂の白いイルカか!?」
「待て、敵の動きが……」
白イルカの額から稲妻が奔る。
それはDナビにされた同胞の脳に語りかける彼女の力。
オルクのMSや母艦にはDナビの回路から、データが逆流している。


318:通常の名無しさんの3倍:2010/08/25(水) 00:42:39 ID:???.net

「我慢していた分、た~っぷりお返しさせてもらうからね!」
「レオパルド……改修が終わったのか!」
水中用に改修されたレオパルドが魚雷を撃ち出し、動きの止まったドーシートを撃墜する。
戦況は逆転した。
ガロードは空中に躍り出ると高出力のディバイダーを水面に向けて放ち、ドーシートをあぶり出すと、尽く撃ち抜いた。

「いいセンスをしている……」
その姿を眺めながら、アムロは呟いた。
「戦闘力の高いパイロットをNTって呼ぶ奴もいたが……」
ガロードは、その資格があるだろう。
アムロのドートレスの横を白イルカが泳ぐ。
「強い人間なんだよな、ただの」
白イルカに語るように、アムロはコクピットの中で口を開いた。
NTは一瞬で全てを把握するがそれだけで、そこから何を為すかは本人次第だ。
ガロードは一つずつ知って、聞いて、考えて、動き出せる。
(ララア、君は出逢うのが遅すぎたといったけど……)


落陽が穏やかな海に浮かぶ。
イルカ達はフリーデンに挨拶をするように跳ね泳いでいた。
朱色の光は、サイコフレームの緑色の光よりも力強く
それは痛いぐらいに、生命の力を主張していた。
「アイツ、何か言ってきたのか?」
「ええ……」
ティファが白イルカの言葉を代弁した。

「自分達の住む世界は、新しい時代を迎えている。
 希望は、決して捨ててはならない。なぜなら……命は変革する』

「ガロード?」
「ん?」
「明日から、食事、届けてくれなくていい……私が、行くから」

そんな二人を見て、アムロは心を決めた。
「アムロ?」
それに気付いたのはジャミルだけだったろう。
だが、ジャミルにしてもアムロが肌身離さず持っているサイコフレームの意味は知らない。
それでも、彼の様子をみれば、そのT字の翠色の物体が大事なものだと分かる。
それを……アムロは海へと投げ捨てた。
「……いいのか?」
「いいんだ」
アクシズを押し上げたサイコフレームの光はNTの光ではなく、人間の光だった
命が変革するなら、それはNTじゃない別の何か……本当の意味でのニュータイプかも知れない。


第十七話「こんなもの無くなって、人は生きていけるさ」


319:通常の名無しさんの3倍:2010/08/25(水) 00:56:49 ID:???.net

GJでした!

うーむ、やっぱここのアムロは良い味出してるなぁ。


324:通常の名無しさんの3倍:2010/08/28(土) 02:40:08 ID:???.net

大戦末期、地球連邦軍の中に、ある作戦を推し進める一派があった
ニュータイプ研究機関によって極秘裏に進められていたこの作戦、オペレーションネーム『L』



アムロは夢を見ていた。

星がきらめき、鮮やかな紫皚々たる深い雲の中
流れる刻の中で、しかしいつもこの場にいる白鳥の女性は居ない。
代わりに聞こえてくるのは子守歌だった。
ベルトーチカ? 赤子をあやしているのか?
それとも、母さん? 抱かれているのは、俺?
金色の髪が海原のように流れた。
セイラ=マスの色よりも、赤みと深さがある金髪は海のような温かい情懐を感じさせた。
『彼女を安らかに眠らせてあげて欲しい……』
「誰だ!?」
振り返る。
光の中心に人の影。
シャア…カミーユ…ジュドー……アムロ=レイ

「ッ!!」
アムロは目を覚ました。
そこはもはや見慣れたフリーデンの自分の部屋。
困らない程度の衣類と、好評を得て二号機の制作が決定した作りかけのハロ
「……なんて夢だ」
アムロは起きあがると、汗を掻いたランニングを脱ぎ捨てた。
着替えながら考える。今のは予知夢だろうか?
こちらの世界のNT――ティファなどは予知夢が普通であるというが、アムロの世界のNTはエスパーではない。
アムロが囚われていたララアの夢も、アムロ自身の精神状態が見せていたものに過ぎない。
「定期診断の時にテクスに聞いてみるか」
夢診断は精神科の範囲だが……と、押し付ける事をテクスに悪いと思いながらアムロはジャケットに袖を通した。



「へえ、ティファが……」
荷物運びを手伝った、という話をテクスから聞いてアムロは思わず呟いた。
「あの子は今、心を開き始めている。部屋に閉じこもる事よりも、誰かと一緒に行動する事に、喜びを感じだしているんだ」
ガロードは心配気だったがな、とテクスが付け加えるとアムロは笑った。
「ティファを見てるとそういう気分にはなる」
ガラス細工のような……という形容詞がよく当てはまる、儚げな少女の印象は今も変わっていない。
「しかし大切に想うのと、大切にするというのは、似ているようで違う。
 ガロードもだが、お前やジャミルにも一応釘を刺しておく方がいいかもな」
「はは……実は子供の扱い方はよく分からなくてな」「ハロ!ハロ!」
「子供扱いは怒るぞ」「ハロ!ハロ!」「それも含めて、さ」「兄弟は居なかったのか?」「ハロ!ハロ!」
「ん……居なかったな。二親は、生きて俺を育ててくれた分だけ贅沢は言えないが、子供の俺自身は幸福は感じなかった」
ホワイトベースの頃、キッカ達の面倒を見ていたのはフラウで、自分は上手くあやせた記憶がない。
そういえばフラウみたいな子はフリーデンにはいないな……とアムロは考えた。
「お前、いい加減煩いぞ」「ハロ?ハロ?」アムロは二号機を軽く蹴っ飛ばした。「アシモトカ!゙オルス!ハロッ!」
「アムロ、ここに居たか」「ジャミル?」「MS隊の補給の事でな、意見を聞きたい。船長室で待っていてくれ」
アムロは頷く。テクスに夢の事を話したら、それはNTの領分かも知れないと言われたこともある。
ジャミルに心当たりがないか聞いてみるのもいいだろう。
「ジャミルのヤツ、頼ってるな。MS隊の補給の事なんて、今までは一人で決めていたんだが」
「ワンマンに成らざるを得なかったんだろ」「元パイロット同士、話が合うか?」
「それは分からないが、俺もジャミルを頼ってるからイーブンさ」
アムロは大仰に首を竦めてみせた。
「しかし金髪の女性の夢か。知っているか、アムロ? この海域はローレライの海と呼ばれているそうだ」
「そういうのは若い連中に話してやれ。娯楽になる。じゃあ、俺は船長室に」
「それでは私はロアビィの黒星を一つ増やしにいくとするか」
テクスは立ち上がると、医務室に行き先を告げたメモを残して鍵をかけた。


325:通常の名無しさんの3倍:2010/08/28(土) 02:48:47 ID:???.net

船長室に入ってはみたが、主は不在だった。
キャプテンとなれば色々忙しいのだろう。アムロは待つことにした。
「ハロッ!ハロッ!」「おいこら、走り回るな……」
アムロは二号機の制作テーマを『自由奔放』にしたことを後悔した。
「技術屋が芸術家の真似をすると手痛いことになるって、こういう……あっ!」
ハロはジャミルの机に飛び乗り、盛大に引き出しをぶちまけた。
「ったく! お前も片づけるの手伝えよな」「ハロッ!ハロッ!」
親の命令に従い、アームを伸ばしたハロは、高級そうな万年筆を取り上げた。
それは表面のすり減り具合からいって、ジャミルお気に入りのモノだろう。
ベキッ!
……折りやがった。なんつー握力をしているんだ。いや、そこはロボットだから良いとして
なんで力の調整ができないんだ? A.それはまだ作りかけだから
「ハロ?ハロ?」
……否、だんだん確信犯に見えてきた。スクラップ決定、アムロの中で判決が下った。
それはそれとして、引き出しを戻し、中にモノを詰め込みながら、瞬間接着剤がどこかにないかと姑息な事をするアムロ。
「ん?」
写真立てを見つけた。使ってないものかと思ったら、中に写真が入っている。
写真を入れた写真立てを閉まっておくとは、面妖なこともあったものだ……
アムロは自らの興味から、その写真を見た。もはやハロよりもタチが悪いが、自覚は無い。
「若い頃のジャミルか……」
今よりも一回り小さく、輪廓に幼さを残している少年ジャミルがそこにはいた。
顔に傷も無く、目も(今の目はサングラスに隠れて分からないが)キラキラしている。希望に満ちていた。
着ている灰色の軍服は、おそらく新連邦のものだろう。
敬礼だけは世界が変わっても違わないようだ。
「ハロ!」
突然のハロタックル。攻撃力4000ぐらいありそうだ。
「何するんだ、ハロ!」「ハロ!ハロ!」
アムロの出場亀を叱責しているのかも知れない。だがアムロは自覚がない(二回目)
「コイツ……絶対バラしてやる……」
ハロと衝突した額を撫でながら、その拍子に落とした写真立てを拾う。
「って、壊れた!?」
写真立てが2つに別れ、中の写真が飛び出る。
冷静に見れば、留め金が外れたたけ……アムロは安堵の溜息を吐き、写真を拾った。
「ん?」
写真は折り曲げられていた。開いてみると、ジャミル少年の隣には女性が一緒に映っている。
成熟した女性の身体、ジャミルと同じ地球連邦軍の制服、真っ赤なルージュ、知性を感じさせる眉と瞳……
そして、流れるような金色の髪。
「………ッ」



ローレライの海と呼ばれる海域、女の幽霊が海へ生者を引き摺りこむと言われる海域
本来ならオルクでも近づかないと呼ばれる海域で、彼らは活動していた。
「しかし驚いたな。『ローレライの海』の底に、こんなお宝が沈んでいたなんて…いったいどこで情報を手に入れた?」
マーカス=ガイ。オルバ=フロストの依頼を受け、巨大な棺桶を引き上げているオルクのリーダーだ。
(上手くいったよ、兄さん……)
オルバが見下ろすその棺桶の中身……それは15年前の遺産、12のシ者。
(フラッシュシステムに対応したGビットは、我々にとって必要不可欠な機体だからな……)
だが、墓碑銘に書かれていない死者の名前……それこそがこのローレライの海の主役であった。
「ミスター・オルバ! これは何だ…?」
それを彼らが知るのはまだ先の話である……


326:通常の名無しさんの3倍:2010/08/28(土) 02:50:42 ID:???.net

「ローレライの海へ向かう? マイクロウェーブの先じゃなくてか?」
アムロの問いに、ジャミルは頷いた。
「ティファがそう言い出したのか!?」
ガロードの問いにジャミルは再び頷いた。
「待て、ジャミル。確か大型のハリケーンがこの海域を走っていなかったか?」
アムロの言葉に反応したのはトニヤだった。
「"超"大型のハリケーンとローレライの海で出くわすわよ!」
「……ジャミル、地球の激しさを知らない宇宙生まれじゃないだろう?」
「私はケチな地球生まれだ。壊した万年筆の分、働いて貰うぞ」
「グゥの音もでないよ」「パー!パー!ハロッ!」「お前は誰に似たんだ!」
アムロはチョキでハロの目を潰した。「ハロ!?ロウガフーフーケン!?」



フリーデンの接近を確認したマーカスは、部下を差し向ける。
迎撃に向かおうとするガロードを引き留め、ティファは言った。
「これから先、何があっても驚かないで。私を信じて! 私は、『私』だから!」

結局、ジャミルに夢の話は言い出せなかったな……アムロはドートレスの操縦桿を握りながら考えた。
「俺のドートレスとGXは水中用のハイパーバズーカだ。ロアビィ、水中戦は馴れたか?」
「OK、俺達ばっか海ん中でウィッツに悪いね」「上からだって、魚雷の迎撃はできるぜ?」
「お待たせ!」「遅いぞガロード。ティファと抱擁は勝ってからにしろ」「そ、そんなことしてねーって!」
正規軍人ではないMS乗り達の纏め役も大分板に付いてきたアムロが、ガンダムを率いて海へと出る。
「ほら、おいでなすった!」
ウィッツが魚雷を叩くと、ガロードとアムロが海中で散開し、水中用MSに近接戦闘を挑んだ。
水中での機動力と攻撃力が発揮されるミドルレンジでの戦いは避けなければならない。
接近戦ならば、ガンダムのパワーで押し込むことも可能だった。
さらにガロードは相手のMSにビームサーベルの出力口を密着させ、斬り咲いた。
「水中で、ビームサーベルだって使いようだってね!」
「なんだガロード、前の戦いでちゃんと見てたんじゃないか!」
「へ? 何のこと?」「……自分で辿り着いたならそれでいい」
アムロとしては少し寂しい。
「ガロード、先行しろ。敵の母艦があるなら叩きにいけ」
「いいのか?俺で?」「そう判断した」「わかった!」
GXが泡を立てて荒れ狂う暗闇の海を進んでいく。


327:通常の名無しさんの3倍:2010/08/28(土) 02:51:55 ID:???.net

水中戦も三度目、たった三度で驚くほど上達した。
今のガロードならそこら辺の水中用MSに後れを取ることはないだろう。
アムロはもう見えなくなったGXにそんな思いを浮かべながら、ドーシートⅢを切り裂いた。
(ハリケーンが来ている。フリーデンは姿勢制御で手一杯だ。守りを厚くする必要がある)
魚雷の数が増えているように感じた。
向こうも遠巻きに攻めているのか……ガロードはまだ敵の頭を叩けないでいる?

――でもその前に、フリーデンを沈めよう……兄さんに内緒でね

「この邪気……ッ!」
GXが向かった先、おそらく敵の戦艦がいるであろ場所から、アムロは敵意を感じた。
それは以前にも戦ったことのある……
「確か、フロスト兄弟と……魚雷ッ!」
殺意の乗った魚雷はNTであるアムロが落とすに容易い。
それを不意打ちでGXをアシュタロンのアトミックシザースにて捕まえ
勝利宣言と共に魚雷を発射させたオルバが予測するのは難しかった。
アムロが敵にガンダム(それも水中も戦闘領域であるアシュタロン)が居たことを読めなかったように
オルバもアムロの技量を(腕が立つとは理解していたとはいえ)読み切れてなかったのだ。
だが、GXを捕らえたオルバが未だ優位にある。
「ガロード!」
アムロは逡巡する。ガロードを助けに向かうか否か。
ガロードを助けに向かえば、ウィッツとロアビィは魚雷を捌ききれずフリーデンが窮地に陥るだろう。
だが、ここでフリーデンを守っていれば確実にガロードは殺される。
6:4、いや7:3でアムロはガロードを見捨てることを考えた。
それは戦争の中で生きてきた人間の哀しい性だ。
魚雷の第二射がフリーデンに向かってくる。
『大丈夫、彼女が力を貸す……』
「何ッ!?」

その瞬間、ローレライの海にある全ての機械が息をひそめた。

「今、俺の心に触ったのは、誰だ……」
優しく、温かく、そして寂しい、女性だ。
『彼女はルチル=リリアント……かつて、ジャミルと同じ時を過ごした、仲間……』
(語りかけてくるのは……ティファ? 一瞬、別の……男を感じたが……)
疑問と同時に、別の確信がアムロの脳裏を過ぎった。
あの写真の女性……それがルチル=リリアントなのであろうという確信だ。




第十八話「ジャミルの、仲間……」


328:通常の名無しさんの3倍:2010/08/28(土) 03:17:08 ID:???.net


何故にヤムチャw


332:通常の名無しさんの3倍:2010/08/30(月) 23:00:06 ID:???.net

オルバ=フロストとマーカスらオルクを退けたアムロ達はフリーデンに帰還する。
キッド達メカニックが修理に駆り出される中、気絶したティファが眠る医務室に集まる主要メンバー。
「ルチル=リリアント……知っているんだな、ジャミル」
「ルチル=リリアントは、早い時期からニュータイプとして覚醒したため
 連邦軍の教育士官となって、ニュータイプパイロットの養成を行っていたのだ」
ジャミルの説明を受け、サラが想像した。
「では、その彼女が、オルクの潜水艦に捕らえられているのでしょうか?」
だからティファとシンクロし、助けを求めた……トニヤが続け
「だったら話は決まった! 早速そのルチルって人を助けよう!」
躊躇うことなく、ガロードが言った。
「………」「なんだよ、アムロ?」「……いや」
見捨てていい少年じゃない――アムロは再認した。
「彼女は革命軍との戦いの末、精神を破壊し尽くされたと聞いている」
「精神……?」アムロの脳裏にカミーユ=ビタンの幻影が過ぎる。
「その通りよ」ティファが起きあがる。しかし、それはティファでありティファではない。
ティファの身体を借りたルチル=リリアントは、その訳を語り始めた。
「ジャミル、『Lシステム』っていう言葉を聞いた事あるでしょう?」

Lシステム……
ルチル=リリアントの精神をフラッシュシステムの応用で増幅する物で、
一定範囲内の電子機器等を用いた兵器を使用不能とする兵器。

「本来の私は、もう存在していないのも同じなの。ただあるのは、戦いに対する嫌悪だけ。
 でも、機関の人間は、戦いを憎む私の心まで利用したわ」
ルチルは哀しげに喘いだ。
「もう私は、誰にも利用されたくないの」
それをジャミルはどのような顔で聞いているのだろうか。
ジャミルの背中を見、アムロは考えた。
「よーし! やろうぜ、みんな! ルチルさんを助け出すんだ!」
再び、ガロードが叫んだ。



マーカス一味を追う為、フリーデンの航海士シンゴ=モリは海流を利用するルートを割り出した。
その許可をジャミルに受ける為に、サラは艦長室へと足を運び、ドアノブを手に欠けようとして
すでに扉が開いているのに気付いた。中からアムロの声が聞こえる。

「大切な女性(ヒト)だったんだろ、ジャミル……」
「……言葉には、したくない思い出もある。彼女の事もそうだ。
 口に出してしまったら、何か大切なものまで消えてしまうような、そんな気が……」
「三十路男のセンチメンタルなんて聞いていられるか」
イラついている……アムロは自分でもハッキリと自覚できた。だが止めようもない。
結局、自分もまだ未熟なのだ。
「ジャミル、"あれ"はお前は言うべきだった!」
「"あれ"?」
「ルチルを救うってことだ。彼女も、お前の口から聞きたかったんじゃないのか!?」
押し黙ったジャミルに、アムロも暫く付き合った。
ジャミルの態度を批難はしたが、アムロがジャミルの立場だったとしたら同じ態度だったろう。
だから結局のところ、アムロは自分自身を詰っているのかも知れない。
「……綺麗な人だったな」「ん?」「写真を見た。引き出しの中の。……悪かった」「そうか」
別の世界に来たはずなのに、どうしてこう古傷を抉られてばかりなのだろう……
「気持ち、分かるよ……」
アムロはもし、自分をこの世界に連れてきた者がいるなら、そいつを殴り飛ばしたかった。
「ガロードからGコンを奪ってこい。今はお前がGXで出るべきだ」
「アムロ……」
「お前の、戦いだろ? ジャミル……」


333:通常の名無しさんの3倍:2010/08/30(月) 23:06:07 ID:???.net

アムロは作戦前にルチルと面会した。
身体を貸しているティファの事を考えて、作戦にはいるまでは医務室でテクスが付きっきりなのだが
別世界のNTであるというアムロの事情を知っているテクスは、許した。
「えっと……ルチルさん?」「ルチルでいいわ、アムロ」「……俺の事を?」「聞いていたから、"カレ"に……」
"カレ"と言うのに違和感を感じたが、時間もないことなので、アムロは自分の用件を伝えた。
「Lシステムを破壊した場合、君は眠りから覚めるのか?」
NTを閉じこめたシステム……アムロは自分のいた世界で、そのような例を聞いたことがある。
1年戦争の後、ニタ研で被検体のような扱いを受けた期間の事だ。
確か名前はEXAM。そう、ニタ研の中にそれに関わっていた研究者がいた気がする。
それに、それを連邦で運用していたモルモット隊出身のサマナ=フュリスは訓練学校の教官で
彼が育てた新兵を部下に持った事もある。直接の面識はないが、彼は卒業生に「絶対に生きて帰れ」と訓示を与えるらしい。
現場で戦う時間の方が長く、充実しているアムロにとっては、彼の方がまだ身近に感じる。
NT関係の実験などは逆に嫌悪感しか催さないのだが、記憶の糸と手繰ると
EXAMは元々はジオンのフラナガン機関が開発したシステムで、その開発に関わっていたNTの少女は
システムの起動と同時に意識を失い、植物状態になっていたが、EXAMの実験が凍結すると意識と取り戻したという。
そういう『前例』を、アムロは期待した。
「私の心は、もう僅かしか残っていないわ……」
ルチルは静かに答えた。穏やかにも、哀しげにも、苦しげにも見える。
「海の底は宇宙(ソラ)の色に似ていたわ」
「黒に?」
「貴方には宇宙が何も映らない黒には見えていないでしょう?
 貴方は宇宙には心が満ちていることを知っている人だもの」
知っている。けど、直視できる程の純粋さをアクシズを押し返したあの時まで、忘れようとしていた。
アムロは胸に締め付けられるような痛みを感じた。
「宇宙は、世界が違っていても変わらないのね」
ルチルはアムロの胸に手を当てた。ティファの小さな手が、ひどく大きく感じられた。
「私を呼ぶ人は、もういないけれど……」
「俺だってそうさ」
「違うわ。貴方は呼ばれてこの世界にきたのよ、アムロ。
 そして貴方の世界にも、貴方を呼ぶ人がいる。
 命を大切にしなさい。アムロ、貴方は帰らなければいけないわ」
「ルチル…ルチル=リリアント……」
シャアを止めて、それでアムロは自分の人生を一つ終えたという手応えがあった。
この世界に来て、時々、恐ろしいほどに元の世界に帰りたいと思わないでいるのも、それが理由だと思った。
そして、この世界で守るべき人も、モノも見つけたと思った。
だから……最近はこの世界で死んでもいいと考えていた。
「……もう少し、厳しい人だと想像していたよ」
「海で眠っていて、穏やかになれたのよ」
ルチルはクスリと笑った。とても魅力的な微笑みだった。



MSデッキでアムロはロアビィとすれ違った。
「少し気合いが入りすぎてないか?」
「そっちこそ、やる気満々って顔しているよ」 
いつも飄々としているこのフリーのMS乗りが、今日はピリピリと張り詰めた空気を纏わせている。
本人は隠そうとはしているし、ウィッツ辺りは気付かないだろうが。
「ジャミルに会わせてやらなきゃね。ルチルって女性(ヒト)に」
「ロアビィ……?」
「たとえ、どんな姿になってたってさ」
アムロが知る由もないことだが、ロアビィは恋人を失っていた。
それも、ロアビィがMS乗りとして外に出ている間に。
彼は故郷を失った。彼にとって帰る故郷とは、その恋人の事だったからだ。
「ああ……」
アムロはドートレスに乗り込む。GXにはジャミルが乗っている。


334:通常の名無しさんの3倍:2010/08/30(月) 23:15:11 ID:???.net

「へっ…今日は隊長面できなくて残念だったな、アムロ」
ウィッツが通信で割り込んでくる。
「肩の荷が下りて丁度良いさ」
「おい、俺達がお荷物だって意味じゃねぇだろうな」
「俺"達"じゃなくて俺"が"でしょ?」
「んだと?ロアビィ、テメェ!!」
アムロは笑った。戦闘前に入って平常のテンションに入るのは流石だ。
ウィッツもロアビィも、頼もしい仲間だった。
「……二人とも、死ぬなよ」
リュウさん、マチルダ中尉、スレッガー中尉……みんな戦争で死んでいった。
一年戦争を生き残ったハヤトも、ネオ・ジオンとの戦いで散った。
ケーラ=スゥも助けることはできなかった。
「そう言うアムロも勝手に死ぬんじゃねーぞ。
 ……死んじまったら、生きてるヤツに文句も言えなくなるんだからな」
ウィッツの言葉に、全くだとアムロは頷いた。
今頃、ブライトがミライさんに自分の事を過去形で語っているとしたら……それは面白くない。
(そうだな……戻ったら、久々にみんなに会いに行こうか)
ミライさんにフラウ、カイさんに……
「セイラさん……」
なんとなく疎遠になってしまった、年上の金髪の女性の名をアムロは口に出した。
いや、疎遠にしてしまった理由に心当たりはあるのだが、二十九にもなってそれを口に出すのは気恥ずかしい。
「ジャミルのせいだな」
「ハロ!ハロ!セイラサン!ジャミルノセイ!」
「おい、何時の間に乗り込んでいたんだ!?」
ハロ2号機が足元から転がり現れる。今更下ろすわけにも行かないし、演算処理の役には立つかも知れない。
そう、アムロは諦めて操縦桿を握った。
「アムロ=レイ、でます!」



アムロ達はジャミルの突撃を援護する。
それは必ずしも敵に勝つ最適の戦術ではなかったかも知れない。
だが、アムロ達の目的はジャミルとルチルを会わせることだった。
この戦いの主役はジャミルなのだ。
それに……
「へ……頼もしいじゃないの!」「ああ、ジャミルのヤツ、はりきってやがるな」
ロアビィとウィッツが語るように、GXを先頭にしたこの陣形も悪くない。
トップのジャミルの戦闘力が高いからだ。
ジャミルは戦えば戦うほど、動きが良くなっている……アムロは感じた。
戦いの勘を取り戻しているのだろう。
対して、マーカスの船はまだ修理が終わらず、速度が出ないでいる。
勝敗が決するのは時間の問題かと思われた……
しかし……
「二時方向に船影発見!」
トニヤの声に、敵の援軍を確認したアムロは、小さく驚いた。
アムロもこの世界でバルチャーと戦ってそれなりの時間を経たが
マーカスの援軍に現れた船の大きさ、数は見たことのない規模だったからだ。
「なっ…なんて数だ!」 「オルクっっつーのも、バカに出来ないもんだねぇ」
その船からぞくぞくとドートレスフライヤーが発進する。瞬く間に空は三ツ目の巨兵に埋め尽くされた。
「あれだけの装備を持っているのは……ッ」
「ジャミル、考え事をしている場合じゃないぞ」
叱咤しながら、しかしアムロも違和感を覚える。
敵の動きに統制が取れすぎている。それだけなら規模の大きいバルチャーには稀にあることだが
その行動が尽く合理的で、アムロも良く知っているものだった。
(軍隊……!?)


335:通常の名無しさんの3倍:2010/08/30(月) 23:22:19 ID:???.net

「ハロッ!アムロ!ミギ!テキ!」
「分かっている!」
振り返り、アムロは相手の頭を撃ち抜いた。
今度は左から仕掛けてくる敵にも反応する。
アムロは強かった。
だが、MSを撃ち落とす間、時計の針は確実に進む。それはジャミルとルチルの距離をひらかせた。
「まずい、艦隊と合流される」「マズイ!マズイ!」
マーカスを追おうとするアムロの背後をドートレスフライヤーが追いかける。
「くそっ!」
舌打ちし、振り返って撃墜しようとした時だった。
アムロが引き金を引くより早く、敵MSは爆散した。
「フリーデン!?」
それはフリーデンの主砲の攻撃だ。フリーデンが自らの危険を顧みず、戦闘区域に進軍してきたのだ。
「誰の判断だ?」フリーデンの甲板に降りたアムロが訊ねる。
「ジャミルだったら、きっとこうするだろ!」ガロードが答えた・
「いい度胸だ!」戦機を見極め、重要な時に死地に踏み込む胆力は、戦闘指揮官に必要不可欠の才能だった。
「キッド、アレを出してくれ!」
アムロに促され、メカニック達がメガバズーカランチャーを運び込む。
ドートレスの全長より長いそれを抱え、アムロは敵の大軍に向けた。
銃口の反対、銃底からはコードが伸び、フリーデンと直結している。
「シャアよりは上手くやってみせるさ……」「ハロ!ハロッ!」
コクピットのハロが仰角の修正を指示する。
アムロは唾を飲み込んだ。
「いけえぇぇぇぇーーーー!!」
高出力のビームが、雲を切り裂き、MSを飲み込み、空に穴を穿つ。
「ジャミルッ!」
アムロはジャミルの道をつくった。
「レオパルドはフリーデンを守れ! エアマスターは私について来い!」


フリーデンが走る。
フリーデンを守ろうとレオパルドが銃弾を散撒く。
ドートレスはメガバズーカランチャーを抱えながら、ビームマシンガンでレオパルドのフォローをしている。
GXの周りを衛星のように守り戦っていたエアマスターは、潮時とGXを先にに行かせ殿を買って出た。
「まだまだっ!」 「屁とも感じねぇぜこの野郎!」
GXがディバイダーを展開し、前面の敵を排除する。
しかし左右から敵が回り込み、その足は止まる。
だが、GXは猛ることを辞めなかった。
「ルチルは渡さん!!」
フロスト兄弟のガンダムも戦場に現れ、混戦はいっそう加速する。
「うっ……今日のGXは一味違うね!」
「オルバ!」
チャージが終わったメガバズーカランチャーがアシュタロンの爪先を焼き溶かした。
「ちぃっ…!」
アムロが狙撃に専念した分、フリーデンは被弾する。
揺れる艦橋で、しかし誰も悲観はしてない。
「大丈夫! まだまだ行けるぞ!」 「敵艦まで、あと2000!」 「よぉし! もう少しだぁっ!」

――ジャミルは、いい仲間を持ったわね

右翼から煙を噴いたドートレスフライヤーが、玉砕攻撃を仕掛けてくる。
「ちぃっ……」「シヨウフノウ!シヨウフノウ!」
MS本体はかわすことができたが、メガバズーカランチャーを失った。
さらによろめくアムロに、たたみ掛けるように敵が群がる。
「それが……どうしたっ!」
壊れたメガバズーカランチャーごと殴りつけ、敵を甲板に叩き沈める。
「ルチルッ!」
「ルチルさん!」
「ルチルゥゥーーー!」


336:通常の名無しさんの3倍:2010/08/30(月) 23:27:31 ID:???.net

――私なんかのために、みんなこんな必死でやってくれるなんて……私も、それに応えなきゃ……

ゾワリ…とルチルの隣にいたガロードは肌が栗立つのを感じた。
OTであるガロードが、はっきりと感じるほどのNT能力の発露。
「力を使います」
サラが驚く。Lシステムはすでに敵に無力化されている筈だ。
「別の力を」
それは一人では不可能だった。
正確に言えば、MSに乗っていない今のルチルには不可能……
『ジャミル、フラッシュシステムを使いましょう』
「フラッシュシステム?」
ルチルのジャミルへの感応を、アムロも感じ取った。2つの世界のNTは別物だが、重なり合う部分があるのか。
『大丈夫よ。私が、力になるから……』
ジャミルとルチルの意志が混ざろうとしている……だが、それは容易ではない。所詮、二人は別々の人間なのだ。
「うぅっ、ぐぅっ…だ、駄目だ! 君と一つになれない!」
『諦めては駄目! 思い出すのよ、あの頃を!』

その瞬間、光が奔った。
ジャミルとルチルの力が発露し、Gビットと呼ばれるこの世界の最強の兵器が飛び立った刹那の瞬間
アムロは夢を見ていた。
壊れたコアファイターから、飛び出した過去を。
蒼い、宇宙で、自分の名前を呼んで、待ってくれたホワイトベースの仲間達を。

「アムロ!アムロ!ナミダ!」
ハロに指摘され、アムロは自分が泣いていたことに気づいた。
それを拭い終わった頃には、戦いは終わっていた。
Gビットは圧倒的な力で、この海域を制圧してしまっていた。

――ジャミル、後始末をお願い……

敵が撤退し、戦いの残骸が浮かぶ海で、12の僕を従えた騎士はローレライの願いに頷いた。
「ああ、わかっている」と。
Gビット達は動かない。機械の傀儡は勝利に喜びも悲しみも持たない。
これは十五年前、とっくに朽ちていなくてはならない、人形だ。
「こんなモノは、もういらないんだっ!」
一つ一つ、ジャミルはGビットを撃ち落としていった。
僅かな感慨も感傷もなく、次々と……恐れと後悔が、彼を急かすのだろうか。
海鳥が一つ嘶く頃、海の上に立っていたのは盾を背負う、双眸の巨人だけだった。
「ハロ…」
アムロはコクピットで鳴く相棒の頭を、静かに撫でた。


337:通常の名無しさんの3倍:2010/08/30(月) 23:30:11 ID:???.net

        ――また逢えて嬉しいわ、ジャミル――
      ――これでもう思い残す事は、何も無い――

          ――これで全てが終わるわ――

       ――どうせ僅かな心しかない私だもの――
       ――私が死んだら、元いた海に沈めて――
  ――海の底は、静かで安らいだ気持ちでいられたから――

  ――なんだか眠くなってきたわ……もうそろそろね……――
          ――とっても気持ちがいい……――

 
          ――まるで、夢を見てるみたい――


 ――私、嬉かった……大人になった、貴方に逢えて……――
  
           ――さようなら、ジャミル……――




Lシステムから解放されたルチルの身体は、ジャミル達が改めて埋葬した。
棺の中、生前のままに美しい金色の髪が夕日に反射している。
彼女の遺言通り、その棺は海へと沈められた。
「あの人は、幸せだったのかな……?」
ポツリとガロードが呟いた。
「さぁな…」
「知っているのは、本人だけさ」
ウィッツとロアビィが答えた。
「だけど…」
ティファが紡ぐ。
「あの人を受け入れている間、私は、暖かく安らいだ気持ちでいられました」
それはルチルの為に闘った、フリーデンの、ジャミルの仲間達には救いだったろう。
「キャプテン……」
「すまん……しばらく、一人にしておいてくれ……」


アムロは空を見上げた。
夕焼けの赤は夜の青と混ざり合い、紫色のグラデーションを描いている。
「………」
今日、自分達がルチルの名前を呼んだように、あのア・バオア・クーの戦いで
ランチに乗っていたセイラさんやブライトは自分の名前を呼んでくれたのだろうか?
アムロは想う。
そうだろうと。
だから、自分はあの時、帰ることができたのだ。

――今も?

アムロは空へ問いかけた。
答えは返ってこない。
だが、ルチル=リリアントはアムロに一つの指針を与えていた。

――もし、貴方が帰ることを望むのならば、その道は……




第十九話「宇宙(ソラ)へ……」


342:通常の名無しさんの3倍:2010/09/01(水) 00:57:26 ID:???.net

GJ!!
切ないなぁ……(;д;)


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もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら☆
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もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 3(未完SS)☆
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もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 4 (未完SS)☆
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もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 5 (未完SS)☆
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