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131 : 2016/10/20(木) 04:29:26.01 ID:w48dJ83y0


――MSWAD基地・上空――




 陽は既に直上。
 雲一つない蒼天に、影は三つ、翻る。
 見上げる者は数知れず、固唾を呑んで影の一つを目で追っていた。
 
 行われているのは特殊なペイント弾を使用した模擬戦闘。
 二機のユニオンフラッグを相手取り、一機の特殊仕様フラッグの試運転が始まっていた。


「やれますかね、教授」

「分かってて言うのは意地が悪いぞ、カタギリ君」

「失敬。ですが、今回ばかりは鬼胎も芽生えるというもので」

「はっは、こればかりは、我らのさがよな」


 緊張感さえ漂う周囲の空気をよそに、椅子に腰掛け脚組みしながらの観戦に興じる技術者師弟。
 黒の一機を執拗に追い回す淡水色の二機は、旋回と加速を繰り返す標的に食らいついて離れない。
 だが、それでも先行する機体には一発の弾痕さえ確認できず。
 現在発射数、二機を合わせて三十五。
 空に映えるEカーボンの黒色装甲は、ただの一撃さえ許していないという何よりの証拠であった。

 大きく弧を描く三機が空に白を塗りつける。
 制動後に三発、続けて五発。
 追跡者の放った模擬弾は、舞うように回る獲物のすぐ横を通り抜けて、一定距離を進んでから自壊し散った。
 またもや魅せた見事な回避と、オーディエンスは沸き立ち騒ぐ。
 依然、憮然の師弟二人。
 不満げにグラスの氷が音を立てた。


「反応は上々、横ブレも少ない。綺麗な操縦です、が」

「遊んどるんじゃよ、あの阿呆。お上品な運転をしおってからに」

「珍しいですね。社交界デビューのお嬢さまかな?」

「羊の皮にはご退場願え。あやつの本性に付いていけないようでは乗せん方がずっと良い」

「合点承知。十二時の鐘の音は聞こえたね、グラハム?」


『了解した――とくと御覧じろ、御二方』

【ガンダム00】沙慈「僕の義兄はフラッグファイター」
http://gundamlog.com/archives/48465740.html

【ガンダム00】沙慈「僕の義兄はフラッグファイター」…その2
http://gundamlog.com/archives/48583919.html



132 : 2016/10/20(木) 05:01:29.10 ID:w48dJ83y0


 歓声がどよめきに変わり、師弟の顔には笑みが浮かぶ。
 漆黒の機影が、一度再加速を始めた瞬間に、それは起こった。
 一挙に、瞬く間に、追随する二機が離されたのだ。
 
 その速度差、優に倍以上。
 二機のフラッグのぶれが、パイロットの動揺を感じさせた。

 そして次の瞬間、どよめきは歓喜の絶叫に変わる。
 師弟は、コーラの入ったLサイズグラスを優雅に傾け乾杯。

 機首を上げた特殊仕様フラッグ。あまりの上昇速度に二機の反応さえ置き去りにして。
 幾多の視線の目の前で、収納されている四肢を大気に投げ出し、一瞬のうちにスタンド・モードへと移行したのだ。
 高速飛行からの、急上昇中に見せつけられた、流れるような空中変形。

 これこそ、人呼んで【グラハム・スペシャル】
 
 フラッグファイター最優のトップガンにのみ操れる、世界最高峰のMS変形マニューバである。


『勘弁して下さいよ、隊長……!!』

『二階級……特進か……!?』
 

 飛び上がってからの変形、宙返りのように三次元的な旋回を果たすフラッグ。
 虚空に確かに腰を据えるような安定機動、その足の真下を通過しつつある二つの機体を見据え、武器を構える。
 左手に握ったリニアライフル【XLR―04】が火を噴けば、回避機動さえ読み切った四発が一機を真っ赤なペイントに染め上げる。
 たまらず右旋回で遠のく残存機に、彼は悠々堂々と構え直す。
 コンソールが【最大充電】のマークを躍らせれば、引き金とともに飛び出す一撃は先程のそれとは比較にならぬ高初速。
 酷く外した狙いから放たれた一射は、吸い寄せられるように射線に逃げてきた機体を撃ち据えて。

 ふざけて鳴らされたホイッスルを合図に、模擬戦を性能証明と兼ねて終了させるのだった。


 ・
 ・
 ・
 ・



ビリー「やあやあ。お疲れ様、グラハム」ファサ

グラハム「ああ、助かる。カタギリ」ハシ

グラハム「どうだったかな、狼の牙の切れ味は?」

ビリー「最高。そっちはどうだい、こいつの乗り心地は」

グラハム「申し分ない。考えうる限り最強のMSと言えような、このカスタマイズドフラッグは」

ビリー「ガンダムを除けば……だけれどね」フフフ

グラハム「言うな盟友、威光が陰るわけでもあるまいに」 



136 : 2016/10/22(土) 02:49:57.95 ID:yAMUn+DQ0



ダリル「隊長、お疲れ様です!」

ハワード「お疲れ様です!」

グラハム「うむ。ご苦労だった、フラッグファイター諸君」

ビリー「いやいや、お見事だったよ二人とも。グラハムの反応に合わせて調整したフラッグに、最高速を出されるまで並んでみせたんだから」

グラハム「あそこまで食いつかれるとは思わなんだ、驚嘆に値する。背を預けるに十全の力量、誇らしいよ」


ダリル「隊長が三連戦の後でなければ、賛辞も心から受け取れるんですがね」ハァ

ハワード「こちとら必死になって追っかけてたってのに、最後はあっさりですもんね。格の違いを見せつけられましたよ」ハハッ


グラハム「おっと、それ以上は非MSWAD隊員の心象を悪くする。静粛に頼むぞ」

ハワード「はっ、失礼いたしました」

ビリー「前半戦はグラハムスペシャルですら出さないままだったからねえ」

ビリー「……というか、君が彼らの段階で本気と性能を見せてくれていれば済んでた話なんだけれども?」チラッ

グラハム「この性能に相応しい対象、状況というものがあるものだよカタギリ」

ビリー「おっと、それ以上は非MSWAD隊員の心象を悪化させかねない。静粛に頼むよ?」シー

グラハム「はは、これは失敬」


グラハム「では、少し汗を流してくるとしよう。後は任せる」

ビリー「ごゆるりと、Mrスペシャル」


ビリー「……ん」


『いやあ、素晴らしかったですね教授!!』

『これなら提供した甲斐以上があったというものです!』


ビリー「さて……あっちの相手もしてくるかな」スタスタ








137 : 2016/10/22(土) 03:03:59.56 ID:yAMUn+DQ0

エイフマン「ふむ、ふむ……」

技師「従来とは一線を画す大出力バックパックスラスター、そして新機軸の特殊電磁加速砲【XLR―04】」

技師「ティエレンだって抜いてみせるこいつの最大出力射に倍以上の足回り、そして中尉の技量ならガンダムにだって遅れを取りませんね!」

アイリス社重役「どうでしょう、このままこの特殊仕様を正式量産型のラインナップに……」

ホーマー「……選択肢には、入れておこう」

エイフマン「ふん……相手は数世代先をゆく正真の怪物じゃ」

エイフマン「これらを数揃えたところで、どこまでやれるかどうか、な」

技師「はぁ……」

ビリー「教授、運び込み、終わりました」

エイフマン「ご苦労。では、今日は失礼する。調整が山積みでね」

エイフマン「……本気に受け取るなよ」ポン

ホーマー「馬鹿になされるな。分かっております」

アイリス社重役「は、失礼致します。では、吉報をお待ちしていますよ」

ホーマー「ビリー、私は戻るが、やつの首輪は確かめておけよ」

ビリー「了解、善処します……と」




ビリー「技師の人、苦い顔してましたね」

エイフマン「それはそうだろうよ、現行機を凌駕するこのカスタムフラッグに賞賛が無いのだからな」

ビリー「素直に言ってみたらどうです、【このフラッグですら、ガンダムには遠く及ばない】って」

エイフマン「儂はグラハムとは違う。他人に事実のみをぶつけて泣かせる趣味は持ち合わせておらん」

エイフマン「……だが、この事実をぶつけねばならん相手は、少なからずおったようじゃがな」

ビリー「正式量産……これを集めても被害総額に上乗せが入るだけですね」

エイフマン「あくまでコイツを完全に操れる中身あっての話よな」


パサッ


ビリー「……それは?」

エイフマン「先日の三点同時武力介入における各地域の被害状況、そして現状かな」



138 : 2016/10/22(土) 03:07:54.74 ID:yAMUn+DQ0

エイフマン「ガンダムは資源採掘場と麻薬生成地域を攻撃、そしてセイロン島への再度の武力介入に踏み込んだ」

エイフマン「テ△りストの資金源、国家の運営資金、そして二国への介入行動で事態を悪化させた人革連、全てへの抑止及び警告行動を取ったわけじゃな」

ビリー「結果、世界的にテ△行為、紛争地域の活動自粛、無期限停止宣言が広まりつつある……と」


エイフマン「それはそうじゃよ……本来紛争とは【窮鼠の足掻き】なのじゃ」

エイフマン「政治的、経済的に追い詰められた民族、集団が意地を通す最後の手段。それが通らねば文化も共同体も霧散し、アイデンティティを毟られる、そういうものなのじゃ」

エイフマン「あのような圧倒的な存在に自分らの経済基盤ごと粉砕されるとあっては、もとよりやせ細ったねずみでは牙さえ向けられまい」

ビリー「その足掻きで稼ごうと大国は支援という名の経済活動を行い、弱みに付け込むテ△の無差別攻撃が無辜の人々の安息を脅かす。彼らの活動自体には、考えさせられるものがありますが」

エイフマン「奴らに対抗しうるのもその二つだけかな。三大国に国際テ△ネットワーク……さて、誰が先に牙を剥くか、誰に牙が剥けられるか」

ビリー「――少なくとも【誰かが誰かを直接的に殺害する行為】への嫌悪はあっても、【資金や産業を持たず飢えて死ぬ結果】への呵責は、持ち合わせていないように感じます」フイッ


エイフマン「見せしめじゃな。此度の武力介入、あらゆる手段で紛争継続を阻止するという、公開処刑じゃ」

エイフマン「その結果、経済が崩壊しようとも……いや、むしろそれが狙いなのか……」

エイフマン「まあともかく、ガンダムの思想には大局的とはいい難い思考も見られる……が、かねがねインテリジェンスから生まれた行動ではあるな」

ビリー「全ての武力が戦争幇助に繋がるという行動だけはしていないから、ですか」

エイフマン「武力の一切放棄から転ずる完全平和主義(もうげん)なんぞ唱えはしないかとヒヤヒヤしておったが、まあ、今は様子見かな」



ビリー「はてさて、この介入に対しいち早く行動を見せたのはAEUでしたね」

エイフマン「PMCへの働きかけの強化、イナクトの集中配備。近日間違いなくソレスタルビーイングへ挑発行動を取るだろうよ」

ビリー「結果は、吉と出るか凶と出るか」

エイフマン「こんなもの、ババしか残らんカードゲームじゃ」

エイフマン「だが、こちらも当初の【フラッグ計画】を見直さねばならんかも知れん。時勢を見誤れば奈落、いつの時代もな」



139 : 2016/10/22(土) 03:12:58.02 ID:yAMUn+DQ0

ビリー「おや、【グラハム・エーカー量産計画】と呼ぶと決めたんじゃあないんですか? 教授」

エイフマン「それは我々の間での裏コードのようなものよ。そんなものを上には見せられまい」ワッハッハ

エイフマン「難しくはないはずなのだがな、空中変形の制動解析、OSへの登録……全機体の空中変形の半自動化、な」

ビリー「現状、一回やるだけで関節への負担で機体を丸々調整しなきゃならなくなりますからねえ」

エイフマン「これが完成すれば、運用面でフラッグはイナクトを凌駕し、ティエレンを歯牙にもかけぬ存在になるはずだったのじゃがな」

エイフマン「故に、欲しくもなろうというものよ……」

ビリー「ガンダムの性能……その秘密、ですね」



グラハム「カタギリ」

ビリー「おや、早かったじゃないか。どうしたんだいグラ……」

バサッ

ビリー「……ははは、見てくださいよ教授」

エイフマン「ん?」

グラハム「JNNの広報用ポスター、ソレスタルビーイング特集の一面を印刷してきました」

グラハム「ここに大きく載った画像こそ、我々が彼女に提供したうちの一枚なのですよ」


エイフマン「え、何? まだ続いとったの、お主ら」

ビリー「今更そこですか教授?」

グラハム「ふむ、しかし流石はマスメディアだ。あの中から確かに一番と思える一枚を選択している」

ビリー「ブレと掠れ具合がかえって躍動感を煽るような映りに変わっているね」

グラハム「先程通信を受けたよ、酷く喜んでおられた」

グラハム「甲斐があったとはこのことだな。ふふ、妙にむず痒い」

ビリー「自分たちで撮ったわけじゃあないけれど、もともと余りの画像だし、有効活用は嬉しいもんだねぇ」

グラハム「次は更なる朗報を聞かせられるよう精進せねばならんな!」

エイフマン「……」

エイフマン(何と言おうか)

エイフマン(飼い猫がネズミとか獲って飼い主に持っていくような、そんな空気じゃな)

ビリー(でかいネコだなあ……豹かな?)



140 : 2016/10/22(土) 03:24:27.81 ID:yAMUn+DQ0

エイフマン「……」ハァ

エイフマン「そのための力ならくれてやる、努々努力を怠らぬようにな」

グラハム「上等、一層の高みでもってその施しを受け止めましょう!」バッ

ビリー「お次は何処へ? フラッグファイター」

グラハム「今度こそシャワールームだ!」

ビリー「二度目のごゆるりと、グラハム」


エイフマン「元気なものじゃな。他の兵士などは、命惜しさに軍を抜けようとさえしておるというに」

ビリー「グラハム・エーカーとはそういう男なんでしょう。二の次なんだと思います……そんなものでさえ」


エイフマン「……そのための力か……むしろ、この程度しかくれてやれん己の無力さに歯がゆくなるよ」

ビリー「彼なら大丈夫ですよ教授、概算される敵機の速度には追随可能です、後は……」

エイフマン「足らぬさ。追いつけても決定打にはならず、機動性は言わずもがな」

エイフマン「此方は可能な限りの軽量化のつけで、紙くず同然の装甲で飛ばしているというに」

エイフマン「奴らはティエレンの長距離砲ですら弾いてしまうのだからな」

ビリー「……」

エイフマン「あぁ……奴は止まらない」

ビリー「そこが彼の強さであり、脆さでもある」

エイフマン「かつて話した通りだよカタギリ君。支えてやれ、出来る限りを尽くしてな」

エイフマン「たった一人、されど一人……時代の流れに、ああいう男は居た方が面白い」ニヤリ

ビリー「ええ……全面的に同意いたしますよ、プロフェッサー・エイフマン」ニコリ

 ・
 ・
 ・



絹江「いーそーがーしいー……!!!」グデー


――JNN――


同僚「どうしたっすか絹江さん、せっかくボーナス入ったってのに」ズズー

絹江「コヒー、ちょうだい」

同僚「一ドル」

絹江「ケチ!」

同僚「自費のお高いやつっすから」ズゾゾ



141 : 2016/10/22(土) 03:32:22.29 ID:yAMUn+DQ0

絹江「ええ、ええ! おかげさまでもっと画像や情報ねだれって上からもせっつかれる毎日よ!!」ずずー

同僚「まいどー。いいじゃないっすか、ねだれば。友達なんでしょ、その人」

絹江「あの人にそんなことしたらどうなるか……ゴミでも見るような目で着信拒否が残当よ……!」ガクブル



想像上のグラハム『資本主義の豚め』ジトー



同僚「あの人」

絹江「あー……知り合いの軍人さんよ。気にしないで」

同僚「ふーん……」


同僚「その人、大丈夫、なんすかねえ」ズズー


絹江「え?」


同僚「だって、ガンダムでしょう? 相手は」

同僚「ぶっ壊された最新鋭MSのイナクト、乗ってたパイロットはAEUでも指折りのエースだって話ですよ」

同僚「そんなすごい組み合わせでもあんなに簡単に壊されちゃうってんだから、軍人さんは保険に入れなくなるんじゃないかって、うちの旦那が」

絹江「……だ、大丈夫よ、その人、フラッグに乗ってるし……」

同僚「性能調査で、イナクトとほぼ同等だったらしいっす、フラッグ」

同僚「悪いこと言わないから、軍を辞めといたほうがいいんじゃないですかね。このご時世、どうなるかわかったもんじゃないっすけど」


絹江「……私が、どうこう言えることじゃあないわよ……そんなの」


絹江(ええ、そう……言えたもんじゃあない、私なんかが)


絹江(これだけ短時間の関係でも分かる……あの人は、グラハム・エーカーという人は、たとえ死ぬかも知れなくても飛ぶことを止めない人)

絹江(そうね……生きがいを無くすか、死ぬかなら、気持ちだけは分かる気がする)

絹江(沙慈がいる手前、同じようには生きられないけれど……)

絹江(でも……)



絹江「――なんかやる気、出てきた」

同僚「へ?」



142 : 2016/10/22(土) 03:48:08.45 ID:yAMUn+DQ0

パシンッ

同僚「おぉ?!」

絹江「っつうう……」

絹江「――!」グビッ

絹江「あちゅいっっ!!」ギャー

同僚「コントっすか?」

絹江「……よしっ!」

絹江(軍人だろうとジャーナリストだろうと、生き甲斐への情熱で誰かに負けてなんかいられない……!)

絹江(今起きていることはここ百年の中でも最大級の事件。スクープを目の前に及び腰なんて!)

絹江「父さんに合わせる顔がないんだから……!」


同僚2「どうしたの? また荒れてんの?」

同僚「知らね。なんかいきなりやる気出してる」

絹江「やるぞー!」ウオー

同僚「がんばれー」オー


PPPPPP!!!

『速報!! タリビアが声明発表! ユニオンからの脱退を表明した!!』

絹江「!」

同僚「うお、マジか……!」



「ユニオンが、ガンダムとぶつかるぞ!!」

絹江「始まる……のね……」


 ――タリビアは、ユニオンの太陽光発電の送電権がアメリカの一存で決められていると主張。

 ――自国が送電線の近隣にあることを活かし、ユニオンの脱退と電力の独自使用権を行使すると宣言した。

 ――即日、ユニオンはMSを搭載した空母艦隊をタリビアに派遣。

 ――タリビア危機、と後世では【揶揄】されるこの一件。

 
 ――世界は、ソレスタルビーイングの対応に注目、緊張は最高潮に達していた。




143 : 2016/10/22(土) 04:53:44.18 ID:yAMUn+DQ0




――が。


 ――タリビア・近海――


ダリル「軍は撤退を始めるそうです。ガンダムもいなくなった以上、ここにいる必要もありませんからね」

グラハム「熟知している。やはり、というべきなのだろうな」

ハワード「【ソレスタルビーイングは現在存在している紛争には介入できるが、存在しない紛争には介入できない】」

ハワード「それへの答えがこれというわけですか」

ダリル「今回の一件は、タリビアを紛争の発生原因として介入行動に出ましたが」

グラハム「タリビアがユニオン脱退を取り消した以上、介入は無用と引き返した」

グラハム「もっとも、あの一瞬の間で市街地のMS部隊は相当数が撃破されたと聞く」

グラハム「きっかけさえ掴めれば挑発行為にすら介入できる、いかなる場合でも、いかなる相手でも。それを示したわけだが」

グラハム「ただ、今回一番の利を得たのは……」


――――

絹江「ユニオンだった……というわけね」

沙慈「?? どういうこと?」


――自宅――

絹江「今回、ガンダムはタリビアの軍を攻撃。少なからず死傷者が出たわ」

絹江「タリビアを支援する名目でそのままユニオンはガンダムへ攻撃指示、以降の支援行動も相まって二国の関係は劇的な改善を見せた」

沙慈「雨降って地固まる、ってやつかな」

絹江「ええ、でもね沙慈。もともとタリビアは反米感情の強い、ユニオン加盟国の中でも対米勢力の一角だったのよ」コポポ

沙慈「ありがとう……それで?」

絹江「これでユニオン軍は自国領土へ攻撃されたわけでもなく、タリビアという自分たちの敵を味方に引き入れることに成功した」ズズ

絹江「対ガンダムを名目に送電ラインの安全強化が出来るというおまけ付きでね」

絹江「そして【紛争のきっかけを作ってもガンダムは介入行動に出る】という結果によって、他小国の脱退や二国への寝返りも抑制できるというわけ」

沙慈「タリビアはそれでいいの……?」ズー

絹江「ピえろを演じた見返りは、ユニオンとの関係を強めて送電量の優遇、現政権の支援と安泰、といったところかしら」

絹江「ソレスタルビーイングの行動は読まれていた……それを政治的に活用した【ユニオン】という連合母体がまんまと利を得た」


――――

エイフマン「だが、彼らもまた大きなものを得た」

ビリー「ですね」ハグハグ



144 : 2016/10/22(土) 05:33:10.49 ID:yAMUn+DQ0


――MSWAD基地――


エイフマン「今回ソレスタルビーイングが示した【紛争のきっかけを潰す介入行動】は、彼らを軽んじる芽を尽く潰すだろう」

エイフマン「二の轍を踏めば、今度はタリビアが得た利益の後追いから間違いなく【被害と利潤の追及】が発生する」

エイフマン「高度な政治的判断によって兵士が【捧げられた】のだからな。人命を利用し国家が利益を食らう……」

ビリー「政権維持どころか、そのまま大国に見捨てられて政権崩壊が関の山ですね」

ビリー「おまけにこのことにソレスタルビーイングは糾弾さえ受けない。彼らは昆虫的な目的遂行に殉じただけですから」

エイフマン「もう同じことはできん。見事よな、一回限りの博打にタリビア政権は勝ったのじゃ」

ビリー「タリビアの行動はそういった意味でも完璧だったわけですね。出来レースには無い、思惑の一致から来る最高の連携だった」



エイフマン「まあ、【利潤から来る紛争】に関しては答えは出たと言っていい」

ビリー「彼らがいる以上、封じられていると言っていい……か」

ビリー「フリでも、宣言を出せば国家の信用と威信が懸かる。国と個人の差が、彼らの行動の正確性を上げてしまうのですね」


エイフマン「まあ、それはさておき、我々が考える必要があるのはわずか一分足らずの邂逅の方じゃ」

ビリー「彼は無傷、ガンダムの一機と接触し最大出力のリニアライフルをヒットさせたものの、海中に逃走され戦闘終了」

エイフマン「通用はしてみせたか……【作戦遂行に支障が無い程度の存在】と認知されたら、交戦され撃破されるおそれがあるのだからな」

ビリー「少なからず抵抗し苦戦もしく持ちこたえられると判断させられた、という証拠になりますからね。大いなる一歩でしょう」

エイフマン「雲の上まで続く階段に対する一歩とは……謙虚にも限度があろうな」


――――


グラハム「後は任せる。何か連絡があれば、室内回線でな」

ハワード「はっ、お疲れ様です! 隊長!」


――ロッカールーム――


ガチャ
ガサガサ


グラハム(通用はしてみせた……が、やはり圧倒的だ)

グラハム(航空戦特化の変形ガンダム、あれとまともに対峙できなくてはフラッグが通用していると真に評価することは出来ない)

グラハム(だが……これ以上は私の肉体が限界か。死なば諸共と散華出来るほど人生に悔いているわけでもないのだ、このグラハム・エーカーは)

グラハム(……ん?)



145 : 2016/10/22(土) 05:49:05.09 ID:yAMUn+DQ0

グラハム「携帯端末……」ピ

グラハム「!」


グラハム(着信件数が三十を超えている……)

グラハム(カタギリがふざけて入れたアプリ。着信件数で待ち受け画面のミニリアルドが重なっていくのだが)

グラハム(重なりすぎて画面外から落ちてくる……酷く猟奇的なアプリもあったものだ)


グラハム(送り主は……)

グラハム「!」

グラハム「……ああ、そうか。リアルドが桃色なのはそういう……」

グラハム「……ふっ……」



――――

アーイーヲ、シラーズッ

絹江「! 来た!!」ガバッ

沙慈「わ?!」

絹江(良かった……生きてたんだ)ホッ

絹江(あんな話しされた後じゃ気になって気になって仕方なかったけど……流石に電話しすぎたかな)

沙慈「……姉さん?」


デデデデッデデ(鳩が飛ぶ音)


絹江「ごめん沙慈、ちょっと部屋行ってるから! ご飯食べてて!」ダダッ

沙慈「あ……!?」


沙慈「……電話……」



沙慈「また、アイツか」



149 : 2016/10/29(土) 03:50:35.79 ID:Le6+ubIv0

絹江「もしもし!」

グラハム『おはようございます、絹江さん』パッ

絹江「ひゃ?!」ビクゥッ

グラハム『おっと』PP

『失礼しました。モニター表示がONになっていたようで』サウンドオンリー

絹江「あー、はは……いいですいいです。モニター出しててください、ちょっと驚いただけですから」

絹江「というか、私の方は基本オンにしてあるので、そっちがむしろ構わないならって話なのですが?」

『ふむ、言われてみれば最初以外は特に理由がない』

グラハム『てはお言葉に甘えて、女史のご尊顔を拝見すると致しましょう』ヴンッ

絹江「貴方にそれ言われると、何だか皮肉っぽいなあ……?」


絹江「……なんか、血色良くなってませんか?」

グラハム『そうでしょうか。思い当たれば先程は久方ぶりのスクランブル、心が滾らなかったといえば嘘になりますが』

絹江「スクランブルって……貴方らしいっちゃらしいですけど、一回の出撃でそんなに元気になるもんですか?」

グラハム『他者が如何様かは存じませんし興味もわきませんが……』

グラハム『少なくとも私は打撲と風邪程度なら飛んでいれば完治いたします』キリッ

絹江「うん、貴方だけです、それ」



150 : 2016/10/29(土) 03:52:19.27 ID:Le6+ubIv0

絹江(いや、ま……久しぶりに見たのは確かなんだけど)

絹江(あれよね……ほんと、顔は、顔だけはいいのよねえ)ムー

グラハム『! ……』スッ

グラハム『  』ニヤッ

絹江「ッ?!」ドキ

グラハム『――どうでしょう、顔立ち幼いなりに男前というものが演じられていましたでしょうか?』

絹江「っ、エイフマン教授ですね!!そのニヒルでキザでステレオタイプなワルイ顔! エイフマン教授の入れ知恵ですよね!!?」バァンッ

グラハム『正解。流石は絹江さんだ、あの方をよくご理解されていらっしゃる』ハッハッハ

絹江「何要らんこと教えてあのおじじぃ……!」

絹江「貴方も! 教えられたからってそんな悪巫山戯を……もう!」

グラハム『ははは、重ねて失敬! いえ、聞かされていたもので、物は試しにと思いまして』

絹江「? 何をです?」

グラハム『いえ……第一印象こそそこまででありましたが、絹江さん』


グラハム『私の顔立ちだけは褒めていただいていたようでしたので、後は魅せ方だとプロフェ「グラハムさん」はい、何でしょう』

絹江「……だれに、ききましたか」

グラハム『プロフェッサーが、沙慈くんから聞いたと』

絹江「……そうですか」

グラハム『絹江さん?』

絹江「はい」

グラハム『風邪ですか。お顔が真っ赤だ』

絹江「だいじょうぶです、つづけてください」カァァ



151 : 2016/10/29(土) 03:57:46.73 ID:Le6+ubIv0

グラハム『ええ、ですがご無理はなさらぬように。とはいえ、まだ始めてもおりませんでしたね』

絹江「~~~~~!!」ジタバタ

グラハム『ではご報告をば。貴女の着信で墜落したリアルドたちの死を無駄にしないためにも』

絹江「え」ガバッ

グラハム『……あ』


【(==○=)<只今誤解を解いてます、しばしお待ち下さい】




グラハム「……」

絹江『では、まとめます』ムスッ

グラハム「……どうぞ」

絹江『重ねてお聞きしますけれど、貴方はガンダムを追撃し、交戦』

絹江『一撃を加えはしたものの、そのまま海中への逃走を謀られ、断念』

絹江『ユニオン軍への被害は 皆 無 であると!!』

グラハム(目が据わっておられる。ご自身の勘違いが起因というに……)

グラハム「……相違ありません」

絹江『結構、大変に結構!!』

グラハム(まあ、きっかけを生んだのは自分の迂闊な発言にある。猛省しよう)

絹江『それで……どうでしたか?』

グラハム「ガンダムの性能、ですか?」

絹江『それも勿論……ですけれど、カスタマイズされたフラッグでしたら、戦えそうですか? ガンダムと』

絹江『……撃墜は、避けられそうですか?』

グラハム「……」



152 : 2016/10/29(土) 04:12:14.33 ID:Le6+ubIv0


グラハム「ありがとうございます。空を飛ぶものとして、帰還を願ってくださる友情は無上の追い風に値する」

グラハム「故に偽り無く告げるなら……未だもって、ガンダムとの性能差著しく、一瞬の過ちが死出の導きになりうることは言うに及ばず」

グラハム「仮に一切しくじらず立ち回れたとして、単騎での撃退は不可能に近いと断言いたします」

絹江『……っ』

グラハム「女性にそのような顔をさせてしまうというのは心苦しいものです。ですが……」

絹江『降りてくれ、なんて立場じゃあありませんもの。言うわけがないじゃないですか』

グラハム「ええ、これはライフワークです。変えようもない」

グラハム「無論。死ぬつもりも毛頭ありません」

絹江『そこまで命かけられたんじゃ、こっちも黙ってられませんからね!』

グラハム「ほう、ソレスタルビーイングへの新たなる決意というわけですか」

絹江『ええ、どっちが金星上げられるか、競争です!』

グラハム「仮にも精強極まるフラッグファイター最優を自負するこのグラハム・エーカーへの挑戦状……安くはありませんが、覚悟の程は?」

絹江『……な、なんでも来いや! です!!』

グラハム「よろしい。相応のものを考えておきましょう、見合うものを、ね」

絹江『……お手柔らかに……!』

グラハム「勿論。全霊を賭けましょう」

絹江『……単騎で勝てないってわかってるんなら突っ込んだりもしないでしょうし、ねえ?』

グラハム「ノーコメント」

絹江『こーらー?』

グラハム「ノーコメントです」

絹江『もう! ……ふふっ』



153 : 2016/10/29(土) 04:37:31.57 ID:Le6+ubIv0

――――

ルイス『でね、沙慈ー、今度の軌道エレベーターの実習なんだけどね』

沙慈「……」

ルイス『……どったの? 体調でも悪い?』

沙慈「! あ、うん、何でもない。ごめんルイス、ボーッとしてた」

ルイス『例の件? まだ続いてるんだ』

沙慈「……分かるんだ」

ルイス『伊達に沙慈のガールフレンドしてませんから』

沙慈「そっか……ルイスはスゴイね」


ルイス『言いたいこと、言えないんだよね』

ルイス『あたしだったら、どうせ言いふらす相手もいないからさ。言ってほしいな』

沙慈「……うん、ありがとう」

沙慈「でも大丈夫。どうせ、そう長くは続かないと思うしさ」

沙慈「ただのお友達で終わるんなら、むしろ……ね」

ルイス『うそ』

沙慈「……」


ルイス『沙慈、何か感づいてる』

ルイス『私たちにはわかんないこと、お姉さんのこと、気づいてる』

沙慈「……かもしんない」

ルイス『詮索、しないよ』

沙慈「ありがとう。多分、言いたくなる時が来るよ、きっと」

ルイス『ん、待ってる』

沙慈「個室、姉さんにお願いしてみるよ」

ルイス『! あたし、何も言ってないんだけど!?』

沙慈「伊達にルイスのボーイフレンドしてないからね、このくらいはさ」

ルイス『沙慈すごーい……!』

沙慈「そこまで感動されることかな……」アハハ

沙慈「…………」

沙慈(姉さん、気づいてる?)

沙慈(同じなんだよ……あの人は……)



155 : 2016/10/29(土) 10:00:17.68

単騎で突っ込むんだよなぁ・・・(遠い目)


156 : 2016/10/29(土) 16:27:22.85

少なくともこのままだとエクシアと相打ちで瀕死なんだよなあ...


157 : 2016/10/29(土) 16:47:18.23

それより前に絹江さんが…


158 : 2016/11/02(水) 00:22:35.68


絹江さんも割と無茶してたというか単騎で突っ込んでたような