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159 : 2016/11/05(土) 04:21:31.72 ID:WmzGXm470



――世界は、ソレスタルビーイングに対して疑念の眼差しを送っていた。

――タリビアの一件も、「紛争を誘発しただけの矛盾行為」と深く考えない民意が大半。

――その行為の意味も思惑も理解されぬまま、日々は上辺の平穏を崩さず流れていく。



――この日が、来るまでは。



――人革連領内・軌道エレベーター【天柱】――



絹江「じゃあ、私はこっちの支社に用事があるから。しっかり勉強してくるのよ」

沙慈「わかってる。ありがとう姉さん、個室を予約してくれて……」

絹江「お嬢さまの仰る通りってね……庶民には手厳しいことで」

絹江「ま、感謝するのならグラハムさんにしてね。あの人のお陰でこれの代金まるまる浮いたようなもんなんだし、気にしないで」

沙慈「……【中尉】に、ね……」


ルイス「お待たせしました、お姉さま~!」

絹江「いーえ、お気になさらず。今日は頭上のお猫様もおとなしめのご様子で?」

ルイス(うええ、人見知りバレてるぅ……!)

沙慈(ジャーナリストを甘く見るから……)

絹江「――沙慈、頑張ってくるのよ」

絹江「あなたの夢、父さんもきっと応援してくれてると思うから、ね」

沙慈「! うん、いってくる」

絹江「いってらっしゃい、沙慈」チュ

沙慈「ん……!」

ルイス「おでこ!!!?」

沙慈「姉さんは、もう……僕だって子供じゃないんだから」

ルイス(おでこ!!)

絹江「ふふ、母さんの代わりだもの、ねえ?」

ルイス(ODECO?!)

絹江「じゃ、後はよろしく!」バシンッ

ルイス「おでこっ!?」


沙慈「いこう、ルイス」

ルイス「…………」ブッスー

沙慈「機嫌直して。姉さんの最大限の譲歩だよ、個室も、同乗もさ」

ルイス「……まさか、お姉様に先制攻撃されるとは思わなかったっ」ツーン






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160 : 2016/11/05(土) 04:43:07.71 ID:WmzGXm470

沙慈「ふふふ……でも、結構気に入ってるみたいだよ。ルイスのこと」

ルイス「ふえ、本当……?」

沙慈「本当。無理やり着いてきた甲斐はあったんじゃない?アメリカまで……」

ルイス「やったあああ……!!」ジーン

沙慈(って、聞いてない……)


《本日は、天柱交通公社E603便にご乗車いただき、誠にありがとうございます》

《本リニアトレインは、低軌道ステーション真柱直行便です。到着時刻は18時32分、グリニッジ標準時、翌日3時32分になります。》


ルイス「そういえばさ、沙慈」

沙慈「ん?」

ルイス「沙慈のお父様って、早くにお亡くなりになったんだよね」

ルイス「沙慈が宇宙で働きたいのって、もしかしてお父様のお仕事の影響?」

沙慈「そうでもないよ。父さんはジャーナリスト、影響をもろに受けたのは姉さんのほうさ」

沙慈「姉さんが言ってたのは……」



沙慈「父さんの最後の仕事が、【ユニオンの宇宙開発事業に関係すること】だったってだけのこと」


ルイス「ふぅ~ん……」



――JNN・天柱極市支社――


絹江「そうですか、誤情報……だったと」

支局長「わざわざ来てもらったのに済まないね。こんなガセを掴まされたとあっては、お父上に顔向けできんよ……」

絹江「いえ、裏付けも待たずに駆け込んだ私の方こそ、ご無礼を」

支局長「……しかし、彼女の情報を今更ながら探しているなんてね」

支局長「やめた方がいい、とは言わないが……仇討ち、かね」

絹江「そんなつもりはありません。ですが……【真実】への未練と言われれば、頷くしか無いものです」




「――マレーネ・ブラディの、消息。父が追った最後の事件の、最後の生存者への」



161 : 2016/11/05(土) 05:21:06.27 ID:WmzGXm470



――MSWAD基地――


ビリー「へえ、そりゃあ意外だ。そこまでやるかい、あのテストパイロット?」

グラハム「ああ、もしガンダムが来なければ……私はあの会場に出向いた最大の価値を、彼の戦術飛行の観覧と称したことだろう」

グラハム「パトリック・コーラサワー……模擬戦全勝、スクランブル二千回の英雄は伊達ではないということだ」

ビリー「君にも引けを取らない数字だねえ……もっとも、君のように空中変形はできないようだけどね」

ビリー「もし対ソレスタルビーイングで共闘することがあるならば……」

グラハム「この上ない戦力となることは想像に難くない。あの解体劇は相手と状況の不運に過ぎんよ」


グラハム「はは、しかし模擬戦無敗か。偉大な功績だな。無論技量と空への想いでは勝っていると信じたいが」

グラハム「……私は、模擬戦において46敗を喫しているからな。覆すのは、厳しいかな」

ビリー「……」

グラハム「ん?」

ビリー「ん、あぁ、何でもないよ。グラハム」

グラハム「ふ……気にするなカタギリ、事実は事実。私の血肉を今更分けては考えられんだろう」

グラハム「――背負っていくさ。今となっては、悪名だけが私とあの方の繋がりなのだから」

ビリー「…………」


ウィィ……ン


エイフマン「グラハム!! ビリー君!!」

グラハム「! プロフェッサー……!?」

ビリー「ど、どうしました教授……すごい剣幕で……」

エイフマン「ニュースを見ろ! 速報じゃ、軌道エレベーター【天柱】で事故が発生した!」

ビリー「事故、ですか?」

エイフマン「正確には低軌道ステーションでな……じゃが、まずいことになっておる」

グラハム「……!!」

ビリー「まさか、いるんですか!? 僕らの知り合いが、そこに?!」

グラハム「我らの共通の知人……よもや、そんなことが……ッ」ピッ


《真柱の速報です。現在安否が確認されていない不明者リスト一覧です》


《……アリスン・モーリー……チャド・チャダーン……》


《……サジ・クロスロード……ルイス・ハレヴィ……アンリ・ヤマムラ》


グラハム「ッ……神よ……!!」



 ・
 ・
 ・




162 : 2016/11/05(土) 05:25:41.96 ID:WmzGXm470

ん、間違えたかな?

予定を変更し、また明日続きを投稿します。

オリジナル要素が詰め込まれ出しますので、苦手な方は深呼吸もしくは座禅と併用して閲覧ください。



163 : 2016/11/05(土) 06:53:35.27


ところでマレーネって刹那やロックオンみたいなコードネームじゃなかったっけ?

まあ本名らしきものがなけりゃそれまでだけど



165 : 2016/11/05(土) 10:32:11.30 ID:WmzGXm470

>>162
はい。その通りです。
00Pでは調べたフォンが「名前も分からぬ女性」と言っているため、執行直前で消息を絶ったにも関わらず「事件」「裁判」以外の彼女の情報と痕跡が完全に消されている「はず」なのです。
シャルやルイードもそうであるように彼女もこれが本名ではなさそうなのですが。



164 : 2016/11/05(土) 07:15:38.13

不明者リストの中に鉄血のチャドさんがいるのは作者のお遊びか?


166 : 2016/11/05(土) 11:29:52.12

おつ
行方不明リスト円盤で確認したらチャドではあったなwwww名字が違うからお遊びかな



167 : 2016/11/12(土) 01:47:50.36 ID:Tix+lRGV0

「姉さん、今日なんの日か知ってる?」

「なにそれ? 私寝てないの、手短にね」

「ポッキーの日なんだって。ほら、これ上げるからあの人にさ」

「ポッキーゲームね……うん……よーく知ってる……よーくね」

「?」


冬場ですので、火の用心
再開をば



168 : 2016/11/12(土) 02:16:22.11 ID:Tix+lRGV0


――天柱の低軌道ステーション【真柱】の重力ブロック、落脱。

――各部門の専門家、多少の計算が出来る者たちならば、それがどれほど恐ろしい事故か容易に想像できた。

――地球に近く、微重力に引かれ続けるその場所で繋がりを失うということは、大気圏への墜落を意味する。

――問題は【近すぎること】であった。落ち始めて、限界点に到達するまでが、三十分もないという、あまりの近さ。

――ブロック数は三つ。MSや牽引可能な船舶が多数必要であること、そしてそれが駐留している施設から如何に急ごうと――到底間に合わないこと。

――この三点が示すのは、実に容易に想像しうる、簡潔な絶望であった。


エイフマン「……ッ」

ビリー「教授、これは……どう計算しても……!」

エイフマン「速報を待とう、カタギリ君」

エイフマン「奇妙だと思わんか……もし、想定通りに最悪の結末になっておれば、もう連絡があってもいい頃合いのはずじゃ」

エイフマン「それが無いということは、運良く付近を通過していた何らかの艦船、機体が救助行動に出ているということではなかろうか?」

ビリー「し、しかし……事態が好転しているなら、それも連絡されて良いはずです」

ビリー「それがないということは……」

エイフマン「予断を許さぬ状況……もしくは、連絡できぬ何かが現場にあるということか」

ビリー「ガンダムが関係している可能性は……?」

エイフマン「考えすぎじゃろう。とかく、他国の軌道エレベーター圏内では我が軍もAEUも関与できんし、間に合わん」

ビリー「待つしか無い……ですか……?!」


グラハム「ッッ…………!!!!!」ギリッ


ビリー「グラハム……」






169 : 2016/11/12(土) 02:36:57.62 ID:Tix+lRGV0


グラハム(――無力だ)

グラハム(何も出来ない。距離も、国境も、立場も、時間も!)

グラハム(全ての要素が、悲劇に向かって一歩一歩踏みしめるさまを悠々と見せつけてくるようだ……!)

グラハム「予測不可能な事態……だがこればかりは……」

グラハム「諦観を受け入れろというのか、このグラハム・エーカーに……ッ!」



――幾度となく、何度も、何度も、彼女に連絡を試みた。

――だが、何を言えばいい? 慰めに何の意味がある? 楽観的な言葉を無責に吐くことの意義は?

――握りしめた携帯端末が、悲鳴を上げる。

――潰しかねないその左手を、盟友が止めた。


ビリー「グラハム、それ以上はいけないよ」

グラハム「……私は我慢弱い……」

ビリー「知ってるよ、よく、知っている……」

ビリー「だからこそ、待とう。もし最悪の事態が訪れているなら、もう観測ができているはずだ」

ビリー「それがないということは、何かが起きているということだよ。祈るくらいしか……出来ることはないけれど」

グラハム「っ……平静を欠いて、利き手を潰す理由にはならない、だな?」

ビリー「気持ちは、わかっているつもりだよ。ごめんよ、こんなことしか言えなくて」

グラハム「いや、感謝する、カタギリ。そうだな……」

グラハム「――待とう、奇跡を」

エイフマン「……神よ……どうか……!」




《緊急速報、緊急速報》


グラハム「?!」


《現在アラスカの偵察部隊より、人革連領内から上空へ、謎のエネルギー光が発射されたとの観測情報》

《その観測情報より、ガンダムの出現が危惧される。ガンダム調査隊は直ちに警戒態勢に入れ》

《繰り返す》

《ガンダム出現の可能性有り、各隊員は直ちに……》


エイフマン「天使の……来臨か……」



170 : 2016/11/12(土) 03:21:01.93 ID:Tix+lRGV0


――ガンダムの出現情報、そして、大気圏内からの超長距離粒子砲狙撃。

――それから、速報からの事態収拾。

―― 一連までの悲劇への流れは、あまりに見事な力押しで容易に落着と相成った。

――今まで無力に嘆いていた者たちに安堵を与えつつ、矜持を踏み抜いて。

――その圧倒的な力が初めて【単純な人命救助】に使用されたことに対する世界の反応は、まさしく種々雑多であったが。

――誰しもが、改めて、思った。思ってしまった。


――欲しい! この力が! と……


ビリー「……………………」

エイフマン「……………………」

ビリー「教授、どっからどう話したものか……一気にコトが起こりすぎてパンクしそうですよ……」

エイフマン「ううむ儂もじゃよカタギリ君。老骨のCPUでは熱暴走必至じゃなあこれは」

ビリー「えーっと? 順序よく行きましょう、まずは……事故の発端と経緯」



ビリー「原因不明の低軌道ステーション重力ブロックの落脱事故が発生……当然救助隊が発進するも間に合うはずもなく」

エイフマン「しかし、現場に確認できたMSは宇宙用ティエレン一機のみ……つまり、何らかの方法で支えていたわけじゃな」

エイフマン「そして事故発生から間もなくして、地上からの超長距離ビーム砲射撃」

ビリー「これにより三基存在していたブロックは中央の一基を残して分解、以後正式発表で行方不明者全員の生存確認、救助完了……」

ビリー「……教授、これは、私見なのですが」


ビリー「この事件、ソレスタルビーイングの自作自演ではないでしょうか?」

エイフマン「…………」



171 : 2016/11/12(土) 03:56:39.44 ID:Tix+lRGV0

ビリー「まず、人革連は正式に発表していませんが、この重力ブロックの脱落を維持していたのは間違いなくガンダムであったと思います」

ビリー「現場にて粒子の光が離脱していくのを低軌道ステーション内の民間人が何人も目撃しています」

ビリー「彼らの推力なら、並のMS数機分の働きをするのは容易なことでしょう」

ビリー「ですが、そもそもあの場に、即座に彼らが現れたというのは辻褄が合いません」

ビリー「ましてや! 今回彼らの利に働くようなことは一切ない、ただの事故であって紛争ですら無いのですよ?」

ビリー「これは世論の心象操作を目的として、予め準備していたと考えるのが自然かと思われます」

ビリー「これはテロです、ソレスタルビーイングが起こした……マッチポンプ!」


エイフマン「いやー、ないない。ありえない。絶対ない」ハァ~

ビリー「……やっぱりですかあ」ハァ~


エイフマン「そりゃあそうじゃろう、今回彼らは【大気圏外への攻撃手段】という虎の子まで見せておる」

エイフマン「これによりまず【粒子砲の特性】と【ガンダムの性能】が白日のもとに晒されたわけじゃ、流石に割に合うまいよ」

ビリー「結果的に我々に絶望の上乗せしてきたようなもんですけどね……どうしろっていうんですかあんなもん」

エイフマン「逆もできるとは言え、単独では不可能であることは明白」

エイフマン「つまり厳重警戒の只中で使えば、何らかの大型装備鹵獲のチャンスが巡ってくるわけじゃ。奴らも乱用はできんし、我々は足回りさえしっかりしていれば対処など易い易い」

ビリー「……これを晒すことで我々に示威をしたという可能性は」

エイフマン「くどいのお……こんなもの、使った以上持ち運ばねばならんのじゃよ? 初お見えならまだしも、もう次は発射地点に殺到しておしまいじゃよ」

エイフマン「もうこれを以降の作戦に組み込めん可能性まで考えて、出さねばならん。そういうものなのじゃよ、この砲狙撃手段はな」



172 : 2016/11/12(土) 04:12:21.56 ID:Tix+lRGV0


エイフマン「まあ、そうじゃな……」カリカリ


1:あの宙域にガンダムが介入するはずの目標(人革連の秘匿兵器?)が存在していた。

2:ガンダムはそれに介入、交戦したがその結果重力ブロックが脱落する事故に発展。

3:ガンダムは人命救助を優先、結果、超長距離砲狙撃の露見に踏み込んで同目標を救出した。


エイフマン「こんなところかのお」

ビリー「え、人革連の秘匿兵器って……そこまで分かるんですか?」

エイフマン「テロ組織による破壊工作ならまず声明が発表されて然るべきじゃ、それがないとやった意味がないからの」

エイフマン「仮に目的違い、失敗などを理由に黙秘していても、人革連側が黙っている理由にはならん。つまり……」

ビリー「事故の原因は人革連側が隠したいもので、それがソレスタルビーイングの介入に足る何かであった……?」

エイフマン「おおよそ人革連側が原因であるがゆえに発表もせなんだろうさ、ガンダムの兵器でどうこうなったなら間違いなく喧伝しておる」

ビリー「しかし、現場周辺は施設も少なく、ガンダムが交戦すれば粒子ビームの軌跡など、発見されやすいものですが……」


エイフマン「うーむ……これ以上は妄想になろう。憶測の限界よな」

エイフマン「むしろ、我々が考えるべきは、事態発生から彼らの動向の素早さ、大型支援兵器と類推される存在の輸送手段、その全てを実行可能にした要因よな」

ビリー「……そうか、彼らの動きに無駄がないということ以前に、そんなものを一箇所から持ち運んでいるわけがないんだから……!」


エイフマン「――世界中、あらゆる地域、国家に、奴らの支援施設、支援母体が存在すると見て良いじゃろうて」


ビリー「ある意味、どの国家が母体となっているかという陰謀論は唱える必要がなくなったわけですね」

エイフマン「おそらくは……三大国の中枢にさえ食い込んでおろう、儂はそう考えておる」



173 : 2016/11/12(土) 04:44:36.73 ID:Tix+lRGV0

エイフマン「それとじゃな、儂はこのガンダムによる救助行動……」

エイフマン「ガンダムのパイロットによる【独断行動】ではないかと、推測しておる」

ビリー「……いやー、いやいやいやいや」

ビリー「それは希望的観測というやつでしょう教授、いくらなんでも……」


エイフマン「儂がもし、ソレスタルビーイングの指揮官であったなら……今回の一件は無視して帰投させておる」


ビリー「きょ、教授……穏やかじゃないですね?」

エイフマン「当然じゃろう。超長距離射撃……これは見せんことであらゆる作戦に対し一手が打てる魔法のような能力じゃ」

エイフマン「彼らの行動理念、武力による紛争根絶に犠牲はつきものじゃ。たかが二百人程度、いやこれが千人であったとしても」

エイフマン「法と秩序に背を向けた私設武装組織が、ただでさえ不可能であろう目的に使える手札を見せてまで救う価値がある数字ではない」

エイフマン「紛争ではないのだからな……事故で死のうが、自分らの起こした経済崩壊で餓死しようが、どうでも良い、そういう組織じゃろう? ソレスタルビーイングとは」

ビリー「っ……はい……」


エイフマン「そも、これを救って心象を改善したところで、やることが変わらないのであれば大した効果もないしのう」

エイフマン「パイロットの自己満足を、組織が致し方なく救った……と見るべきだとわしは思う」

エイフマン「つまりつまり……あのガンダムとパイロット、代えが無いと見るべきじゃ、なあ?」

ビリー「……打つ手が増える、そうおっしゃりたいように見受けられますね」

エイフマン「守るやり方を知るには、殺すやり方も知らねば不十分じゃろう?」

エイフマン「善人で人道的な敵なぞ、悪党の味方よりよほど怖いものよ……やることも、目指すべきものも、変わりはせん」



エイフマン「手はあるということじゃ……あの天使気取りの悪鬼を討つ、銀の弾丸の造り方ぞ」


――――





174 : 2016/11/12(土) 05:20:31.53 ID:Tix+lRGV0

――人革連・天柱極市市内ホテル――

沙慈「……姉さん」

沙慈「姉さんってば」

沙慈「はー……ね・え・さ・ん?」


絹江「……グス……」ギュー


沙慈「抱きついてないで、そろそろ離してよ。トイレ行きたいんだけど」

絹江「ごめん……でも、本当……ね?」

絹江「うぐ……よかった……よかったよさじ……おねえちゃん、しんぱいしたんだからぁ……」ヒーン

沙慈「あー、もう……分かったよ、僕も、また姉さんに逢えて良かった」

絹江「さじぃ…………」ボロボロ

沙慈(あ、これ長いやつだ……昔交通事故で引っ掛けられたときもこんな感じだったなあ)

沙慈(もし、僕が死んでたらどうなってたんだろう)

沙慈(姉さん、後追ったりしないよな……一人になったら、どうしたんだろうな)

沙慈(……ぼくが死んでも、世界は、変わったりしないんだろうな……)



沙慈「――大丈夫だよ、姉さん。僕はここにいる。何処にも、行かないよ」



――――

――別室――


ルイス「…………」

ルイス「泣いてないもん」

ルイス「お姉さまの気持ちもわかるし、あたしだって寂しいけど、仕方ないし」

ルイス「顔合わせた途端いきなり号泣されて抱きつかれてる沙慈に、構ってとか、言えないし」

ルイス「…………」グス


ルイス「泣いてないもんっ!!!!!!」バァンッ

壁「ありがとうございます!」



175 : 2016/11/12(土) 05:54:17.30 ID:Tix+lRGV0



――翌朝――


絹江「ん……ふぁ……」モゾ

絹江「……んむ……」ポー


絹江「朝……か」


絹江(本当に、色々なことがあったな)

絹江(沙慈が事故に巻き込まれて……周りの人は生存は絶望的だって言ってて)

絹江(でも、奇跡みたいにみんな助かって……ガンダムの存在が確認されて)


絹江(……私たちが変わらず過ごせている日々ですら、簡単に壊れてしまう、たったひとつの出来事で、全て)

絹江(原因とか、ソレスタルビーイングの関与とか、調べなきゃならないことなんて山ほどあるのに)

絹江(駄目だな、私は……しばらく頭が動きそうにないや)


絹江「……あら?」


絹江(携帯に着信履歴……それとメールも、一件ずつ)

絹江(……あ……!)


――――

From:Graham Aker

件名:天柱事故に関して

沙慈・クロスロード、及びルイス・ハレヴィ両名の息災を、心よりお慶び申し上げます。
そして、何一つお力添え出来なかった我が不徳と無能を、お許し下さい。


――――


絹江(……電話、すぐに切ってるんだ)

絹江「気にしてくれてたんだ……でも……」


――――

pppp

ビリー「グラハム? お呼び出しのようだけど」

グラハム「……構わない」

ビリー「え……?」


グラハム「どの面下げて、顔を合わせろというのだ……」


 ・
 ・
 ・



178 : 2016/11/13(日) 01:40:26.25


ルイスかわいそうでかわいい



180 : 2016/11/19(土) 03:48:36.86 ID:F+KdDTDb0



――そして、何やかんやあってAEUとモラリアがボコられて数日――


コーラサワー『何じゃそりゃあああああああ!!!』ヒューン……


――――


――MSWAD基地――



ゴウッ……


絹江「わぁ……!」

絹江(大きな管制塔、あっちが技術研究棟ね。流石はMSWAD、見事な設備だわ)

兵士「こちらです、ここからはお車で中までご案内いたします」

絹江「ありがとうございます、何から何までご丁寧に……」ペコ

兵士「いえいえ、プロフェッサー・エイフマンのご紹介とあれば、このくらいは」

兵士(可愛いなあ……日系人は肩幅がちっちゃくていいよ)ニヘラ

絹江「えっと、それで教授はどちらに?」

兵士「え、あ、はい! 今MSドックの方で点検作業中とのことで、どうぞ此方に」


 ・
 ・
 ・
 ・

エイフマン「ふぅーむ」カタカタ

ビリー「どうでしょう、教授。装弾数の増加を見込めれば、あのミサイル攻撃には……」

エイフマン「現実的ではないのう。グラハムがシミュレーターで出した数値であれば、ミサイル攻撃に変形から即時対応ができよう」

エイフマン「だが大きく出遅れる。その後、やつに狙われた際は確実に落とされような」

ビリー「後手の対応では、ガンダムには勝てない……ですか」

エイフマン「攻め手で何とか出し抜かねばな」


兵士「失礼致します、プロフェッサー」

エイフマン「おぉ、来たかね!」

ビリー「? 来客ですか」


エイフマン「デートじゃよ、別嬪さんとな」ニヤッ




181 : 2016/11/19(土) 04:04:28.26 ID:F+KdDTDb0


――――

絹江「お久しぶりです、エイフマン教授」

エイフマン「うむ、健勝何より。連絡が来てから数日かかると見込んでおったが、手早いの」

絹江「【拙速は巧遅に勝る】……ですよね?」

エイフマン「はっは! 孫子の引用か。君、我が部隊の戦術予報士として招聘される気はないかな?」

絹江「ご冗談を。たかが22の小娘に精鋭の命運は背負えませんわ」

エイフマン「はは、才能に年齢は関連せんさ。さて、立ち話は老体には堪える……」

絹江「……」チラチラ

エイフマン「! ふふ、奴なら足早に兵舎に引き篭もりおった。何かあったかな?」

絹江「え?!」

エイフマン「うら若き乙女の視線が揺らぐのは、意中の騎士を探すときと相場は決まっておる」クックック

絹江「そんなんじゃあありませんよ……ただ」

エイフマン「ん?」

絹江「例の一件以来、ご連絡も無く、此方からも繋がらなくて……」

絹江「なにか粗相をしてしまったかと……ええ、気が気でないのは、確かなんです」

エイフマン「ふうむ……?」


――――
ビリー「もしもし……あぁ教授」

ビリー「はい、いますよ。奥の方でトレーニング中です」

ビリー「お使い頼めなんて言わないでくださいよ? だいたい彼が奥にいるときは機嫌がひどく……」

ビリー「……え? まあいいですけれど……あ、切れた」

ビリー「……何か企んでるよなあ、これ」



182 : 2016/11/19(土) 04:27:24.76 ID:F+KdDTDb0


――オフィス――


エイフマン「ほう、特番」

絹江「はい、ソレスタルビーイングに関するものを、それも」

エイフマン「イオリア・シュヘンベルグの軌跡を追う形で彼らの実態に迫りたい……じゃろ?」

絹江「! お察しのとおりです、よくお解りに……」

エイフマン「ふっふ、自慢に聞こえたら申し訳ないが、こういう場合【思考回路が近しい存在】から近似を探るというやり方もあるからのう」

絹江「本当に、私などが一個人でお話できるようなお人ではないと……今この時が夢のようです」

エイフマン「おいおい、あまり老骨を本気にさせんでくれよ。こう見えて、惚れやすくての」

絹江「うふふ、お上手ですこと」

絹江「ですが、一ヶ月半で一時間分をかき集めなくてはならないので――お覚悟の程は?」ニッコリ

エイフマン「ひい、老人虐待じゃ!」ハッハッハ


エイフマン「……しかし、あの人嫌いの偏屈、稀代の大天才に並び称されるとなると、儂とて帽を振り捨て平伏せざるを得んな」フウ

絹江「機械工学、材料工学、電子制御工学……その他工業部門においては博士号でドミノが出来る御方のご謙遜、頂きました」ウフフ

エイフマン「はっは……戦術予測の方もかじっておる、今からでも教えを請う気はないかな?」スッ

絹江「あら、その口説き文句、まだ続いてたんですか?」クスクス

エイフマン「ははは! いやいや、一本取られたか。これを見抜いた速さなら、秘書についで僅差の二番目じゃ」

エイフマン「おっとっと……閑話休題としよう。さて……」

絹江「はい……では、レイフ・エイフマン教授」


絹江「ソレスタルビーイングの目的は、紛争根絶にある。是か非か、お答えください」



エイフマン「無論、否じゃ」



183 : 2016/11/19(土) 05:06:09.83 ID:F+KdDTDb0


絹江「……その理由は」


エイフマン「絹江くん、君の家の隣で喧嘩が起きている」

絹江「はい?」

エイフマン「AとB、と仮称しよう。彼らの喧嘩の原因は、Aの好きな音楽をBが侮辱したからだそうだ」

エイフマン「どちらもが介入無しには絶対に止める気がないとした場合……君はどうする?」


絹江「……警察に連絡を」

エイフマン「残念! 警察に払うお金は膨大で、君には支払えない」

絹江「付近の住民を集めて、停戦勧告を」

エイフマン「いっときは止めたが、虎視眈々とお互いが狙い合っている。これ以上は、周りも付き合いきれんと匙が飛ぶとしよう」


絹江「……Bを糾弾し、Aの側につく……?」


エイフマン「では、Bはとある音楽を家族代々、心から愛していて……」

エイフマン「Aの好きな音楽は、その音楽を真っ向から否定した観点から創られているとしたら?」

絹江「っ……」


エイフマン「……これに、AB双方が立てなくなるまで殴りつけることで解決しようというのが、ソレスタルビーイングのやり方じゃ」

エイフマン「一理ある、が、馬鹿らしいとは思わんかね。儂でなくとも、これだけで争い事が無くなるとは到底思えんのは道理じゃ」

絹江「……Aの音楽も、何かを否定しているからと言って悪いわけではない、ですものね」

エイフマン「まあ、暴力行為を起因にAB双方の立場から争いを起こされることは、目に見えておろうな」

エイフマン「何かを論ずれば、別の立場からの反論があって然るべき。全てを画一化することが相互理解であるというのは、おおよそ機械の思考……いや嗜好じゃな」

絹江「……どうしようもないじゃあないですか、こんなの」

エイフマン「そう、どうしようもないんじゃよ、こんなことはな」

エイフマン「この程度のことがわからないイオリア・シュヘンベルグではないはずじゃ。つまり……」

絹江「イオリア・シュヘンベルグの計画において、武力介入はあくまで布石」

エイフマン「本来の目的とする部分……ソレスタルビーイングの存在理由が、他にあるはずじゃ」



184 : 2016/11/19(土) 05:26:24.55 ID:F+KdDTDb0



エイフマン「考えうることとして……」カリカリ

絹江(わ、講義受けてるみたい。背筋伸びちゃう)

絹江(実際、この人の講義ってやるたび大講堂が満員になって立ち見続出、AEUや人革連からも学生が来るほどスゴイのよね……)


1:紛争が起こった場合の弊害が、彼らの目的の妨げになる

2:紛争行為が起こっている地域に目的がある

3:紛争行為に割かれているリソースを目的に割り振らせたい

4:武力介入を通じて自分たちの敵の力を削ぎたい


5:武力介入を隠れ蓑に、自分たちの真の目的を安全に進めたい


絹江「5……!?」

エイフマン「おおむね、儂は宇宙開発に彼らの興味があるのではないかと思ってはいるんじゃよなあ」ウーム

絹江「それは、何故でしょうか!?」

エイフマン「要は、現状の産業分布にあるわけじゃ」ピピピ

エイフマン「ほれ、これが三大国のGDP成長率、各産業分けした内約、その他含めて諸々な」

絹江「………………大半が横ばい、ですね」

エイフマン「宇宙開発部門、及び軌道エレベーター関連においては向上も見込めるが、おおむね地上において旨味はもう無くなっていると言っていい」

エイフマン「そんなゼロサムゲームのまっただ中、どの国家も平均的に利益が上げられている産業が……」

絹江「! 軍需産業……!!」

エイフマン「耳が痛い話になるが……儂の開発したフラッグも、その一因であろうな」



185 : 2016/11/19(土) 05:51:31.33 ID:F+KdDTDb0

エイフマン「まあ、これを叩いて、主にモラリアのような軍需産業特化の国家が転進による生き残りを図った場合……」

絹江「そうか、これだけのリソースを注ぎ込めて利益を得られる余地があるのは……宇宙産業しかない」

エイフマン「無論、そういった部分を無視して、ただひたすら紛争理由を攻撃しているだけの恐れもあるがな」

絹江「……そうなのですか?」

エイフマン「これだけ長く……正確には二百年、奴らの計画がバレなかった一因として」

エイフマン「【それがソレスタルビーイングに関することと知らないまま加担している人員】の存在があると思う」

絹江「そんなのがあり得ると? いくらなんでも……」

エイフマン「仮にな絹江くん、君が宇宙開発事業勤務で」

絹江「はい」

エイフマン「お給料も一般的な額を払い、福利厚生を完備し、特に情勢に影響を受けない、受けてもその変化に対応できる企業に勤めているとしたら」

エイフマン「君、疑問を抱くかのう?」

絹江「……何も考えず定年まで働くと思います……」

エイフマン「じゃろうて。定年まで働けば、ヒューマンエラーが無くとも四十年くらいはいてくれような」

エイフマン「儂がイオリアとして動くなら、まずは疑念や猜疑を最初から生めぬように取り計らうさ」

絹江「宇宙開発なら、引き継ぎを転々と回すことで【何処を開発するつもりなのか】なんて分からないものですものね……」

エイフマン「未だもって、専門知識のいる高度な宇宙開発技術者は、宇宙労働者の全体の1%にも満たん」

エイフマン「かつての悪名高い火星圏アステロイドベルト開発事業から連綿と続く悪習じゃ……奴隷操業に近いと言っていい」

絹江「……教授……」

エイフマン「……あぁ、君のお父上の追った事件も、そうだったな」

エイフマン「あれは……本当に……」

絹江「私事です、どうか、お話の続きを」

エイフマン「済まない、続けよう……」



186 : 2016/11/19(土) 06:12:47.17 ID:F+KdDTDb0


エイフマン「つまり、当時も今も、作業の手が多く、疑問を抱ける知識がない労働者に取り入って、計画を遂行することは不可能ではないと言いたいのじゃよ」

エイフマン「それだけではない。【組織に参加してはいるが、目的よ行動を何も把握していない存在】」

エイフマン「【一族で組織に参加しているが故、生まれてからこのかた組織以外を知らない子供】なども挙げられよう」

絹江「おぞましい話です。もしそうなら実態はテロリストの暗部そのものでは……!?」

エイフマン「どうじゃろうなあ。しかし、そういった予測と仮説でも、儂は人員からの情報流出が一切ないのは異常だと考えておる」

エイフマン「これなあ……どう見積もっても、ソレスタルビーイングは数万人規模の組織になる。おかしいんじゃよなあ……」

絹江「各国の情報機関ですら糸口がつかめないのは、確かに異常ですが……」

エイフマン「水際ではないな……何処か、根本的な部分で完全にせき止められていると思っていい」

エイフマン(何処だ……国家に、産業に、宗教に依存せず、網羅された情報を管理し統合できる、そんなソースが……?)


PC「…………」ヴンッ


絹江「……教授?」


エイフマン「! おおっと、すまんすまん。美女を前に思案に溺れては無礼というものじゃな」

絹江「いえ、此方こそ……何か掴めそうでしたら、私はお暇致しますが」

エイフマン「それほどのことではないさ。お気遣い感謝するよ」

エイフマン「続けよう。すぐに終わらせておかんと……【次】が詰まっておるからのう」

絹江「次……?」


 ・
 ・
 ・
 ・

グラハム「カタギリ、プロフェッサーはまだか?」

ビリー「いやぁ、そろそろ約束五分後ってところだねえ」



187 : 2016/11/19(土) 06:51:19.32 ID:F+KdDTDb0

グラハム「……私は我慢弱い」イライラ

ビリー「わーかってるよ、君のトレーニングを切り上げさせたのも、遅めの昼食をお預けさせているのも悪いと思ってる」

ビリー「付き合ってあげれば、それも工面してくれるそうじゃないか。あの人の舌を満足させる食事にご同伴なんて、羨ましいことだよ?」アッハッハ

グラハム「男やもめで馳走を期待など、ご老体相手に下卑た発想だ」

ビリー「うぐ」

グラハム「無論、お前がそんなことを真意に語っているとは思っていない。苦労をかけるな、カタギリ」

ビリー「あー……うん」

ビリー(早く来てくれないもんかな……こうなったグラハムはすっごく面倒くさいんだ)ハァァ


「すいません、お待たせいたしました!!」


グラハム「……え」

ビリー「あ……」


絹江「はぁ……はぁ……」


――――

ビリー《それじゃあ、グラハムには外出準備をするよう伝えておきますので》

エイフマン『おう、ではな』ピッ

絹江『教授、今回はありがとうございました』

エイフマン『おうおう、少しは足しになったかのう? それならばしわがれた声を嗄らした甲斐があったというものだ』

絹江『この上なく。本当に感謝いたします、プロフェッサー・エイフマン』ペコリ

エイフマン『ほれほれ、頭を上げて先を急がねば。先ほど連絡があってな』

絹江『れ、れんらく?ですか。何方からでしょう』

エイフマン『君の黒衣の騎士殿からだよ。これから、もし空きがあるなら……とな』

絹江『?! ほ、本当ですか』

エイフマン『ほんとうじゃよー、きょうじゅ、うそつかんよー』

エイフマン『ふふ、君が非礼があったなら詫たいと言っていたと、少し口添えをな……節介が過ぎたかの』


絹江『教授……ありがとうございますっ!』


エイフマン『……やれやれ。やつもひどく手間がかかる』

エイフマン『友情の維持くらい手前で何とかせんもんかのう……ったく』ブツブツ


――――

グラハム「――――ッッ!!」ジロッ

ビリー「ひぃ!? ぼ、僕知らないよ! 本当だよ?!」




188 : 2016/11/19(土) 07:08:20.60 ID:F+KdDTDb0

絹江「グラハムさん!」

グラハム「ッ……」タジ

絹江「! あ……」ジリ

グラハム「……!」タジ


絹江「……???」ジリジリジリ

グラハム「……!!!」タジタジタジ


ビリー「何やってんの君たち?」


グラハム「……絹江さん……?」

絹江「グラハムさん、私は……えっと」

絹江「っ……ごめんなさい!」ペコ

グラハム「?!」


絹江「あれから何度もご連絡差し上げて……何も返答がいただけなくて」

絹江「何がいけないんだろうって、思い返しても分からなくて、でも……」

絹江「私が何かされたことはないし、もし、何か失礼なことしてたらって……ずっと、思ってて!」

絹江「理由がわからないのに謝るなんて最低だけれど……本当に、ごめんなさい……!」

グラハム「き、きぬ……え……」

グラハム「…………!!!」


グラハム「~~~~ッッ!!!」バッ

ビリー「そこ、助け求めちゃう??」

ビリー「はぁ……対話だよグラハム、問題の九割はまず対話でコトが済む」

ビリー「丁度良かったじゃないか、外出許可は降りてる、君は外行きの装い、彼女もこれからフリー……」

ビリー「何を迷う必要があるんだい? 友人とドライブだ、楽しんできたまえよ、フラッグファイター」


グラハム「……お顔をお上げください、絹江さん」

絹江「……」

グラハム「ええ、そうですね……これから、お時間よろしければ」



グラハム「私に、貴女のお時間を、お預けいただきたく……そう願います」スッ

絹江「……よ、喜んで」キュ





189 : 2016/11/19(土) 07:21:46.78 ID:F+KdDTDb0

今日はここまで。

作中時点で全コンピューターは元を辿ればイオリアが設計したモデルで、それらはヴェーダの子機になる並列コンピューターとして設計されているらしく、ネットに繋がるものは全てヴェーダであり、情報も完全に筒抜けになる、そうです。
分かるかこんなもん。

ではまた金曜日に



193 : 2016/11/19(土) 13:25:19.90

やっぱり想定外の事態に狼狽してビリーを見るハム公はかわいいな


195 : 2016/11/21(月) 10:01:42.18

やっぱりヴェーダ最強なんすねぇ・・・
よく2期戦えたな



196 : 2016/11/21(月) 12:19:16.90


昨日劇場版見たけどヴェーダによる情報統制で漏洩はまず無い言ってたのはそういうことか



197 : 2016/11/21(月) 14:18:31.53

ヴェーダに勝つためには完全独立したネットワークシステムを作る必要があるって無理じゃん


198 : 2016/11/21(月) 22:49:07.81

独自ネットワークを作ろうとしてもヴェーダ媒体がどっかに引っかかる恐怖


199 : 2016/11/23(水) 02:30:33.25 ID:0vrNeivJ0

ちなみにヴェーダはその性質上
「一切ネットに繋がってない機器には干渉できない」
「紛争極貧地域やスラムのような干渉可能機器の少ない地域の情報が不足しやすい」
という特徴があります。
そこを補うために数万人のイノベイド(と総数不明のエージェントイノベイド)が、自分を人間と刷り込まされ、数年単位で記憶をリセットされ、潜在的にヴェーダに情報を送り続けています。
喧嘩売るならこれ全部敵になる

11/22は欠かしてはいけないと思ったので続きです



200 : 2016/11/23(水) 02:53:52.34 ID:0vrNeivJ0



――基地より最寄り、アメリカ西部のとある都市――


ウェイター「では、どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」

グラハム「ありがとう」

絹江「…………」ソワソワ


――喫茶店――


グラハム「落ち着きませんか?」

絹江「え、いや、あはは……こういうお高いとこはなかなか……っ」ソワソワ

グラハム「私もです」

絹江「え」

グラハム「此処はプロフェッサーのお付きの時くらいでしか来ない、あの御方の行きつけの喫茶店」

グラハム「今回は企みに肖って、敢えて選択しましたが……ふふ、腰が浮いている心地ですよ」

絹江「企み………」

絹江「…………」



絹江「 ま た だ ま さ れ た ? ! 」

グラハム「……絹江さん」シー

絹江「ゴメンナサイ……」カァァ


――――

エイフマン「わっはっはっはっは!」

ビリー「うわ、なんですかいきなり」

エイフマン「いや、今頃絹江くんが儂の策に気づいてぐぬぬーってなっとる頃合いと思うてな」ニヤニヤ

ビリー「我が師ながら流石の悪趣味ぃ」



201 : 2016/11/23(水) 03:14:45.51 ID:0vrNeivJ0


――――

グラハム「…………」ズズ

絹江「……」モグモグ

絹江(わー、このタルトすごい美味しい。果物がぷるぷるしててあまーい)

グラハム(うむ、流石に別格。基地のあれがただでさえ薄めた泥濘に近しい代物だけに、胃が驚嘆に跳ねている気さえする)

グラハム(とと、横道に逸れてはいけないな。話を進めよう)


グラハム「絹江さん」

絹江「! はい」

グラハム「……沙慈くんと、ルイス嬢は、お変わりありませんか」

絹江「えぇ、おかげさまで……特に事故を思い出すようなこともなく、いつものあの子達に戻っています」

絹江「……あのガンダムに救われたというのは意外でしたが……」

絹江「正直に、感謝しています。助けてくれたパイロットに」


グラハム「……その素直な感情は貴女の美徳だ。固定観念に縛られず物事に向き合う姿勢、尊敬いたします」

絹江「大げさですよ……私なんて、身内びいきの弟離れが出来ない、ただ一人の女です」


グラハム「――お許し下さい、絹江さん」

スッ

絹江「!?」

グラハム「私は今回、貴女に何一つ、お力添えすること叶わなかった」

グラハム「友人の不幸を遠巻きに見ていることしか出来なかった」

グラハム「挙句、ガンダムの跋扈さえ許した。本当に、申し訳ない」



202 : 2016/11/23(水) 03:39:38.80 ID:0vrNeivJ0


絹江「……ええっと……」

絹江「グラハムさん、もしかして、ずっと? そのこと、考えていたんですか」

グラハム「滑稽と、笑われることは覚悟しております」

絹江(あ、頭上げた)

グラハム「天柱は人革連の軌道エレベーター、そして状況は地上からの支援など夢物語の大気圏外」

グラハム「えぇ……私がどのように権力を有していたとしても、助力不可能の事故であることは明白」

グラハム「ですが私は……そのことに怯え、無力であることをいいことに……!!」


「貴女に、ただ一言の言葉をかけることすら躊躇ったのです」



絹江「――――あ」


グラハム「……」ゴク

グラハム「私は、たとえ気休めにしかならずとも、解決の糸口にさえならずとも、あの時こそ貴女にご連絡差し上げるべきだったのです」

グラハム「それが友情であるはずです、必要な心馳せであるはずです! 全く……なんと矮小な肝を持ったものか、我ながら呆れ果てる!」

グラハム「……もっとも、本当に無能の戯言以上が言えたとは今でも思えませんが」

グラハム「……申し訳ない、少し熱狂に過ぎた……」ゴク

絹江「…………」


絹江(……聞いてからも、そんなことってしか思えないし、ぶっちゃけ何言ってるか理解できないけど)

絹江(そっか、グラハムさん、あの日、事故があったあの時間)


絹江「励まそうと――してくれてたんですね。貴方は」

グラハム「……笑ってください、それっぽっちさえ為せぬ、ユニオンのエースのざまを」




203 : 2016/11/23(水) 04:11:07.47 ID:0vrNeivJ0


絹江「ううん、そんな必要ない、笑われるべきなんてことは有り得ません」

絹江「だって……今、嬉しいんです、私」

グラハム「!」

絹江「だって、そうじゃないですか」

絹江「どこか遠くの友達が、自分が苦しんでることを知って、心配してくれてた、気にかけてくれてたんですよ?」

絹江「誰かに想われてたってことは、生きていていいって言われているみたいなものでしょう?」

絹江「それが、本人から聞けたんです。大事にもならなくて済んだ上、こんな特報まで……」


絹江「ありがとうございます、グラハムさん。今日は本当に素敵な日になったわ」ニッコリ


グラハム「――――あ」


絹江「グラハム、さん……?」

グラハム「……ふふっ、全く」

グラハム「貴女は卑怯な方だ。叱咤か絶句かと恐々に肩を窄ませていれば、まさか感謝を受けるとは」

絹江「姑息な女は、お嫌い?」クスッ

グラハム「何が姑息なものか、真正面から堂々と、貴女はこのグラハム・エーカーの奸計をねじ伏せたのです」

グラハム「お見事、本日は完敗です。潔く認めましょう」




絹江「うふふ、でもここ数日の着信無視の分はまだ消化されてないんですけれどね」

グラハム「ぐ」



204 : 2016/11/23(水) 04:29:25.68 ID:0vrNeivJ0



グラハム「……ここのお支払は、もとより私が受け持つ予定です。他のもので咎を償いましょう」

絹江「あー……言われちゃった。潔すぎるのも考えものですね」

グラハム「首を差し出し続けるのも辛いものです、慈悲があるなら、ひと思いにどうぞ」

絹江「……じゃあ……」


絹江「ねえ、【グラハム】」

グラハム「……は……?」

絹江「お互い、堅苦しく話すのは、終わりにしない?」

グラハム「……と、言うと……」

絹江「敬語抜き、てこと。勿論、親しき仲でも尽くすべき礼儀は欠かすつもりはなくてよ?」

絹江「ふふ、年上の男のひとにこういうのはちょっと恐縮って感じだけれど、今ので分かったの」

絹江「あなたとは、もっと仲良くなりたい。そういう価値がある人だってね」

グラハム「っ……」

絹江「あ、勿論……馴れ馴れしいのは嫌って言うなら……止めるけれど」

グラハム「っ、私が、そう呼ばれるのは構いません、ですが……」

絹江「?」


グラハム「私も、そう呼ぶべきなのでしょうか?」



絹江「……駄目?」



グラハム「ッ……!!」ビキッ





205 : 2016/11/23(水) 04:43:14.43 ID:0vrNeivJ0



グラハム「この、そういう、あぁもう……ッ!」

絹江「???」

ウェイター(あざとい)

ウェイトレス(あざとい)

マスター(あざとい)


グラハム「ゴホン……分かった、承諾しよう!」ガタ

絹江「!」

グラハム「――改めて、良い関係を祈念させていただく。よろしく頼む、絹江・クロスロード」スッ

絹江「えぇ、こちらこそ。よろしく、グラハム・エーカー!」ギュ

グラハム「…………」

絹江「…………」


グラハム「……慣れるまで、しばし沈黙が常となりそうだ」フゥー

絹江「あー……そこはご愛嬌ってことで」アハハハ


 ・
 ・
 ・
 ・





206 : 2016/11/23(水) 05:03:06.95 ID:0vrNeivJ0


――市街――


 時刻は、既に夕刻に差し掛かる頃合い。
 あれから慣れぬなりに会話を重ねた二人は、喫茶店を後にして車へと歩み始めたばかり。
 赤らんだ光に照らされているからか、話し込んで熱を帯びたからか、はたまた。
 二人の頬に差した朱が意図を見出すまでには、今しばらく時とコトが必要になるであろう。


絹江「でも、良かったの? お勘定、随分いってたみたいだけど」

グラハム「馬鹿にしてくれるな、こう見えて士官級の給与は得ている」

グラハム「たかが高給喫茶で談笑した程度で明日が霞むほど、窮した生活は送っておらんよ」

絹江「そうだとしても……ちょっとね、申し訳ないっていうか」

グラハム「全く……日本人は気を遣いすぎる。次は……」

絹江「……グラハム?」

グラハム「……」


 会話の端を留めたまま、グラハムが、止まった。
 それは、獣が何かを嗅ぎ分けるがごとく、焦点を合わせるように何かを探っていた。
 違和感。
 目の前にある、【それ】に、彼の眼は釘付けになっていた。


絹江「違法駐車?」

グラハム「…………」


 視線の先には、青色の普通車が堂々とバス停に陣取っていた。
 呆れたように二人の警官がその回りを観察し、通行人やバス待ちのサラリーマンたちは知らん顔で携帯を弄っている。
 ネームプレートなし、あまり綺麗とは言えない有様のそれ。
 絹江もため息とともにそれを見る。
 いつの時代もルールを侵す人間はいるもので。
 それだけならば、よくあるありきたりな日常の一枚に過ぎない。


グラハム「……!」


 それだけ、ならば。



207 : 2016/11/23(水) 05:22:18.65 ID:0vrNeivJ0


 クラクションの音が二回、バス停の更に先から響いてきた。
 本来普通車が陣取っている場所に収まるべき、路線バスの一台が寄ってきたのだ。


グラハム「くっ……!」

絹江「え、なに、ちょ……」


 まずグラハムは、前へと走り出そうと試みた。
 バスへ駆け寄ろうとしたのだろうか。
 しかし、すぐにそれを止めた。

 バスは乗用車に横付けし、すれすれに寄りつつ降車待ちの乗客を降ろし始めていた。
 警官らはガムでも噛みながら乗用車に寄りかかり、その様子を眺めている。
 小学生低学年ほどの男女児童、けんけんをしながら笑いあって降りてきた。
 微笑ましいその姿に、老齢の男性が帽子を振って挨拶をした。

 ――間に合わない。

 ――無理だ。

 ――救えない。

 彼の直感が、はっきりそう告げた。


グラハム「絹江さん!!」

絹江「きゃ……っ?!」


 とっさのこと、グラハムは絹江に飛びつき、覆いかぶさって倒れ込む。
 彼女は、グラハムに押し倒されながら、何か、視界が明るく広がっていくような感覚を覚えた。

 そして、次の瞬間、衝撃。
 二人の体は宙に浮いて数メートルは後方に吹き飛ばされ、転げ落ちた。


グラハム「ぐ――ッ!!」

絹江「きゃああああーっ!!!」


 背を撫でる熱風、殴りつけてくるようなつぶての雨。
 耳は一瞬の内に音を感受することを拒否し、喉は吸い上げた砂埃を排除しようと咳き込み、むせた。
 しっかと抱きしめるグラハムの腕と、顔に感じる生暖かな雫の熱。
 その液体が赤い色をしていることに気づいた頃に、それは夢のように通り過ぎ。

 起き上がったときには、凄惨な現実だけをばらまき散らかしていた。


絹江「――――」

 

 耳がおかしくなっているのだろう、辺りの音は聞こえない。

 そこは、ただ、車と、建物と、標識と――人の。

 残骸が転がるだけの、地獄に様変わりしていた。



210 : 2016/11/23(水) 09:29:14.69

乙乙
おちゃめに過ごしてる教授見ると先が怖くなるな



212 : 2016/11/26(土) 05:03:52.99 ID:9H/9bfXg0




――――


グラハム「ぐ……う……ッ」


 全身を万力で締め上げられたような激痛。
 顔を上げると、切れた額から血が滴り落ちる。
 呼吸を意識する。
 ゆっくり吸い上げた空気を少しずつ吐いていく。
 地面に叩きつけられた上、庇った分の体重も加味した衝撃は相応のダメージを総身にもたらしていた。
 が、そんなことはどうでもいい。
 意を決し立ち上がる。

 眼前には、地獄が広がっていた。


グラハム(……酷い、な)


 退勤時間の路線バスを狙い撃ちにした、計画的な爆破テロ。
 横転したバスに薙ぎ払われた通行車両が道をせき止め、現場は阿鼻叫喚。
 爆心地は、衝撃の凄まじさを物語るように、綺麗な円形の無をそこに表していた。


グラハム(あの場にいた者達は……即死だろう。威力が高すぎる、バスが多少離れていてもどうにかする意図があったはずだ)

グラハム(ならば、恐らくは時限式。リモコン操作による二次被害狙いは恐らくはないはず……)


 痛む膝を庇う猶予もない。
 事態は一刻を争うからだ。
 急がねばと、一歩を踏み出した。

――その隣を、更に速く、駆け出した影があった。


絹江「―――」

グラハム「な……!?」





213 : 2016/11/26(土) 05:09:38.79 ID:9H/9bfXg0

 とっさに、手を掴んで制した。
 危険性は薄い、しかし確証が持てない以上、近づくのは危うい。
 軍人たる自分が、まずは行くべきだと、言おうとした。
 が、言葉を発する前に、彼女が振り返る。
 潤んだ瞳が、真っ直ぐに、見つめてくる。


絹江「――離して!」


 気圧された。
 視線に胸を穿たれたような錯覚をも見た。

 腕は、震えていた。
 一筋の雫が、頬を下っていった。
 噛み締めた唇からは血が滲んでいる。

 怯えているのだ。
 間違いなく、彼女は怯えているはずなのだ。
 だのに、その眼は、言いようのないほど雄弁に私に咆哮していた。
 
 【救ける】のだ、と。



グラハム「……」


 自然と、手を離した。 
 圧倒されたからではない。その望みのために、託したのだ。
 すぐに彼女はヒールのかかとを折って、残骸散る惨劇の場に駆け出していった。
 ならば、自分は自分の成せることを為そう。
 目指す途中で、携帯端末に手を伸ばす。
 落ち行くリアルドの待受など目もくれず、着信履歴に指を滑らせた。





214 : 2016/11/26(土) 05:35:05.92 ID:9H/9bfXg0



――――


絹江「っ……ごほ……けほ」


 吸う度、肺に飛び込む塵に呼吸が乱れる。
 見えるもの、見えてしまうものに眼差しは敢えて直視を避け、それが何であるか理解する前に焦点を外す。
 以前、薬品輸送のトラックが事故で爆発した現場に立ち会ったときは、運転手の見るも無残な有様に卒倒してしまったものだ。
 今、此処で、同じ轍を踏む訳にはいかない。
 今は、一瞬一秒が何より惜しい。
 すくい上げられる命があるなら、それが出来るのは自分だけなのだから。


絹江「誰か……誰か、いませんかー! 怪我をしている人は、助けが必要な人はいませんかぁーっっ!!」


 ありったけ、今出せる声で、叫んだ。
 崩れた壁や割れたガラス、道路標識、木々。
 倒れて死角になっているところに向けて、見逃さぬよう目を凝らす、可能な限りを正気と天秤にかけて。

 しかし、見つからない。
 そこに多々【ある】のは、明らかに終わってしまった命の残滓に過ぎない。
 こみ上げる胃液を、無理やり両手で喉奥に押しとどめる。
 見るな、まだ、今は、止まってはいけない。
 念じながら、まだあるかもしれない可能性を探そうとした。
 
 瞬間、顔が朱に、熱に照らされる。


絹江「ひ……っ」


 燃え盛る爆弾車が、小さく火を天めがけ吐き出す。
 驚かされた猫のように飛び上がり、身が竦む。
 肩が、震える。
 一気に涙が溢れ出す。
 怖いという感情が、心臓を痛いほどに叩き鳴らす。
 車が爆発する可能性も考えれば、長居なんて出来ない。
 先ほど、グラハムが制止したのもきっとそのためだ。
 

絹江(でも……っ)


 それでも、あぁそれでも。
 此処で尻込み、退いてしまったら。
 自分は一生後悔すると、そう思うから。
 二の腕に爪を立てた。
 涙を拭った。
 胸を叩き、感情を叱りつけた。
 
 今、「救ける」ために。
 

「……――……」

絹江「え……?」



215 : 2016/11/26(土) 05:58:59.09 ID:9H/9bfXg0


 呼ばれた?ような気がして、振り向く。
 焼けたフレームと、剥がれて積み重なった壁面のタイル。
 転がったモノ達の、一番遠くに、焦点があった。
 何かを、抱えるように倒れている、影。
 それが、今目の前で、明らかに揺れたのだ。


絹江「――!!」


 無我夢中になって、駆け出した。
 少し、足元を蹴ってしまったかもしれない。
 踏んでしまったかも。
 でも、多分、それは、何もかもの感情を押しのけて認識をさせなかった。

 近寄って、それが何であるかようやく認識できた。
 老齢の男性……爆風と破片に無残な姿になった、犠牲者。
 しかし、その傍らに、確かに抱いたもの。
 砕けた身で、あぁ、こんな状態になっても……!!


絹江「あぁ……神様……っ!!」


 二人の、あの児童二人を、抱きかかえている……!


グラハム「絹江さん!!」


絹江「!」


 彼の腕から二人を取り上げ、寝かせていると、声がした。
 グラハムが、額をハンカチで押さえながら駆け寄ってきた。
 その傍らには、白いフレームに赤十字のマークを添えた医療用オートマトン。
 いち早く近隣の緊急用オートマトンを起動させてくれたのだろう。
 
 二人の児童は痣だらけで気絶こそしているが呼吸も脈もあった。
 何故、どうやって、あの爆発で彼はこの子達を庇えたのか。
 血相を変え駆け寄ったグラハムに何かを察したのだろうか。
 人混みが、盾になったのだろうか。
 爆風が発生した位置が関係しているのか。
 一気に色々な考えが噴出して、それはまるでそれらの答えたり得ないものに一掃されていく。


絹江「良かった……ほん……とうに……っ」


 感謝と、安堵。
 眠っているかのように瞳を閉じる子らを見つめながら、乾いてしまいそうなくらい、涙が流れてきた。
 
 そう、して。
 ゆっくり、風景が傾いて、暗くなって。

 そこで、記憶は、途切れて、消えた。


 ・
 ・
 ・ 
 ・





216 : 2016/11/26(土) 06:27:07.68 ID:9H/9bfXg0


――ユニオン、AEUの主要都市七ヶ所における、時限式IED(即席爆発装置)を使用した爆発テロ行為。

――それは、ガンダムを有し世界中に武力介入を繰り返すソレスタルビーイングに対する【報復行動】を銘打ったものだった。

――ガンダムを放棄し、武装解除するまでは無差別に繰り返す、と声明が発表される。


――それは、国際テロネットワークによる、天上人への宣戦布告であった。



エイフマン「やはり来たか……」


ホーマー「三大国の一柱、AEUと傭兵国家モラリアで全く相手にならないガンダムには正攻法では戦えない」

ホーマー「故に、無辜の民を人質にして、神が如く屈服を要求する」

ホーマー「数百年変わらない、奴ららしいやり方です。自身らを正義と謳い、平然と邪悪を成すのですから」

エイフマン「全くもって、はらわたが煮え繰り返る気分じゃ」

エイフマン「確かにソレスタルビーイングは脅威に他ならん、だが、全くもって……!」

エイフマン「あの外道ども……【目的の完遂まで自分たちの行為を大国が黙認する】とでも思っておるのか!!」バンッ

ホーマー「このタイミングで仕掛てきたのは、ガンダムによる被害のため大国が及び腰になるタイミングを狙ってのこと、でしょうな」

ホーマー「しかし……」

ホーマー「内情見えぬテロ組織にではなく、市民の矛先はガンダムを倒せぬ我々にも否応なく向いてきましょうな」

エイフマン「ソレスタルビーイングとともにな。不甲斐なさは甘んじて受け入れよう……が」

ホーマー「あのくそったれ共の中指までは、我々も容認は出来ませんな」

エイフマン「へし折ってくれる、何としてでも、真っ先にな」


PPPP


エイフマン「カタギリ君か」


ビリー『はい、教授。消防隊と協力して、作業用メカでの廃車の移動と処理は終了しました』




217 : 2016/11/26(土) 06:51:33.60 ID:9H/9bfXg0

エイフマン「現場は……どうだ」

ビリー『死者38名、重軽傷者数は70人は下りません』

ビリー『酷い有様です。目も当てられない、ここだけまるで戦場だ』


エイフマン「……神よ、どうか御霊を安らかに、御身の下で受け入れたまえ」スッ

ホーマー「ビリー、グラハムはどうした」

ビリー『陣頭で基地の作業班と消防隊の連携を指揮した後、治療のため病院に向かいました』

ホーマー「あいつめ、何をやっている……」

ビリー『あはは、不思議とみんな従ってましてね、結果的にはスムーズに進みましたよ』

エイフマン「あやつらしいと言えばらしいかな、ユニオンの大尉だしのう」

ビリー『打撲と裂傷で血まみれのまま、オートマトン借りて重傷者の治療も兼ねてやってましたからね。戻るのはしばらくは……あぁ、いや』

ホーマー「あぁ、しばらく休めと伝えろ。此方で手続きは済ませておいてやる」

エイフマン「まあ、無駄じゃろうて」

ホーマー「でしょうが、ね」

ビリー『クロスロード女史は気絶して同じ病院に搬送されたそうです、グラハムが後で送迎するって』

エイフマン「ほれ、入院する気がないぞ、あやつ」

ホーマー「……はぁ~……」

エイフマン「何がともあれご苦労だった、整備は引き継いでおく故、戻ってきたらゆっくり休むといい」

ビリー『了解です、ではまた』ピッ


エイフマン「さて……どう動く、ソレスタルビーイング?」



――――

ベシンッ

グラハム「いっ……!?」

看護師「痛くて当然! こんな傷、今の今まで放置して!」ガミガミ

グラハム「…………」



224 : 2016/12/03(土) 04:58:46.53

うっわ、すいません>>217のエイフマンの「大尉」はミスです。ごめんなさい。
無視していただくしかありません、反省いたします。



225 : 2016/12/10(土) 03:35:29.17 ID:RH91ZoO/0

エイフマン「あやつらしいと言えばらしいかな、どこぞで活躍した星条旗の英雄どののようだのう」

ホーマー「階級が一つばかり足りないようですが、ね」


としておけば……大丈夫でしょう。
ネタでしくじるなど言語道断ですね……申し訳ないです。

では続きを。



226 : 2016/12/10(土) 03:56:13.04 ID:RH91ZoO/0


――市内病院――

医師「傷の縫合と打撲部の治療は完了いたしました」

医師「特殊生体縫合糸と部分薬液注射、即席培養皮膚組織移植に体液滞留型シートも使いましたから、傷は全く残りません、保証いたしますよ」

グラハム「感謝いたします、ドクター」

医師「仕事ですから。もう少し早く来ていただけたなら、痛い思いもさせずに済んだのですが?」

グラハム「お手数をおかけしたことは謝罪いたします、ですが、私も職務を全うしたまでです」

医師「とやかくは言いません、生きてこの病院に来ていただけたなら全力を尽くすまでです」

グラハム「……ドクター、医療行為は甘んじて受けました、ですので」

医師「ん、あぁ、ジャーナリストのパートナーと二人の子供の件ですね」

グラハム「友人です。治療が先決とのことでしたので、早速」

医師「ふぅーむ……」ポリポリ

医師「彼女の方は外傷は皆無、精神面での治療は専門外ですが、足繁く通っていただければ提示できる医療は数多くあります」

医師「催眠療法、VR、長期睡眠夢想療法……ええ、【貴方が多く活用している】これらのものでもすぐに手配できましょう」

グラハム「はは……軍の取り決めです、私自身は……」

医師「ええ、ええ。一定期間の長期軍務に従事した者への法律的義務、滞りなく受けていただけているようで何よりです」

医師「ですが前例……すっぽかしの前科がありますゆえ、一応ね。はい」ppp

グラハム(ぬう……先ほどの看護師といい、軍に近い病院は妙に熟れていてやりにくいことこの上ない)

グラハム(二年ほどだまくらかしたくらいで酷い言われようだ……!)


医師「子どもたちの件ですが、一時間ほど前に手術室にて処置を終え、病室でお休みになられています」

グラハム「手術の必要性が……?」

医師「……ええ、まあ……発見が遅れていれば相応には」

グラハム「!!」



227 : 2016/12/10(土) 04:12:35.80 ID:RH91ZoO/0

医師「腹部強打による内蔵出血だそうです。搬送中に車両の検査機器が発見し、到着と同時に施術を」

医師「ふたりとも検査段階で発見が遅れていたら……という程度には危険だったようです」

グラハム「ッ……」

医師「今では完全に安定し、個室でゆっくりと休んでおられます。無論、関係者以外にはご内密に」シー

グラハム「は……ですが申し訳ない」

グラハム「私はかの子らとはなんら無関係で……」

医師「ですが、その子供らを発見してくださった女性とはご友人なのでしょう?」

グラハム「あ……」

医師「……生きてここに来てくだされれば、力も尽くせます」

医師「手足がなくなっても、内臓が欠けても、人らしい生活への助けを今の医療なら提示できるのです」

医師「ですが、たどり着くまでに亡くなられた場合、我らにも、悼むことしか出来ません」

医師「ご友人に、医師一同、御礼を言っていたとお伝え下さい。彼女が繋がねば、幼い命は人知れず散っていただろうと」ペコリ

グラハム「……確かに、承りました」


 ・
 ・
 ・

《犯行声明文は以下のとおりです》


グラハム「……」


「さっきモールの手前のバス停でテロがあったって!」

「怖いねえ……ソレスタル何とかってのが何かしたのかい?」



《……私設武装組織ソレスタルビーイングによる武力介入の即時中止、及び武装解除が行われるまで、我々は報復活動を続けることとなる》

《これは悪ではない》

《我々は人々の代弁者であり、武力で世界を抑えつける者達に反抗する正義の使徒である》


グラハム「よくもそのような詭弁を……ッ!!」

グラハム「……くっ……」



228 : 2016/12/10(土) 04:30:23.10 ID:RH91ZoO/0

――病室――

絹江「……ん……?」

グラハム「! 起きられましたか、絹江さん」

絹江「――――」ボー

グラハム「あ、こほん……此処は病院で、君は搬送された。もう安心だ」

グラハム「外傷は問題ないそうだから……!」


絹江「――!」ガバッ

グラハム「ま――!!」


ガシッ


絹江「離して、まだ――っ!!」

グラハム「ま、止まって……ッチ、あぁもう……!」

絹江「――!!」ジタバタ


グワシッ


グラハム「私を見ろ、絹江!!!」

絹江「っ?!」

グラハム「もう終わった、終わったんだ! 救えたものは救った! もういない!!」

グラハム「もう、探さなくても、いい……ッ!」

絹江「……終わっ……た?」

グラハム「そうだ、終わった……!」

絹江「……あ……あ、あ」


「わああぁぁぁ…………っっ!!」


グラハム「……」ギュゥ




229 : 2016/12/10(土) 04:42:01.45 ID:RH91ZoO/0




 ・
 ・
 ・


絹江「……ごめんなさい、迷惑かけちゃって」

グラハム「何も問題ありません。落ち着きましたか?」ギュー

絹江「はい、おかげさまで……ありがとうございました」

グラハム「なんの。むしろあの状況でよくぞあそこまで耐えられました」ギュー

グラハム「胸を張って欲しい。貴女にはぜひとも伝えなくてはならないことがあるのです」ギュゥゥ


絹江「っ……えっと、あの……っ」

グラハム「? なにか?」ギュー


絹江「は……離してもらえると……嬉しいなぁって……あ、はは」ジュゥゥ

グラハム「……失敬」パッ

絹江「っ……」ササ



――病室外――


看護士「チッ……」

看護師「チッ……」

看護士「……どうしましょう」

看護師「違うとこ先回るわよ、患者さんは大勢いるんだから」

看護士「うっす」


――――




230 : 2016/12/10(土) 05:05:09.39 ID:RH91ZoO/0



絹江「そうですか、あの子達は無事に……」

グラハム「少なくとも、瓦礫とご老人の下で守られていた二人を発見するのは至難の業であったと私は思います」

グラハム「貴女が恐怖と戦った価値はあった。無論、その行為だけでも賞賛されるべきことではありますが」

絹江「でも、土壇場で倒れていたんじゃあ……ね」

グラハム「その後を私が引き継いだのです、貴女から託されたのだと私は奮い立ちましたが?」

絹江「むう……」

グラハム「何より、結果が伴った以上、卑下はかえって失礼に当たりましょう」

グラハム「彼らを救った老紳士から貴女に、貴女から私に……救急隊員、医師と繋がった、それで良いのでは?」

絹江「ふふ……駄目ね。何を言っても褒められちゃいそう」

グラハム「言っているでしょう? 賞賛されるべきだと」

絹江「はいはい……謹んでお受けいたします、と」


絹江「それにしても、ついに現れましたね」

グラハム「国際テロネットワーク……独自の情報網と上位存在による命令系統を持たない、国家なき軍隊」

グラハム「脳から神経に伝わるような従来の方針ではない、言うなれば昆虫の神経節のような存在」

絹江「ソレスタル・ビーイングを目標とみなして……自らの力ではなく、国家の威信と存在意義を揺さぶることで攻勢に出た」

グラハム「黙っている訳にはいかない、しかし打つ手があればそも早急に、早々に打っているのも事実」

絹江「実質、隠れ潜む彼らが見つけられるならガンダムに苦しんでいる道理もない……」

グラハム「厄介極まりないが、奴らは大きな失敗をしました」

絹江「それは……?」


グラハム「ガンダムでもない輩が、今回は三国を同時に、明確に敵に回したのです」

グラハム「見誤っているといっていい。奴らは、世界を舐めた」






231 : 2016/12/10(土) 05:27:33.73 ID:RH91ZoO/0


オモイハ- セキバクノヨゾラ-ニ- マイアガリー

絹江「!」

グラハム「む」


絹江「私の携帯……あぁそっか、そういえば沙慈とかにも連絡……」ガサゴソ

絹江「……あれ、あれれ……?」ガサガサ

絹江「ベッドの下とかに落としたのかな……すいません、グラハムさ」


グラハム「はい、こちら絹江・クロスロードの携帯です」ピッ

絹江「なにやってんですかあんたぁぁぁぁぁああ?!!!」


グラハム「何って、無論、貴女がお休みになっている間の応対を」キリッ

絹江「何であなたがそれをやるのって……ちょ、まさかデスクとかから来てないですよね?!」


グラハム「ご安心下さい、しっかりと対応しお休みを勝ち取っておきました」ニッコリ

絹江「何を言ったあああああ?!!」


グラハム「む、失礼、電話のお相手が先ほどから無言だ。もしもし?」

絹江「返してくださいってば、ちょっと……!!」


『……で……!』

グラハム「ん?」


沙慈『なんで姉さんの携帯にお前が出るんだッッッ!!!』キィーン


絹江「沙慈?!!」

グラハム「……絹江さん」


グラハム「いつの間にか彼の私に対する対応が劣悪化しているのですが、私は何かいたしましたでしょうか……?」オマエッテ…

絹江「しない!! フォロー不可!!」パシッ



――――




232 : 2016/12/10(土) 05:40:21.29 ID:RH91ZoO/0

デスク「絹江ー、連絡まだかー」

グラハム『お久しぶりですデスク。グラハム・エーカーです』

デスク「えっ」

グラハム『いつぞやは大変失礼いたしました、この場をお借りしてお詫びを』

デスク「あぁいえ、ご丁寧にどうも……」

グラハム『彼女ですが、現在(テロに巻き込まれたため病院に搬送されていて)私の隣(の医療ベッド)で(点滴など投与され)おやすみ中でありますゆえ、ご用件などあれば伝言としてお承り致しますが』

デスク「え……」

グラハム『……どうかなされましたか』

ですく「あっはい、なんでもないですごめんなさい」

グラハム『そうですか? 彼女は昏倒こそ致しましたが、要件であればしっかりと私が……』

デスク「(昏倒?!) あ、いえ、彼女には休暇も与えますから仕事は気にせずしっかり休めとお伝え下さい」

グラハム『左様でありますか、委細承知いたしました』

デスク「ええと、お大事にと」

グラハム『確かに』

ピッ


デスク「……これだから欧米の男ってのは……」


同僚「どうしたんスかー」ズズー







234 : 2016/12/10(土) 08:00:57.03

これは みんな ひどい w


239 : 2016/12/17(土) 03:28:11.79 ID:df44zdVk0



――――

絹江「……ねえ、本当に大丈夫なの……?」

沙慈『学校は臨時休業、病院に行くような怪我もない。姉さんのほうがよっぽど酷いよ』

沙慈『お休み貰ったんでしょ? だったら休んでよ……もし無理して倒れたら、そっちに飛んでいってやるからね!』

絹江「ふふっ、それは困るわね。勉強放り出されたらたまったもんじゃないもの」

沙慈『へー、別の意味じゃなくって』

絹江「……さーじー?」


沙慈『それで、ご理解はいただけましたか? ミス・絹江?』

絹江「近くに本人いるんだから、そういうことしないの……もう」

絹江「はいはい、了解いたしました! こっちで一日休んでから、そっちに戻るわ」

絹江「何かあったら連絡はして。宅配代はいつもの冷蔵庫の横、それと極力自習もすること。あと……」

沙慈『はいはい……了解いたしました! いつもの延長だよ姉さん。こっちは心配しないで』

沙慈『帰ったら、改めて話をしてよ。今回ばかりは、結構……考えさせられた』

絹江「……そう、私もよ……」


沙慈『そうだ、姉さん』

絹江「ん、まだ何かあった? なに?」


沙慈『グラハムさんに、代わってほしいんだ』

絹江「……え?」


――――




240 : 2016/12/17(土) 03:51:19.33 ID:df44zdVk0



――室外・廊下――

絹江「えっと……それじゃあ、お願いします」

グラハム「ええ、お預かりします」

グラハム「終わり次第そちらにお返しします、どうぞ、お休み下さい」

絹江「……沙慈……分かってるわね?」

『……』



グラハム「さて、君から私に話すこととは、恐縮の至りだな」

『……お久しぶりです、先ほどは……申し訳ありませんでした』

グラハム「構わない。君に対し好感を持ってもらえる行いは絶無」

グラハム「そしてファーストコンタクトの所業を思い返しても、君に軽蔑される要素は片手には余る」

グラハム「済まないね、沙慈君。君の姉上を私事で連れ回した、これは報いかも知れん」


『それは、言わないであげて下さい』

『姉は最近良く笑います。貴方のことだけじゃなく、エイフマン教授とか、色々なことで』

『貴方が、悪いと思って姉と関わったりすると……その、同情とか、人に気を遣われたりとか、駄目な人だから……』

『えっと……姉の友人関係にまで、口とか出す気はないので、余計っていうか、あの……』

グラハム「ふふ……理解した。彼女には今まで通り、友人としての距離と関係で接していくとしよう」

『……はい、すいません……口下手で』

グラハム「なに、同じユニオンとは言えテロの災禍に巻き込まれた兄弟同士、彼女の心痛と同じ重みを君は感じているだろう」

グラハム「想いの大きさがときに唇を重くすることもある。そのような関係……羨望を抱くよ、沙慈・クロスロード」


『重ね重ね、申し訳ありません……』

グラハム「敢えて言おう、気にするな、と」

グラハム「私も他者に誇れる見栄を持っているわけではない。誤解だと憤慨するには外界への努力が足らない男と自覚もしている」

グラハム「気まずさに拳を握ろうと、その場で謝罪しようと試みる君の誠実さ……それを知れたことで報いと思って欲しい」

『え?! あ、あの……見えてました? 僕の手って……』

グラハム「男にしかわからん共感のようなものだ、私にも経験がある」

『っ……』

グラハム「――そうやって紅潮するさまは、姉上にそっくりだ。実に奥ゆかしい」

『……それ、どういう意味です……?!』

グラハム「? そのままの意味だ、額面通りに受け取ってくれ」



241 : 2016/12/17(土) 04:11:22.85 ID:df44zdVk0


『……エーカー中尉』

グラハム「何かね」

『姉を、絹江を助けていただきありがとうございました』

『貴方が助けてくれたから、痣一つなく済んだんだって、姉が言っていました』

『僕にとっては、たったひとりの家族なんです。本当に、ありがとうございました』

グラハム「――その一言を聞けただけでも、彼女を助けた甲斐があったというものだ」

グラハム「身を挺して牙無き市民の身命と財産を護る……久々に軍人の本懐を全うした心地だよ」

グラハム「護れてよかった。そして……護れなかった命もあった。せめて一つ、零さずに救えたのは幸運だった」

『……戦争に、なるんですか』

グラハム「ならんさ。国家が国家に相対した政治の一手段が戦争だ」

グラハム「奴らは国家ではない。政治も解さない。ただの害虫だ、必ず掃滅する」

グラハム「それが我々フラッグファイターの使命なのだから」

『…………』


グラハム「君には、変わらぬ日常を過ごしていてもらいたい」

グラハム「テロに遭遇した以上、すぐには難しいかもしれないが……それが絹江さんの望みであると私も確信している」

グラハム「そのために私は……」


グラハム「……?」



『中尉?』

グラハム「!」

グラハム「……あぁ、いや……そうだな、奴らの正体は三国も総出で捜索しているだろう」

グラハム「すぐに沈静化しよう、そうなる努力は惜しまんさ」

『……はい、待ってます』

グラハム「警戒だけはしておいてくれ……っと、これでは先ほどの言葉とは矛盾するかな」

『いえ、普段通りに、少し気を張るだけにしておきますから』

グラハム「柔軟な対応、感謝するよ」



242 : 2016/12/17(土) 04:27:36.10 ID:df44zdVk0



『それじゃあ、姉にはよく休むように言っておいて下さい』

グラハム「ああ、教授には私からも感謝の意を伝えておこう」

『失礼しま……え……?』

グラハム「ん?」

『どうして、エイフマン教授が僕に連絡したって知ってるんですか?』

グラハム「男の勘だ。教授が私に伝えていたというオチはないよ」

グラハム(もっとも、デスクにはテロの詳細を伝えていたか自分でも怪しいところだからな……)

『……わかんない人……』

グラハム「ふふ、そうでなくては姉上には釣り合うまい?」

『……明言は避けます。じゃあ、いずれまた』

『改めて、ありがとうございました。中尉』


プツッ


グラハム「……そのために…………?」


グラハム「そのために、私は……飛ぼうとしたのか、今?」


グラハム「自分のことだけを考えて、自分のためだけに飛んでいた、その私が、建前にも他者のために?」


グラハム「いや、あれは……建前ではなく……」


グラハム「っ、気の迷いか……飛ぶ前に払拭しておかねば、な……」


――――


絹江「あ、戻ってきた」

グラハム「端末は無事ですよ、ご心配なく」

絹江「人間関係の方は?」

グラハム「ふふ……崩壊寸前を上手く補強出来たと自負します」

絹江「そう? まあいいわ、嘘じゃなさそうだし」



243 : 2016/12/17(土) 05:06:20.57 ID:df44zdVk0



グラハム「…………」

絹江「何かあった? なんだか落ち着き無いけど」

グラハム「いえ、私事です。彼との会話は得るものしかなかったと言っていい」

絹江「そんな大層なこと言える子じゃあないけれど……あなたがそう言うなら、そうなのかも」

グラハム「男子三日会わざれば刮目して見よ、帰宅すれば一皮むけた弟君に会えましょう」

グラハム「携帯です、ありがとう――」




――――


絹江「――――」

グラハム「……絹江、さん?」


 差し出された右手の携帯端末。
 それに交差して、自然と左手が彼の顔に差し出されていた。
 視線は、彼の右こめかみの包帯とガーゼから。
 痛々しく擦り切れた右頬、唇へと。
 どれを見ても、胸の奥で何かが刃を滑らせる。

 私のせいで、ついた傷だと。

 罪悪感が、鼓動とともに痛みを流す。


グラハム「……男の勲章だ、ますますいい男になってしまった」

絹江「ごめんなさい、私のせいで――!」

グラハム「言わないでくれ、そんなことを言わせるために……」

グラハム「そんな顔をさせるために、君を助けたんじゃあない」


 少し屈んだ彼の顔に、そっと彼の手が私の手のひらを導いた。
 触り心地のいい包帯の感触と、熱いくらいの体温。
 まだ少し震えるままで、少し撫でるように動かしてみる。
 意外そうに目を丸くした彼は、すぐにいつも見ないような柔らかい笑顔を見せてくれた。


絹江「っ……うふ、なに、その顔……」

グラハム「師の教えさ。笑って欲しいときはまず自分が笑え……久しく忘れていたことだったが」

グラハム「君たちといると、新しいこと以上に過去から思い出す気がする。大切なことを、ずっと前に教わったことを」

絹江「その人は素敵な人ね……私にも分かる」

グラハム「ああ、本当に素晴らしい人だった」

グラハム「教えを乞うた側が偏屈では意味も薄かったろうに……根気強く教えてくれたよ、【最期】まで」


 そう言った彼の笑顔は、ひどく寂しそうだった。
 私は知っている、その人の名前を。
 言っていい、聞いていい名前ではないことも、知っていた。



244 : 2016/12/17(土) 05:27:35.27 ID:df44zdVk0




絹江「……ありがとう、グラハム。あなたのおかげでこうして笑ってられる」

グラハム「謹んで受け取ろう、絹江。こうして君の笑顔が見られた、代金はそれで構わない」


 言うべきことを告げると、刃は朽ちて、胸の中で人知れず散っていった。
 釣られて笑う。
 彼も笑う。
 その日はそれで終わり。
 彼は帰路について、見知らぬ天井を見上げての一夜となった。


一つだけ、気になった。
 その人の名前を、話したことを、教わったことを……いずれ、私に教えてくれることはあるのだろうか、と。

 一つだけ、また、気になった。
 そんな権利なんて無いと、どこかで分かっているはずなのに。

 ――いつか、教えてくれる日が来るのではないかと。期待する自分がそこにいると、いうことに。

 
 一つ、分からなかったことだと、後で分かった。

 そう思った意味、その感情の名前。

 今、この瞬間に、芽吹いたものなのだと。


――――


――全世界を巻き込んで、天上人に闘争を引き起こした国際テロネットワーク。

――少数の無差別テロ、三百年以上も続く不動の手段を用いて凶行を繰り返す彼らに、三大国であっても足取りの捕捉は困難を極めた。

――そうして、世界はあることに気づいた。気づいてしまった。


――唯一、法も国境も無く、情報のみを頼りに動くことが出来る存在に。

――彼らの敗因は、たったひとつ。

――世界にとって、彼らはソレスタル・ビーイング以上に【無用】の存在だったことである。


――――


――東海岸・空母――

ダリル「聞きましたか、隊長。ガンダムが南米に出たって……」

グラハム「認識はしている。だが出撃命令は出ていなかった」

グラハム「つまりはそういうことだ。恐らく例の害虫どもの巣があったのだろう」

ハワード「ラ・イデンラ……ですか」

グラハム「害虫には高尚に過ぎる名だ、呼ぶ価値もない」

ダリル「同感です、隊長」

ハワード「なるほど、だから今回【尻尾が掴めた】わけですか」

グラハム「巣から追い出されて焦っているということだろう。慈悲など無い、職務をこなすまでのこと」


ハワード「ガンダムは、来ますかね?」

グラハム「今回ばかりは……出逢いたくはないな、機ではない」


 ・
 ・
 ・
 ・



248 : 2016/12/17(土) 23:26:29.29

やはり軍人のグラハムはカッコいいな
ブシドー?知らない人ですね



249 : 2016/12/18(日) 05:11:14.90 ID:Zkz/GkR90


――マーシャル諸島、陸上第一拠点。

――跡形もなく壊滅したその場所で、途方に暮れるテロリストを襲撃したのは人革連の無慈悲な大規模掃討部隊。

――抵抗した者はその場で鉄と火によって、降伏した者は後に荒縄を以て大衆の面前でその罪を裁かれた。



――アフリカ西部海域、海上第二拠点。

――その影響下にあったアフリカの小拠点群は、艦船から引き上げられたデータを元に尽く磨り潰された。

――最大効率の電撃戦、見事な戦術予測を駆使したAEU・MS部隊の強襲を防ぐ手だてなど、彼らはもとより持ち合わせてはいなかった。



――そして南米、山岳第三拠点。

――彼らは集結の後、ガンダムを恐れ部隊を分けること無く動かした。

――それゆえに筒抜けとなった動向は直ちにユニオン軍に伝達。

――彼らを迎えたのは、ガンダムとの遭遇戦を想定した、まさかの最精鋭。

――MSWAD・フラッグファイターであった。






250 : 2016/12/18(日) 06:02:34.19 ID:Zkz/GkR90


――南米・密林地帯――

 鬱蒼と覆い茂る熱帯雨林の上空、高度を維持しつつ偵察機の示した目標ポイントへと急ぐ。
 天候は絶好のフライト日和。
 当初懸念されていた悪天候にも見舞われず、信心浅い自分でも天啓にうたれた心地になるというものだ。

 偵察機による哨戒網はしばし監視を続け、状況の確定を判断した後出撃命令を下していた。
 電波妨害、確認できず。
 その一報にため息を漏らす自分と、胸をなでおろす己を胸中に見た。


『隊長、目標を確認』

グラハム「こちらでも視認した。予定通りポイント到着と同時に急襲をかける」
 
『制圧はお任せいたします、露払いは我々が!』

グラハム「その旨を良しとする。一気呵成に畳み掛ける、続けよ!」

『『了解!』』


 レーダーに感、サブモニターを拡大する。
 ヘリオン二機、アンフ三機。他車両数台、歩兵数十名。
 縦列で鈍重極まる死の行軍を続けていた。
 目指す場所があるわけでもない遠征、されど眺めたままで済ませる慈悲などもう残ってはいない。
 僚機が指定ポイント到着を告げる。
 作戦行動、開始。

 操縦桿のセーフティロックを解除。
 火器管制システムの正常動作を確認。
 リニアガンのメインチャージ開始。

 大きく、息を吸う。
 吐く間も惜しみ、一気に機体を急降下させた。

 
 拡大モニターの敵が、こちらを見上げたのを確認。
 解除と同時にミサイルのロックをヘリオンに合わせ、僚機と同時に発射した。
 即座に反応したヘリオンが飛び退き、射角の足りぬアンフがもたもたと列を乱し逃げ惑う。
 自身のミサイルは出遅れたヘリオンの上体を吹き飛ばし、僚機のものはアンフを木々より高々吹き飛ばした後、爆発四散させてみせた。

 アンフ自体は北米において輸入鹵獲実験機体以外の軍用登録がされていない希少機体である。
 南米にはユニオン加盟以前から使用されていたものがまだあると聞いていたが、出来の悪い花火が末路では笑い話にもなるまい。
 その劣化フレアの残煙を起点に旋回、機体をMSモードへと変形させた。
 残り、二機。微動だにしないアンフに、動きのマシなヘリオン。
 それと僚機の砲弾に逃げ惑うその他大勢。
 既に制圧用の部隊はこちらに向けて移動している最中。
 余計な手間は省くのが上策。
 そして何より……

 こればかりは、自分の手でケリをつけておきたいことだった。



251 : 2016/12/18(日) 06:38:00.45 ID:Zkz/GkR90



グラハム「こちらは米軍第一航空戦術飛行隊である」

グラハム「武器を捨てて投降せよ。諸君らの身柄は国際法……」


 ここまで言葉を繋げて、すぐに機体を大きく左に傾けた。
 ヘリオンのリニアライフルが有無を言わさず火を噴き、返答の代替としたからだ。
 アンフの滑空砲が動いたのを確認し、パイロットの生存と機体の稼働を認知する。
 無論、そんなものに当たれるほど寝ぼけた操縦はしていない。
 砲弾を右、左と小刻みに動かし回避してから、通常出力の砲弾で四肢を砕き、無力化する。

 すぐ横の唯一の友軍が沈黙したのを見て、腹が据わったのだろうか。
 ヘリオンは防御ロッドを構えつつソニックナイフを抜き放ち、吶喊を敢行した。
 ジェット噴射と飛び上がりを併用しての陸戦挙動。
 相応の心得を思わせる戦術が、まっすぐ自分の命を狙ってくる。

 突っ切ってきたヘリオンの右腕が、奇声を上げるナイフを胴体めがけ延ばす。
 それを右回りに回転しつつ、プラズマソードの抜刀に合わせて横をすり抜けかわした。
 すれ違いざま、がら空きの腹を焼き切る光線の刃。
 幾ばくかの抵抗を操縦桿で感じ取りながらも、交錯は一瞬。
 Eカーボンを溶断されたヘリオンが二等分され、密林の湿った大地に倒れ伏した。


『お見事です、中尉』

グラハム「改めて思うが、ただの弱い者いじめだな。感慨も湧かん」

『連中には相応しい結末というやつです。市民を狙って上前をはねようなどと!』

グラハム「制圧部隊の到着を待ってから帰投する。周囲の警戒を怠るな」

『現れませんでしたね、ガンダムは』

グラハム「残飯には目もくれぬということだろう。肥えた舌の持ち主ということだ」

グラハム「まあ……おかげで一応の面目は立っただろうが。おっと」


 不穏な動きを見せたトラックの荷台の乗組員に、銃口を向け威嚇。
 飛び上がり両手を挙げた連中の手から対地ロケットが転げ落ちる。
 馬鹿馬鹿しい、と、自然に声を出していた。
 

 この一戦以降、正式にユニオンは声明を発表。
 ラ・イデンラによるテロ行為の沈静化、そしてソレスタル・ビーイングに対する国家としての方針。
 【自国領内での介入行為にのみ防衛行動を取る】という、対決回避の姿勢を見せたのだった。

 何れにせよ、彼らとの対決は遠のくばかり。
 ガンダムと一度も対峙していない対ガンダム部隊、そう揶揄されても何も言い返せない状況は暫く続くといえるだろう。
 しかし、何故だろう。
 こうしている間にも、その時が刻一刻と迫っているような気がしてならなかった。

 まるで、運命に導かれているかのような、赤い糸の手繰る感触を。
 感じずにはいられなかったのだ。


――――





258 : 2017/01/14(土) 05:47:19.61 ID:9HfvohLM0

おはようございます。では再開をば
今更ながらこのSSの設定はフィクションです。本編と合致しない点、創作、多々あります。
適度に突っ込んでいただければ幸いです



259 : 2017/01/14(土) 05:48:34.87 ID:9HfvohLM0


――――

「――私だ」

『例の件についての調査報告が挙がった』

「! お前たちか……で、どうだった?」

『あぁ、クロだったよ。君の言うとおり、あの【ご老人】は我々の計画の本流へ指先を触れさせつつある』

『言われねば気付けなかったかも知れん。彼の観察眼は触れてすらいない粒子の片鱗に既に届いていると言っていい』

「やはりか……老骨と侮るなと呈し続けた甲斐があったというものだ」

「テラオカノフなんぞとの比肩に終わる器ではない。このまま放置すれば間違いなく核心に触れてくるぞ」

『ふむ……君の彼への見解は実に的確だ、その案は多少の無茶を通しても実行に移す必要があるだろう』

『だが、こちらの手を煩わせずとも、君の距離ならある程度聞き出せたのではないかな?』

「怠惰の恨み節は勘弁被る」

『ッチ……こちらの手札ではヴェーダの情報開示にも制限がある』

『同じ【監視者】なら分かっているはずだが、思慮が及ばないかね?』

「ふん……尚の事分かっているだろう。あの老人は私を警戒こそすれ信用などしておらん」

「下手に嗅ぎ回ってみろ。逆にガードを固められるのがおちというものだ」

『しかし……』

「甘く見るな。あれの眼はかつてのイオリアの腹心、E・A・レイに及ぶだけのものがある」

「鬼札がある以上、それを使って確実に尻尾を掴んでおかねばならん。それだけの相手だということだ」

『…………』

「実働部隊編成における招聘・勧誘の段階で名前が挙がったとき、声を嗄らして反対したのもゆえあってのこと」

『覚えているとも。あの偏執狂(パトリオット)を御せる手綱がない以上は……』

「あぁ」


「我らが唯一の汚点……忌まわしい【島国の鼠】の再来になる、とな」



260 : 2017/01/14(土) 05:51:37.75 ID:9HfvohLM0


『はは……監視者の全会一致否決決定を食らったただ一人の存在が、ユニオン関係者というのは、誰も彼も……』

「自虐かね」

『そう取ってもらって結構。では、伝えるべきは伝えた』

「うむ」

「人革連の襲撃は」

『退けた。だが大荒れだ』

「鹵獲者が?」

『辛うじて脱出はした、が……【ナドレ】の存在と【キュリオスの対GNフィールド装備】の露呈がね』

「……だから言ったのだ、不完全な改造兵士と身元一切不明の若造に任せるなどと……」

『【彼】を準備できなかった君の言うことかね?』

「あのご老人とも繋がり深い男だ、どだい無理だったのだよ、あれはな」

『今度の彼は、期待できるんだろう?』


「くく……飛ぶことしか能がない獣だ。期待はしておいてくれ。直に飼い慣らすさ」



――――


――MSドック――



ビリー「聞いたかい、グラハム。例の宇宙の一件」

グラハム「あぁ。人革連がソレスタルビーイングへ大規模報復行動に出たという、あれか?」

ビリー「現場には二十機以上のティエレンの残骸とおびただしい数の通信装置が散らばっていたらしい。デブリ回収業者がこぞってゴールドラッシュの再現に走っているそうだよ」

グラハム「なるほど……あの粒子の通信遮断能力を逆手に、大規模広範囲かつ短距離の通信領域を構築」

ビリー「その遮断範囲をもとに彼らの居場所を特定、宇宙型ティエレンにより強襲を仕掛けたと、そういうわけだね」

グラハム「我々の予算では厳しい作戦だな」

ビリー「止めよう、この話……金勘定は心が荒むよ」

グラハム「同感だ、友よ」


『一番機の模擬弾補充まだかー!!』

『撃ってねえっすよ一番機!』

『はぁ?! 模擬戦してたろ!!』

『だぁから撃ってねえっすってば!!』

『???』



261 : 2017/01/14(土) 05:53:18.08 ID:9HfvohLM0


グラハム「勝利宣言がない以上大失敗に終わったというところか……空恐ろしい、相手があの【宇宙の青鬼】だと言うのにな」

ビリー「フラッグが出来るまで、宇宙戦闘であれと対峙できるMSはどこにも存在しなかったからねえ」ハハハ

グラハム「重量による反応速度や移動範囲の制限が無い宇宙では、機動力の優位性が軽減する」

グラハム「地上でさえ頑強さと攻撃力で並び立つ奴らに、宇宙用ヘリオンやリアルドで対抗できるわけもないのは道理だが……」

ビリー「例の新型リニアライフル、オービットパッケージのフラッグに搭載が決定しているそうだよ」

グラハム「妥当だな。もし宇宙でやりあう場合、あの貫通力がないとフラッグとて打つ手に欠ける」

ビリー「もっとも、宇宙でやりあう想定も少ない現状、そうそう数は増えないだろうけど」

グラハム「荒事を抱えていないというのはいいことだ。フラッグの数が少ないということ、即ちユニオンの治世が二国に勝る言外の証明と言えよう」

ビリー「君らしいお褒めと、素直に受け取っておこうかな」



――日本――


『ワイワイキャッキャッ』

沙慈『……というわけなんだ……』

絹江「ふうーん」

沙慈『……姉さん……?』

絹江「そのまま連れて帰ってもらったら?」

ルイス『お姉さまひどぉい?! アメリカ汲んだりまで応援に行った義妹を見捨てるんですか!?』

沙慈『はい?!』

絹江「だぁれが義妹じゃ!! 第一私が知らないうちに食材は減ってるわお菓子と茶葉が減ってるわ、何かあったとは思ってたけど……!」

絹江「沙慈、お姉ちゃん流石にガールフレンドの母親まで連れ込んでいいとは言ってないからね!」

沙慈『連れ込んでなーいっっ!!』

ルイス『大丈夫! さっき胃袋は掴んでおきました!』グッ

絹江「何が大丈夫!?」

同僚「絹江さ~ん、出ていきましたよ、連中」

絹江「! すぐ行く!」

絹江「もう……失礼だけはないようにね。粗相も!」

沙慈『……は~い……』


ピッ


絹江「ふう……」



262 : 2017/01/14(土) 05:54:36.70 ID:9HfvohLM0


同僚「弟さんっすか?」クチャクチャ

絹江「うん。でも大丈夫、あの子はしっかりしてるから」

同僚「なら結構。これからしょっぴかれても平気っすね」プー

後輩「えぇ!? やっぱりそういう案件なんですかこれ?!」

同僚「そりゃあね、ユニオン安全保障局(NSA)のケツ追っかけて取材でしょ? 連中に目ぇつけられたらどうなるかってねえ」パァン

後輩「ひぇぇ……せ、先輩……今からでもUターンってのは……」

絹江「……車は?」

同僚「ドローンで確認済み。大通りの方曲がってった」パチンッ


絹江「よし――行くわよ!!」


同僚「んむ……うっす」

後輩「全然聞いてねえ……!!」

同僚「諦め給えよ後輩くん、男だろぉ」ポン

同僚「特集ボーナスに釣られた者同士、せいぜいこき使われようではないか、なー」

後輩「国に睨まれてまでやることじゃないですよぉ……」



――――


グラハム「……」ピ

ビリー「! 例のラ・イデンラに関する彼女の記事かい」

グラハム「図らずとも当事者となった者の書く記事だ、反響は大きいが、彼女はあくまで本命を追い続けるつもりのようだ」

ビリー「ソレスタルビーイング……か、200年前のセキュリティではデータの信憑性なんて毛ほども残っちゃいまいだろうに、剛毅なことだね」

グラハム「まだ追う糸口はあるようだ。彼女の眼は先を見据えている」

ビリー「……ふぅん」



263 : 2017/01/14(土) 05:57:17.65 ID:9HfvohLM0

ビリー「……随分肩入れしているようだね、君も」

グラハム「どうした、少し呼吸が乱れたぞ」ピピ

ビリー「いや、なんでも。ただ僕と君の会話で空とガンダムが介在しないのは彼女くらいのものだからね」

グラハム「ガンダムは関わっているぞ」ピッ

ビリー「そういうことじゃあ……あぁ、うん、いいよ。僕のほうが纏まらないようだ」

グラハム「改めて纏まったら聞かせてくれ、戦友に対する盟友の見解を、私も所望する」

ビリー「戦友……ね」

ビリー(はてさて……【障害】にならなければいいけれど)


グラハム「……」

「【英雄無き町】……か」



 《私が発見した前述の二児をかばっていたA氏の奥方、彼女は私が止める間もなく安楽椅子から立ち上がり、両の手を握って、微笑んだ》

 《私のダーリンは格好良かったでしょう、と。あの人は私のヒーローだったの、と。》

 《感謝の言葉とともに重ねられた思い出の端々は、掠れて、震えていたように思える》



ルイス母「A氏はメディア、ネット、内外で身を呈し子供らを救った英雄と称えられている」

ルイス母「だが……彼女の言葉から思い起こされるA氏の人物像は、おおよそテロから児童を救ったヒーローには程遠い」

沙慈「……」

ルイス母「昼は友人とカフェでチェスをたしなみ、夜は彼女の焼くパイと珈琲を読書のともに」

ルイス母「過ぎゆく時に微睡む、一人の老人の等身大の生活そのものだった」

ルイス母「毎晩、うたた寝に沈む彼の膝に毛布をかけるのは孫の日課だったそうだ」

ルイス母「軍人でもない、ましてや若い頃も文筆業で本の虫だった彼に戦うすべはなかった」

ルイス母「そんな彼を【英雄】に変え葬ったのは、誰か」


ルイス母「そんなものは、本当に彼とその家族にとって必要な肩書であっただろうか……」


沙慈「……」

ルイス母「大変だったわね、お姉さんも、あなたも」

沙慈「ありがとう、ございます」

ルイス母「もう少し、ここで読ませてもらってもよろしいかしら」

沙慈「願っても、ないことです」

ルイス母「……ありがとう」


ルイス(私の端末……)



264 : 2017/01/14(土) 05:59:03.56 ID:9HfvohLM0

 《ガンダムが取りだたされ、世界の目は新たな楔に向いている》

 《だが、あのようなものを生み出したのは我々が目を瞑り続けた醜悪であり、聴くことを避けてきた悪辣な悲鳴そのものである》

 《戦うべきはそれらである、と私は考えている。国際テロネットワーク、弱者の生命のビジネス循環という三百年間の汚点こそ、我らの対峙すべき悪であるはずだ》

 《ある人は囁く。ガンダムが、ソレスタルビーイングがそれを為すならば、その存在意義はあるのかも知れないと》

 《ならば私はこう叫ぼう。とんでもない、それを成すのは我々であるべきだ。繋がり、語り合い、助け合っていくべき我々が為していくことだ、と》


 《この世界に英雄は要らない。怠惰の犠牲、悪意の贄を許容し続ければ、次の百年をまた無為に重ねるだけに終わるだけだ》


グラハム「…………」ピッ


「やってくれたのう、彼女も」


グラハム「……」ニコッ

エイフマン「……」ニヤッ


エイフマン「彼女は【ソレスタルビーイングを受け入れつつ否定】しておる」

エイフマン「彼らがなそうとする目的に添いつつも、その存在自体は赦しておらん」

エイフマン「ゆえに彼らの活動を【世界の怠惰の犠牲】と称した……なるほど、らしいのう」


グラハム「彼らの存在意義を断ってしまえば、ソレスタルビーイングの存在自体が不要になる」

グラハム「確かに、テロリストを追っていたほうが勝ち目がない怪物相手に槍を向けるよりは有用でしょう。ガンダムは、民間人を攻撃しないのですから」

エイフマン「今回ユニオンとAEUの示した領域外不干渉宣言に関してはこれに近しい部分もある……が」

グラハム「これはそれ以上の狂気……日本人らしい発想だ」パシンッ

エイフマン「あぁ」


グラハム「彼女は、【国境を無くせ】と言っているのです」



265 : 2017/01/14(土) 06:07:17.50 ID:9HfvohLM0

 エイフマン「くっくっ……今回ソレスタルビーイングが上手くハマッていたのは、国境という境界と情報の軋轢の影響を受けない立ち位置に寄るもの」

グラハム「それすらも否定するのであれば、何としてでも避けねばならないのはこのままソレスタルビーイングが例外の機構として収まってしまうことであるが」

エイフマン「その枠を埋め、かつ彼ら無くして解決し得なかった問題を解決し続けるためには、垣根をなくし情報伝達をスムーズにすること。単純な話よな」

エイフマン「この歴史の大事件を利用しろと言外に言っておるわ、この娘は」

グラハム「紛争根絶は不可能でも、その努力をする枠組みに彼らを据えてはならない」

グラハム「その役割を今までになってきたもの達が変わらず、英雄ではなく兵士として取り組むべきと、そう述べているように感じます」

エイフマン「そういう、お前さんはどうなんじゃ」

グラハム「私、ですか?」

エイフマン「とぼけるでない、彼女の忌避する英雄そのものじゃろう、お前さんは」

エイフマン「誰も到達し得ない領域で、未知の境界にひたすら挑み続けるその様を、古来より人は英雄と称えた」

エイフマン「誰も助けられぬ果で朽ちる定めを嘲笑いもして、な」

グラハム「……私は、己が市民らに尊敬されうる人格と考えてはおりません」

グラハム「仮に誰も届かぬ空で死ぬのであれば、それは本望というものでしょう。望むべくして辿った末路です」

エイフマン「……絹江嬢には言うなよ、結果が見えておる」

グラハム「ええ……口が避けようとも口外は出来ません」


グラハム「……国境、といえば」

エイフマン「ん?」

グラハム「かつて、国家が統合され経済特区に変わってしまう兆しの折、日本人はそれを大した混乱もなく受け入れたとされます」

グラハム「結果、流入する文化の蹂躙の尽くをねじ伏せ、むしろユニオン領内に広く自文化を拡散してさえ見せた」

グラハム「驚異的なメンタルと努力です。彼らは国家を無くした代わりに、文化共有圏を国土の数十倍に拡げてみせたのですから」

エイフマン「知っとるか? タコヤキはテキサス固有のフードではなく、元々日本の文化なのだそうだ」

グラハム「……それは、初耳です……本当ですか?」

エイフマン「マジマジ、本当と書いてマジじゃ」

エイフマン「ふふ、彼女の精神性にその片鱗を見出すか?」

グラハム「……日本人は学んでいたのかもしれません。【文化と国家は同一ではなく、合一されるものでもない】と」

グラハム「故に彼女のように、それを忌避することこそ怠惰の悪習とさえ言い切ってしまうのやも」

エイフマン「一愛国者としては耳が痛い……ユニオン結成に於いても、国家を守り中心に据えたアメリカ合衆国民としては、容易くは学べんメンタルじゃ」


エイフマン「くふふ……全く、よく似たもんじゃ……」

グラハム「え?」

エイフマン「んっん、失言じゃ。忘れろい」

グラハム「……?」



266 : 2017/01/14(土) 06:20:04.90 ID:9HfvohLM0

エイフマン「まあ早急にはいかんだろうが、ほれ」

グラハム「む」

グラハム「……っ?!」

エイフマン「大統領直々のお呼び出しでな。明後日からしばらく人革含めて密談タイムじゃ」

グラハム「高度な政治判断にプロフェッサーの叡智が活用されると?」

エイフマン「まさか。あの戦車擬人化フェチの変態(テラオカノフ)と意見を交わす程度じゃよ」

グラハム「ふふ……お二人は相変わらずの仲のようで」

エイフマン「ワシのことを年寄りの冷や水扱いしてきおったら、リニアライフルを叩き込んでやってくれ」

グラハム「そうなったら、ロシアの荒熊との一騎打ちでしょうかね」



エイフマン「ドリームマッチは結構じゃが……【勝てるのか】?」ニヤリ

グラハム「【今ならば勝機あり】、そうお答え致しましょう」ニコリ


――――

絹江「……ありがとうございました」


パタン


同僚「んー……手がかり、なんすかね、これ」

絹江「手がかりも手がかり、重要な足取りよ」

絹江「二百年前、この松原氏の曽祖父は材料工学の権威だった」

絹江「その権威が何の前触れもなく、身辺を整理し蒸発」

絹江「これを彼らNSAが追っているのであれば間違いない」

絹江「ソレスタルビーイングは、当時の事実を辿ることでのみ真実に近づける――!」


同僚「それから、どうするんです?」

絹江「え?」

同僚「いや、ね……連中が本当にしたいこと、そしてその欺瞞を暴きたいってことは分かるんですけどね」

同僚「今、何が起きているかってとこに重点がないと、軽いんじゃないかっていうんですかね……例の記事も、簡単に言っちまうなあって、思っていたりなかったり」

絹江「……貴女のそういうとこ好きよ。忌憚ない意見ってやつ?」

同僚「どーも」

同僚「これで、特集番組は組めそうで?」

絹江「お陰様で。まだまだ裏付けは必要だけれどね」

同僚「じゃー前夜祭で焼肉行きましょ焼肉。最後のシャバの飯になるかもだし」

後輩「最後?! 最後ナンデ!?」


絹江「……今の目が足らない、か……」



270 : 2017/01/16(月) 10:35:27.35

テキサスでタコヤキってタコスと混じった結果か?


271 : 2017/01/17(火) 18:56:11.01

タコってついてるし似たようなもんだなきっと


272 : 2017/01/21(土) 09:29:37.32 ID:xXnfJEIM0



――――


 時計を、眺めていた。
 長い、長い、長針の傾きの度にため息を漏らす。
 何時間にも思える一分を積み上げて、日は昇り、傾き、朱に染まり――夜が訪れる。


「……行こうか」


 予定時刻にはまだ早く、長針の半周を待つ必要があった。
 だが、自分は我慢弱い。
 猶予という名の焦りに背を押されるまま、部屋を後にする。

 休暇を空の下で過ごす、中々にない経験だ。
 堪能させてもらおう。我が戦友よ。


――――


絹江「…………」

グラハム「…………」


絹江「……なんでもういるのよ……」ガクッ

グラハム「それはこちらの台詞だ、予定集合時間より45分も早い」

絹江「そりゃあ移動手段とかタイミングとか……まぁ、楽しみだったし、色々よ。色々」

グラハム「それは良かった。少なくとも両者ともにこの時間には意欲的らしい」

絹江「そういうことね。じゃあ、エスコートはお任せしても?」スッ

グラハム「承った、姫君。かぼちゃの馬車は裏に停めてあります、どうぞこちらへ」スッ

絹江「ふふ……よしなに」


 ・
 ・
 ・
 ・

 



273 : 2017/01/21(土) 09:53:38.26 ID:xXnfJEIM0



――ユニオン領内・某ホテルBAR――


絹江「…………」キョロキョロ

グラハム「予約していた者だ」

バーテンダー「照合が完了いたしました。いらっしゃいませ、Mr.エーカー」

グラハム「行こうか。窓際の席になる、高所が苦手でなければいいが」


絹江「予想はしてたけど……ほんっと全力ね……貴方」ハァ

グラハム「こういうところは得意ではなかったかな?」

絹江「いいえ、でも格好だけまともにしてきて良かったわ」

絹江「……今回は、ちゃんと自分の分は支払うからね?」

グラハム「結構。それも想定済みだ」

絹江「あら意外、すんなり引き下がったわね」

グラハム「金だけで矜持を示すほど、薄い男になったつもりはないさ」


グラハム「では、いい夜にしよう」

絹江「乾杯」


 ・ 
 ・
 ・

グラハム「例の記事を読んだ」

絹江「どうだった?」

グラハム「あの後、彼の家族に会っていたというのは初耳だった」

絹江「男性のご家族に問い合わせて、二人の子供の家族と会ってもらってた合間に、少しね」

絹江「二人を救えたのは彼の献身あってのこと、それを知ってほしかっただけだったんだけど」

絹江「付け込んだインタビューって、言われたりもしてね。要反省よね、こればっかは」

グラハム「君は正しいことをした、そう確信できる内容だった」

絹江「……ありがとう、グラハム」



274 : 2017/01/21(土) 10:26:38.98 ID:xXnfJEIM0


グラハム「……教授から」

絹江「ん?」

グラハム「プロフェッサー・エイフマンから、指摘を受けた」

グラハム「君の記事にある英雄不要論だが……私自身、その英雄の条件に合致しているのではないか、という指摘だ」

絹江「……」

グラハム「私は、この指摘が正鵠を射ていると思っている。少なくとも、君が意図したものに対して、だがね」

絹江「……流石は教授ね、見透かされているってわけか……」

グラハム「私自身は疑問視している」

絹江「そうね、世界のためにその身を捧げる存在……英雄をそう定義するなら、軍人をその枠にあてがうのは正しいとは言い難くもある」

グラハム「そうだな、あくまで身命を担保に給金を得る存在、そのような者も多く、私も……」

絹江「あなた達軍人は軍事力として平和と治安維持に貢献するもの」

絹江「故に法と秩序を護るものであり、かつそれらに護られるものでもある。捧げられるものではなく、そうあるべきものでもない。それが大きな違いよ」

グラハム「……興味深い答えだ」


絹江「まあ、そういった条件を無視しても……かねがねご指摘通りってところかしらね、ヒーローさん?」チン

グラハム「過大評価だ、私は自分の欲求に殉じて飛んでいる。高尚な理念も持ち合わせず、人間的な魅力にも欠落した異常者だ」チン

絹江「そういうところが、英雄らしいと言えばらしいのよね?」

グラハム「ふ、玩具を振り回して遊ぶ幼児と同格の精神構造のこの私がかね?」

絹江「でも、貴方は言ったわ。それでも、誰かを護るために、相手が何であってもその前に立つって」

グラハム「!」

絹江「貴方の言葉だからこそ信頼できるのよ。嘘が下手な、貴方だからこそ……ね」

グラハム「ッ……」グイッ

グラハム「ふぅ……褒め上戸のようだな、君は。酔いが回っていると見える」

絹江「あら、まだ駆けつけ三杯にも及ばないわ」クスクス



275 : 2017/01/21(土) 11:10:23.20 ID:xXnfJEIM0


絹江「……聞いたわ。人革連とユニオンの上層部が秘密裏に会合を重ねているとか」

グラハム「秘密裏とは何だったか、という気分だな」

グラハム「情報においては君のほうが精度は上だろう。間違いはあるまい」

絹江「むー……なんか知ってるわね、その口ぶり」

グラハム「仮に認知していても守秘義務がある、我が口は貝の如しだ」

絹江「知る権利!」

グラハム「ははは、部外者に口を滑らせる馬鹿はユニオンにはおらん」

絹江「だいぶブーメラン投げてない? それ」

グラハム「あぁ、既に手遅れという奴だ。だが、正確な情報はこちらにも降りては来ていない」

グラハム「仮に共同戦線ともなればこれ以上無い心強さだが……なにせ我らは自国領内以外での武力介入には介入しないと宣言してしまっている」

絹江「やるからには、相応の搦手が必要……か」


絹江「……」

グラハム「何を考えているかは分かる。肝心要の搦手がどうなるか、だろう」

絹江「可能性として一番考えられるのは、ユニオン側が他国の治安維持に乗り出すパターンね」

グラハム「世界の警察機構を自認し、国連軍とも関係深いユニオンであるからこその手段だな」

絹江「分かっているつもりなのよ、そういうの……ありきたりなものだってね」

絹江「でも……それは対象国の内情を考慮されて行われるわけじゃあない」

グラハム「熟知している」

絹江「貴方は……どう思うの?」

グラハム「……私の存在意義は、ガンダムの打倒と機体の回収にある」

グラハム「舞台を整える力もない以上、与えられた環境に異を唱えることは単なる自己否定以上の矛盾だろう」

絹江「でも……!」

グラハム「絹江」

グラハム「私は、軍人だ。命令には従う、それだけだ」



276 : 2017/01/21(土) 11:38:46.19 ID:xXnfJEIM0

絹江「っ……」グイ

グラハム「……」コク

絹江「……」チリンチリン

バーテンダー「お伺いいたします」

絹江「ギムレットを」

グラハム「私はマティーニを頼む」

バーテンダー「かしこまりました」


絹江「はぁ……そうね、そう……軍人だもの、貴方は」

グラハム「現実は虚構のようには行かないものさ」

絹江「その現実を知らない以上何も言えやしない、ええ、そうなのかもね……」

絹江「でもね、グラハム……私は……貴方に、自分を誇れないような戦場に立ってほしくないのよ」

絹江「素晴らしい人だって知っているし、それに……」


絹江「……それに……私は……」


グラハム「そこまでだ。これ以上は杯にばかり手が伸びてしまう」

グラハム「なに、私は十分すぎるほど報われている。このような落伍者を気にかけてくれる友人にも恵まれた」

グラハム「こうしているだけで、いいのだ。飛ばぬときにも安らげる、それだけで、いい――」




277 : 2017/01/21(土) 12:27:37.75 ID:xXnfJEIM0


絹江「ッ……駄目ね、私。世間知らずってのがバレバレ」

グラハム「過ぎた謙遜だ。見知った世界の広さなら、同年でも君に並びうる者はそうはおるまい」

絹江「うん、言い換える。きっと、もっと知りたいんだわ、私」

絹江「もっと知りたい……もっと見たい……もっと解りたい。だから、焦ってる」コク

グラハム「は……その様子だと何か言われたか。構うことはないよ、君はまだ若く、学ぼうという意欲も総身に滾って余りある」

グラハム「足元を疎かにして駆けずり回っても、ひとたび転げ回れば全て台無し。よくある話だろう」

絹江「……」コク

グラハム「一歩一歩、踏みしめていくべきだ。ただでさえ君の歩幅は常人の倍はあろうというのに」

絹江「……」コク


グラハム「せっかくの視野と見地まで投げ捨てて……?」


絹江「……」コク


グラハム「……絹江」

絹江「……」

グラハム「それは私のマティーニだ」

絹江「……」

グラハム「…………」


絹江「  」グラァ


 ・
 ・
 ・
 ・

グラハム「君といると、本当に飽きることがない」

絹江「……ごめんなざい……」グター

グラハム「気にするな、皮肉だ」



278 : 2017/01/21(土) 12:55:22.46 ID:xXnfJEIM0

――車内(グラハムのマイカー)――


グラハム「飲み方は、手慣れていると感じた」

絹江「……」

グラハム「だから、君は飲めるものだと考えた。いける口だとね」

グラハム「私も飲むときはそこそこに飲む質だ、だから……勢いもそのままに来てしまったんだが」

グラハム「いや、言い訳はいい……済まなかった。付き合わせてしまったのだな、君には……」

絹江「あなたに、ね」

グラハム「!」

絹江「電話で話してて、このお誘い受けた時、正直、舞い上がったの」

絹江「こういう経験、あんまりないから。貴方と行くところって普段行かないようなところばかりだし、それもコミコミ」

グラハム「……そうか」

絹江「でもね、いざ行こうかってなった時、何でかしらね……足がすくんじゃって」

絹江「……うん、先に、煽ってきてたの。それなりに」

グラハム「……何だ、それは……」ハハッ

絹江「気づかなかったでしょ……貴方は、一歩引いて接してくれるから」

絹江「香水強めにしなくても大丈夫って思ってたら、足元を掬われたわ……ほんと、馬鹿な話ね」

グラハム「なに、気にするな。それなりに長くいた、話もした。楽しい夜だった……気分は?」

絹江「だいじょうぶ・・・」

グラハム「休んでいてくれ、宿泊先に着いたら起こすさ」

絹江「ん……」


(まあ……)

(言いかけた言葉に……何を言いそうになってたかってことに……)

(自分で動揺して、こうなったとは、言えないわよね…………)


 ・
 ・
 ・




279 : 2017/01/21(土) 13:11:33.86 ID:xXnfJEIM0

――翌日・早朝――


絹江「…………」





絹江「どこ、此処?」



――マンション・グラハム宅です――


絹江「それはどうも……」

絹江「……」


絹江「……ええ……?」







280 : 2017/01/21(土) 13:30:11.72 ID:xXnfJEIM0

――――

同僚「ここんとこ、もうちょいわかりやすく行けないかな……表現硬いよね」

後輩「やってみます!」


PPPP


同僚「おっ……はいはい、私ですよっと」

同僚「あぁ……ええ、やっておきましたよ。いつも通りに、滞りなく」

同僚「えぇ、またタダ働き? 休暇もなくこんなこと……へいへい了解」

同僚「……は、んなわけ無いでしょう。一番知ってるくせに」


P

同僚「ったく……絹江サンはうちらに任せてどこで何やってんだか」

後輩「例の失踪者、ユニオン西海岸で一番新しい人がいるんですってよ」

同僚「口実でいちゃついてんじゃねえだろうね全く」

後輩「あっはっは、まっさかー」


――――


「おう、お前ら。準備しろ、移動を再開する」

「了解」

「ジジイはどうだ?」

「相変わらずですね、荷物の一部です。ピクリともしねえ」

「ほっときゃいいさ。肝心なのはこっからだ」

「向こうの諜報役にも指示は出しといた、内情は筒抜けだ」



サーシェス「さあ、掻き回してやるぜアザディスタン……誰も彼も死に腐る、泥沼の内戦までなぁ!!」



287 : 2017/02/18(土) 01:17:28.96 ID:zSFv4luf0

済まない、罵倒してください
では続きを



288 : 2017/02/18(土) 01:26:54.85 ID:zSFv4luf0

――――

絹江「……」

絹江(殺風景な部屋、ベッドとクローゼット、時計に鏡、目立つ小物は殆ど無し)

絹江(時間はお昼前……すごいな私、半日近く爆睡してたってわけ)

絹江(……えーーーっと)ポリポリ

絹江(ここがどこかなんて、考えられるとすれば一つだけだけど……)


絹江「……」ササッ

絹江(よし、はいてる。上着だけ、脱いでる。あ、壁に掛かってた)

絹江(まー、なんかあったとかって感じじゃないし、あの人に限ってそういうのは有り得ない訳だけど)

絹江「……なんでまた……??」

絹江「!」

絹江(……大きいベッド……きれいなシーツ)シュル

絹江「……いつもここで寝てるのかな……」


絹江「……」クン

絹江「…………」クンクン


ガチャッ


ビリー「……あれ?」

絹江「」マンマル

『どうだ、カタギリ』

ビリー「ん~、まだ寝ているみたいだ。物音がしたかと思ったんだけれどね」

『疲労が溜まっているのだろう、そっとしておいてやってくれ』

ビリー「そうしよう、レディの寝所を覗いた不届きを自ら晒すほど僕も命知らずじゃない」


パタン


絹江(いるんならノックして……っ!!!!)


『さて、何処まで話したんだっけ』

『我が不貞の濡れ衣を晴らす途中だったと記憶しているが』

『あぁ、OK』

絹江「……」



289 : 2017/02/18(土) 02:27:25.99 ID:zSFv4luf0

――――

ビリー「昨晩、酒気を漂わせた君から救難連絡を受けたときは何ごとかと思ったけど」

ビリー「叔父さんも空気の読めないお人だよ、君の逢瀬の最中に呼び出しとはねぇ」

グラハム「タイミングとしては最悪だった。自動運転では法定速度以上を出さない上に、彼女のホテルは基地と正反対」コポポ

グラハム「将官殿を一時間以上待たせる度胸は私も持ち合わせていない、故の援軍、感謝するよカタギリ」カタン

ビリー「なんのこれしき、君と僕の仲だろう、盟友?」ズズ

ビリー「うーん、良いブレンドだ。相変わらずあの喫茶から買い付けているのかい、グラハム?」

グラハム「休暇中くらい真の珈琲を飲まねば、基地で頂く融かした暗黒物質をそれであると脳が誤認しかねん」

ビリー「同感だ。これが貰えただけ一晩アシを務めた甲斐があったというもんだよ」コク


――――

絹江「……」コソコソ

絹江(そういうことか……確かに夜間市街地でも30マイル出ないもんね、あれ)


『しかし、君に付き合えるとはね。想定外の酒豪のようじゃないか、クロスロード嬢は』

『お前が言うか? その顔で毎回平然としているのだからな、全く』

『いや、はっは。正直ね、君がぐったりしている彼女を抱いて車から出てきたときは、【シット、この野郎やりやがったな】って中指立てたもんだけど』

『正直も過ぎると友情破綻のきっかけになるぞ、カタギリ』

『杞憂で良かったよ、そういう輩は教授の逆鱗のお隣さんだからねえ』

『私も鉄面皮ではない。あのまま基地に向かうことの危険性と無人さは理解しているつもりだ』

『ほう?』

『ほう、じゃない。後部座席に寝かせた紅頬の絹江嬢を見られて、弁解だけでどうにか出来るはずがあるまい?』

絹江(一応そういう体面気にするだけの常識は持ち合わせてたか……)

『一応そういう体面気にするだけの常識は持ち合わせてたか……』

『思考が完全に射出されているぞ、カタギリ』


絹江(でも、深夜にホーマー・カタギリほどの大物が彼を呼び出すって……?)

――――

ビリー「それで、いよいよだけれど、どうするんだい? グラハム」

グラハム「どうもこうもあるまい。軍人である以上、職務と命令に殉じるのみ」

ビリー「その割には、司令に随分突っかかっていたみたいだけれど……」

グラハム「考慮すべき点を予め確認していたに過ぎんよ」

ビリー「そう、そこだ」

グラハム「?」

ビリー「君はいい意味で人の話を聞かない男だ。【予測不可能な事態に対処する】、その二言なしの思念に基づき無用な心配は聞く耳さえ持たない」

ビリー「その君が、作戦概要なんて【想定通りのことに固執した】から、叔父さんは怪訝な顔をしたんだよ」

グラハム「…………」




290 : 2017/02/18(土) 02:58:28.38 ID:zSFv4luf0

グラハム「なあ、カタギリ」

ビリー「ん?」

グラハム「気にはならないか、今回の対外派兵……」

ビリー「中東の火薬庫、火の点いた導火線付き」

ビリー「確かに君が心配するのは分かるよ。なにせ今回の一件はそもそも軍部も及び腰だったからねえ」

ビリー「政治家連中はそれに業を煮やして国連決議の支援プロジェクトまで立ち上げる始末だ。コーナー氏は何を考えているんだか……」

グラハム「問題点が保有戦力や武装勢力の範疇にない、我々が向かったところで出来ることは皆無だろうよ」

ビリー「だが、紛争になりうるなら彼らは来る」

ビリー「それこそが軍上層部の思惑じゃないのかい。数少ない火種の中で、最も集約率の高い展開が可能だ」

ビリー「僕の中の君は、喜々として作戦参加を受領するとばかり思っていたんだけれど……?」

グラハム「…………」

ビリー「まいったね、こりゃ……無自覚にも程がある」ズズ

グラハム「命令には、服従する」コポ

ビリー「ありがとう。そもそも、君らは君らの仕事をこなすだけ。命令も強制もされない、作戦範囲内での独自行動が確約されるはずだ」

ビリー「何が面白くないのかは分からなくもないけれど、集中はしておくれよフラッグファイター」





ビリー「相手は……あのガンダムなんだからね」



ガタンッ
ドタタッ


グラハム「ッ!」

ビリー「おぉ?!」


絹江「あいたた……っ」


絹江「…………あ」

グラハム「……!」

ビリー「やれやれ……」


 ・
 ・
 ・
 ・






291 : 2017/02/18(土) 03:32:11.47 ID:zSFv4luf0



――ソレスタルビーイング・エージェント機――

王留美「――という訳でしてよ」


ロックオン『おいおい、遂に来たかって感じだな』

刹那『アザディスタン……!』


王留美「そのご様子ですと、既に概要は知られていると考えてよろしいですね?」

ロックオン『あぁ。ミス・スメラギがいつも苦い顔してにらめっこしてたからな、嫌でも焼きついちまうよ』

ロックオン『アザディスタン王国……中東という往来に埋まった見えてる地雷ってな』



――アザディスタン王国。

――旧き王家を擁立し象徴に据えることで成立し、周辺の小国を外交的、もしくは武力によって統合した中東の振興国である。

――中東全体の石油輸出規制の影響、そしてそもそもの石油資源の枯渇。

――そして統合した諸国との軋轢、保守派と改革派の宗教対立、それらを起因とした国内情勢の悪化。

――今、最も火種を多く抱えている国家と、誰もが名指しするであろう、発火寸前の火薬庫であった。




紅龍「現在象徴として第一皇女・マリナ・イスマイールを擁し、政治は議会制で執り行っておりますが」

紅龍「経済支援外交で各国に飛び回らざるをえない彼女では、第一党の改革派の勇み足を留めきれず、保守派の不満は増す一方」

紅龍「それも宗教的指導者であったマスード・ラフマディ師が受け止めることで一線を越えずに済んでいましたが……」

ロックオン『そのラフマディの爺さんが、今回何者かに拉致された……か』

紅龍「おっしゃる通りです」

刹那『改革派の手の者か?』

王留美「ヴェーダの予測ではその可能性は8%を割りますわ」

ロックオン『へえ、低いな?』

王留美「改革派からすれば、保守派の不満をせき止めてくれる唯一の防波堤が彼ですもの」

ロックオン『いなくなって困るのは、好き勝手のツケを払わされる自分たちってわけか……』

王留美「ところで、スメラギ・李・ノリエガはどのような予測を?」

ロックオン『聞いて楽しいもんじゃあねえさ……なに、簡単なことでな』


ロックオン『普通に武力介入したところで紛争は終わらない……相手が【市民】であるアザディスタンではな』


刹那『っ……』



292 : 2017/02/18(土) 04:01:40.92 ID:zSFv4luf0



――後に、局地的戦略概念として語られる学問の貴重な資料として挙げられる、クルジスの紛争。

――ここでは、【少年兵】という存在がクルジス側の武装勢力で多用されたことの「効果」が注目を集めた。


――大別すれば、二つ。

――一つは、少年兵が対象問わずMSや成人兵士によって殺害されることで、その映像が「善悪の内情を飛び越えて彼らに同情的な世論が作られる」という【偶像性】によるもの。

――そしてもう一つは、彼らとの交戦による相手兵士側への強い心的ストレスと、その影響。継続的作戦構築を困難にさえさせた【倫理的攻撃性】によるものである。


――これらが重なった結果、クルジス紛争では、戦場カメラマンたちの連日に及ぶ決死の取材で集められた映像資料が、あろうことか戦争そのものを長引かせたのではないかという統計結果すら報告されていたのだ。


王留美「……これらは、正式にクルジスが併合されてからも無差別に繰り返されておりましたものね」

ロックオン『併合確定の後から蒸し返しによる混乱、国軍及び派兵国連軍のPTSD被害の保障、アザディスタン側との軋轢、問題の押し付け合い、二転三転する軍事裁判……』

ロックオン『アザディスタンの現在の情勢悪化も、初動を狂わされた足並みの乱れが少なからず影響してるって見方も多い』

王留美「この作戦を指揮した存在は……」

紅龍「っ、お嬢様」

王留美「……全く、唾棄すべき存在であると言わせていただきますわね」

刹那『…………』


王留美(殆ど資金的に猶予の無くなった戦後状態でさえ継続可能で、どう転んでも敵側に混迷をもたらしうる、安価な肉の奴隷)

王留美(この一件、【少年兵をどうやってあの短期間で大量に集めて投入できたか】が議論されるほど、運用側の手腕が【高く評価された】ものなのだけれど)

王留美(流石に口を滑らせる訳にはいきませんわね……相手が彼であれば尚更、ね)


ロックオン『まあつまり、本気で情勢が悪化した場合、【勝ち目度外視で人間が突っ込んでくる】わけで』

ロックオン『それを世間に見せちまった場合、俺達の評判が悪くなるだけじゃなく、俺達自身にも悪影響があるだろうってのがミス・スメラギの第一の懸念だ』


王留美「(今更ですわね)……第一?」


ロックオン『はは、第二の懸念は簡単だ。同じ理由で対外派兵の国連軍も人間相手にMSを出さない』


ロックオン『つまり、出て来るMSは全部、もしくは大半俺たちガンダムに襲い掛かってくるって寸法だ』

王留美「……成る程、上辺の派兵にも意味を持てる……と」




293 : 2017/02/18(土) 04:29:00.71 ID:zSFv4luf0



刹那『第三の懸念もあるだろう』

ロックオン『おぉ?!』

王留美「……それは?」

刹那『俺達が対外軍を攻撃して防備が手薄になった場合、もしくは国連の支援が撤退した場合』

刹那『アザディスタンが切望している太陽光発電の受信システム建設支援はテロの格好の標的となり、根本的な紛争根絶が不可能になるであろう、ということだ』

紅龍「……確かに、技術者に対するテロ行為は完璧には防げません。ましてや現地民ですら信用できなくなっては……!」

王留美「……つまり、我々が取るべき道は」


 ・大規模戦闘は避け、支援施設を防護し、市民軍への攻撃及び介入を最小限にし、国連支援が継続できる範囲での作戦行動で、この紛争を終わらせる。


ロックオン『……絶望的だな、ガンダムの出る幕かい、これは』

刹那『ガンダムでなくては出来ないことだ』

刹那『ガンダムマイスターである俺たちにしか出来ない……俺たち無くしては終わらない戦いだ』


ロックオン『いつになくやる気満々だな、刹那。そう来なくっちゃな……!』


刹那(今度こそ、俺は……ガンダムになる!)


 ・
 ・
 ・
 ・


――ユニオン・ホテル途中道路――


絹江「…………」

グラハム「…………」

絹江「…………」



グラハム「……………………」


絹江「きまずいっ……!!」クゥッ

グラハム「言葉に出ているぞ」



294 : 2017/02/18(土) 06:11:01.83 ID:zSFv4luf0



グラハム「……私は、自ら考えて意見をし、確認を取ったに過ぎない」

絹江「……」

グラハム「君に影響を受けたということは何一つ無い」

絹江(それはそれでジャーナリスト失格っぽいけどなあ)

グラハム「それに言動一致は揺るぎない。私は命令に背くつもりはない、軍人としての責務をまっとうするだけだ」

グラハム「……君との意見の相違に思うところがないわけではないという意味では、君の琴線に触れていてほしくもあるが」

絹江「はー……」

絹江「よりによってアザディスタン……それもガンダム目当てが丸分かりの、形骸的派兵か」

グラハム「不快か」

絹江「不毛よ。仮にガンダムを鹵獲出来ても、中東の対三国意識はますます悪化する」

絹江「自国内で面倒見なくちゃならないところに貴方達が行っても、責任転嫁されるだけ」

絹江「道化も良いところだわ、何一つ改善されない、何も解決なんかしない……馬鹿みたいじゃない……!」

グラハム「……同感だ」

絹江「なら何故……?!」


グラハム「私が、ガンダムと戦いたいからだ」


絹江「…………」ガク

絹江「ほんと……そこでユニオン軍としての使命も、対ガンダム調査隊の矜持も出さないところが……貴方らしいわ」クシャ

グラハム「もっとも強い感情を表明しただけにすぎない、他意はないさ」

グラハム「……軽蔑したか」

絹江「少し……ううん、けっこうキテるかも」

絹江「そういう人だって知ってたつもりだし、立場が他の方法を取らせてくれないことも分かってるけど」

絹江「……何か思っていて欲しいと思うこと自体、私のエゴですもの、ね。分かってるわ」


グラハム「……到着した。私はここまでだ」

グラハム「私の事情に付き合わせてしまった、無礼の埋め合わせが許されるならまた後日に」ガチャ

絹江「最初に粗相をしたのは私でしょう。気にしないで」

グラハム「手を」スッ

絹江「結構よ、車くらい一人で降りられる」

グラハム「……あぁ、済まない」




絹江「……それじゃあ」


グラハム「あぁ」





「さようなら」



295 : 2017/02/18(土) 06:28:26.26 ID:zSFv4luf0




――――

『儂じゃ』

「おはようございます、プロフェッサー」

「今、貴方のお時間をこの若輩者に割いていただくことは出来ますでしょうか」

『……良かろう。何じゃ?』

「アザディスタンへの、派兵が決定いたしました」

「対ガンダム調査隊も同行し、独自行動による鹵獲作戦決行が予定されております」

「私も、フラッグを駆ってガンダムと相まみえることでしょう」

『ようやく面目躍如と言ったところか。待ち望んでおった展開だろうて、なぁ?』

「……プロフェッサー・エイフマン、私は分からないのです」

『……何が、かのう?』

「あれだけ渇望しておりました。これだけ切望してきました」

「各国の精鋭がぶつかり、敗北し続けている存在への切符が、ようやく手元に転がり込んできたのです」

「ですが、歓喜は鳴りを潜め、狂喜は何処吹く風……嬉しいはずなのに、何故なのか」

「こうなったことを、何処かで喜べない……私がいる、そんな気がするのです」

「プロフェッサー、単刀直入にお答え下さい」



「このような私に、フラッグを駆る資格は、あるのでしょうか?」



――後日――


――JNN――


デスク「……絹江、今お前何つった」


絹江「…………」

後輩「っ……」ビクビク

同僚「……アチャー」

同僚(焚き付けすぎたかな……?)


デスク「もう一回言ってみろ、そうしたら特番の話は無しだ。お前を外す」

絹江「……何と言われようと、お答えできることは一つです」

後輩「せ、先輩?!」



絹江「私を、アザディスタンへ特派員として派遣してください!!」



296 : 2017/02/18(土) 06:32:42.13 ID:zSFv4luf0

ここまで
ほんと申し訳ない

次回、金曜日までに必ず。


【アルコール耐性個人評】

絹江:趣味がおっさん。あの顔で結構強い。絡み酒

グラハム:どっちかというと蒸留酒好き。あの顔でかなり強い。笑い上戸

ビリー:その顔でユーヌ・ピュレ(高度数のアブサンメイン)とか嘘だろ?なので強い。翌日に残るタイプ

レイフ:こんなイケメン爺さんがバーで飲んでたら初恋してる乙女みたいな目でずっと見てると思う。



コーラサワー:甘いものやスッキリしたものが好き。ワク。

マネキン:あんまりお酒強くない。

セルゲイ:ビール好き。強いけど奥さんには一回も勝てなかった。



アブサン系は駆けつけに飲むには味が独特過ぎる(あれ無理、臭い)ので最後に飲むのがいいと聞くが、いきなり飲みだす辺りビリーって実はスメラギ並の酒豪なのではないかと考え出している。

アブサン 30~60ml
グレナデンシロップ 15ml
ミネラルウォーターで満たす
ビルド/タンブラー
という感じ。誰か試して。


ではまた。



297 : 2017/02/18(土) 10:54:49.75

乙だと言わせてもらおう


298 : 2017/02/18(土) 13:34:06.28

乙!
マネキンさんは確かに弱そうだ…すぐ顔が赤くなりそう



299 : 2017/02/20(月) 09:24:17.07

せっちゃんは飲めなさそう
仮に飲んだとしたらタイプR35になりそう