http://2ch.sc/より
http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/x3/1262263440/
WS000016
個人的に大変な力作であるSSだと思うので掲載しましたが

※このSSは長い上に未完です。
※ガンダムXの物語を知らないと分からない部分も多いと思います


興味のある方だけどうぞ。

関連記事まとめ

もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら☆
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/37747904.html
もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 2 (未完SS)☆
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/37762393.html
もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 3(未完SS)☆
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/37762491.html
もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 4 (未完SS)☆
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/37762537.html
もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 5 (未完SS)☆
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/37762581.html


446:通常の名無しさんの3倍:2010/10/15(金) 01:29:54 ID:???.net

フリーデンを接収したゾンダーエプタの兵士が、艦内を歩き回っている。
足音を聞きながら、アムロはハロを抱き、呼吸を低く、見つからぬように気配を殺していた。
フリーデンは陸上戦艦ではアルプス級と呼ばれる中型クラスの戦艦だ。
だが、水上航行をも可能とし、単艦で太平洋を横断する馬力を持つ。
復興を掲げはするものの、未だ戦力は万全とは言い難い新連邦軍にとって、ガンダム三機だけでなく、フリーデンそのものも貴重な戦力だった。
「おい見たかよ、ガンダムだったぜ」「ガンダムなら見慣れているだろ、フロスト大尉の」
「馬鹿! 昔の大戦で使ってたヤツだからいいんじゃないか」
ゾンダーエプタの兵士の会話が聞こえる。
「ハシャいでいるのはお前ぐらいだぞ。パイロットは前の戦闘でやられたガンダムには殺気立ってるし、
 メカニック連中はDXに加えて整備調整しなきゃならないガンダムが増えたって嘆いていたぞ」
「ガンダムだからなぁ」「なんだそりゃ」「ドートレスやバリエントなんかとは整備の手間も違うってことさ!」
「それは分からんがよ、バルチャーの変な癖が付いてるって整備兵がぼやいてたのは聞いたぜ」
「自警団みたいなのはMSも平均化して揃えるからそのまま接収して使えるが、カスタムするバルチャーはな」
「バラして部品にするしかないってな。そういえば変なドートレスもあったか」「ああ、さっきみたら頭と腕が外されてた」
キッドが聞いたらスパナを持って格納庫に殴り込みに行きそうな話だ。
それは兎も角、兵士の会話からアムロは自分のMSを失った事と、ガンダムが無事であることを知ることができた。



捕虜となったフリーデンのクルーは3つに分けられた。
パイロットであるガロード達およびフリーデンの頭脳といえるブリッジクルーやメカニック主任のキッドらは、他のクルーと分けられた。
そしてかつてのNTの英雄・ジャミル=ニートと、戦後発見されたNT・ティファ=アディールだ。
二人は貴重な戦力であり、広告塔であり、研究対象だった。
それ以外の乗員はアイムザットにとって価値はない。
DXの情報機密保持の為に、銃殺刑を委員会に申請していた。
だが、ガロード達には幸運にも、委員会の命令は現状待機であった。
それは最高審議会の長・フィクス=ブラッドマンが新連邦政府樹立宣言を行うと宣言したからだ。
ゾンダー・エプタにいるアイムザットには予測が付かないことであったが、アジア方面の抵抗が激しいのがその理由である。
今再び、新連邦という巨大な組織が歴史の表舞台に立つ……その勢いをもって地球を席巻しようということであった。



足音が少なくなった……一通りフリーデンの調査が終わったのだろう。
ハロの時計機能をみると、時間は夜、警戒は弱まっていると考えていいだろう。
アムロは床を押し上げて外へと飛び出した。

一方で、ガロード達もまた、脱出の機会を狙っていた。
シークレットコマンド――万一、ブリッジが占拠された場合、緊急時にのみ使われる暗号。
『明日の夕日は見られない』とは『明日の夕方、日没と同時に各員、逃亡作戦を起こせ』という意味なのだ。
その為に、ガロードは通気口に潜り込み、基地の構造を把握する工作活動に入った。
MSハントを生業に身一つで生き抜いてきたガロードは、この手の仕事が上手い。


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446:通常の名無しさんの3倍:2010/10/15(金) 01:29:54 ID:???.net

フリーデンを接収したゾンダーエプタの兵士が、艦内を歩き回っている。
足音を聞きながら、アムロはハロを抱き、呼吸を低く、見つからぬように気配を殺していた。
フリーデンは陸上戦艦ではアルプス級と呼ばれる中型クラスの戦艦だ。
だが、水上航行をも可能とし、単艦で太平洋を横断する馬力を持つ。
復興を掲げはするものの、未だ戦力は万全とは言い難い新連邦軍にとって、ガンダム三機だけでなく、フリーデンそのものも貴重な戦力だった。
「おい見たかよ、ガンダムだったぜ」「ガンダムなら見慣れているだろ、フロスト大尉の」
「馬鹿! 昔の大戦で使ってたヤツだからいいんじゃないか」
ゾンダーエプタの兵士の会話が聞こえる。
「ハシャいでいるのはお前ぐらいだぞ。パイロットは前の戦闘でやられたガンダムには殺気立ってるし、
 メカニック連中はDXに加えて整備調整しなきゃならないガンダムが増えたって嘆いていたぞ」
「ガンダムだからなぁ」「なんだそりゃ」「ドートレスやバリエントなんかとは整備の手間も違うってことさ!」
「それは分からんがよ、バルチャーの変な癖が付いてるって整備兵がぼやいてたのは聞いたぜ」
「自警団みたいなのはMSも平均化して揃えるからそのまま接収して使えるが、カスタムするバルチャーはな」
「バラして部品にするしかないってな。そういえば変なドートレスもあったか」「ああ、さっきみたら頭と腕が外されてた」
キッドが聞いたらスパナを持って格納庫に殴り込みに行きそうな話だ。
それは兎も角、兵士の会話からアムロは自分のMSを失った事と、ガンダムが無事であることを知ることができた。



捕虜となったフリーデンのクルーは3つに分けられた。
パイロットであるガロード達およびフリーデンの頭脳といえるブリッジクルーやメカニック主任のキッドらは、他のクルーと分けられた。
そしてかつてのNTの英雄・ジャミル=ニートと、戦後発見されたNT・ティファ=アディールだ。
二人は貴重な戦力であり、広告塔であり、研究対象だった。
それ以外の乗員はアイムザットにとって価値はない。
DXの情報機密保持の為に、銃殺刑を委員会に申請していた。
だが、ガロード達には幸運にも、委員会の命令は現状待機であった。
それは最高審議会の長・フィクス=ブラッドマンが新連邦政府樹立宣言を行うと宣言したからだ。
ゾンダー・エプタにいるアイムザットには予測が付かないことであったが、アジア方面の抵抗が激しいのがその理由である。
今再び、新連邦という巨大な組織が歴史の表舞台に立つ……その勢いをもって地球を席巻しようということであった。



足音が少なくなった……一通りフリーデンの調査が終わったのだろう。
ハロの時計機能をみると、時間は夜、警戒は弱まっていると考えていいだろう。
アムロは床を押し上げて外へと飛び出した。

一方で、ガロード達もまた、脱出の機会を狙っていた。
シークレットコマンド――万一、ブリッジが占拠された場合、緊急時にのみ使われる暗号。
『明日の夕日は見られない』とは『明日の夕方、日没と同時に各員、逃亡作戦を起こせ』という意味なのだ。
その為に、ガロードは通気口に潜り込み、基地の構造を把握する工作活動に入った。
MSハントを生業に身一つで生き抜いてきたガロードは、この手の仕事が上手い。


447:通常の名無しさんの3倍:2010/10/15(金) 01:31:58 ID:???.net

「明日の夕方、ここから逃げるって?」
エニルは医務室のベットの上からテクスに尋ねた。
アイムザットも怪我人を放置するようなルールのない軍隊に席は置いていない。
後に処刑するとしても、処刑には処刑の作法がある。
だから命に責任を持つ艦長として、医者として、職務を全うしようとするジャミルやテクスの主張を受け入れ医務室を用意させた。
「ブリッジの連中から聞いた。間違いない」
シークレットコマンドのことを、テクスはエニルに告げた。
このエニル=エルにはアムロの影武者という役をやってもらっている。
でなければ彼女が艦にいた理由、つまりエスペランサのパイロットであるということで
フリーデンとは別件で彼女はすぐさま殺されかねないという事もある。
ジャミルは自分の元にいる窮鳥を見捨てる事はないだろうが、決定権はジャミルにはないのだ。
故、彼女をクルーとしておいた方が治療をする事ができるし、アムロとしてもエニルは奇貨だった。
アムロがフリーデンのクルーであることはフロスト兄弟には知られているが、MSパイロットであることは知らない。
オルバが潜入したときも、偶々外にでていたのだ。
で、あればエニルがドートレスの正規パイロットである、という話には違和感がない。
実際、アムロの代わりにドートレスに乗って、ガンダムと戦えるだけのMS操縦技術もあるだろう。
そしてパイロットとして出撃し、負傷した為にフリーデンにドートレスは降りた、という筋が完成する。
しかし、それは彼女が寝ている間に決まったことで、彼女としては預かり知らぬことだった。
確かに治療を受けるには、今はそれが正しいのだろうが……エニルは考えていた。



ジャミルとティファはアイムザットの用意した夕食に招かれていた。
この席で、ジャミルは新政府の真意を尋ねた。
また戦争を、またNTの利用を考えているのか、と。
その為に、脱出のシークレットコマンドに一日おいたのだ。
「しかし、君と私は根ざしているモノが同じなのだ」
非難を向けるジャミルに、アイムザットは確固たる意志を持って答えた。
「私も君と同じ世代だ。多感なあの時期にあの戦争を体験した者は
 “ニュータイプ”という言葉の呪縛から逃れる事は出来んのだよ」
「レディがいらっしゃるのに、もう少し座を盛り上げるのがマナーってもんだ」
ジャミルとアイムザットの間に割って入ったのは、現在のNTではなく、招かれざる過去の軍人だった。
最も歳長けた男は、座興としてある物語を口にした。それは二人の男の愚かしさを笑う話だ。
その話に、アイムザットという男は不興を露わにし、ジャミルという男は自戒の念を見せる。
だがカトックは二人を見ず、ティファの前に並べられたカップを取り、中身を飲み干すと慇懃無礼に笑った。
「こちらのレディは退屈してらっしゃる」
言葉ではなく、行動で、もう一つ座興として少女の為に道化て見せた。
「ごちそうさん」
つられてティファが笑顔を見せる。
その少女の笑顔は、自分が今飲み干したコーヒーよりもずっと身体に染みいったようにカトックは感じた。
「ほぅ…いい笑顔だな」カトックは目に焼き付けるように少女の顔を覗くと、その場を後にした。



汚れ塗れになったガロードが、仲間達にゾンダーエプタの内部について見てきたことを語る。
「武器弾薬はここ。まずここで武器を調達する」
「でもって、こっちの格納庫に忍び込んで、俺達のガンダムを奪回する」
ガロードに続いて、ロアビィが脱出の手順を語った。
しかしその案には不安がある。ガロードはGコンの存在を挙げた。
GXはサテライトキャノンという兵器を持つが為に、安全弁としてGコンが存在している。
それはディバイダーとなった今でも残っているままだ。
そしてそのGコンが取り外されていた場合、GXは動かせない。
「なぁに、そん時はエアマスターとレオパルドがあるぜ」
ウィッツは楽観的に語るが、しかし確かに現状それしか手はなかった。
そして、それは命がけである。


448:通常の名無しさんの3倍:2010/10/15(金) 01:34:12 ID:???.net

カトックは一人、部屋でティファの描いた絵を眺めていた。
写真が色褪せて、枯れ剥がれていく度に、妻や娘も過去の事になっていく気がした。
そうして、幸せな記憶は忘れていき、失った悲しさだけが残っていくのが辛く、
NTを憎むことで忘れないように、死に場所を求めることで苦しみから解放されるように、願い生きてきた。
だが、今、この手の中に鮮やかな妻と娘の姿がある。

カチャ…

銃鉄の音がカトックの背中を睨む。
「無粋だなぁ」
カトックは振り返らずに答える。視線も絵に落としたままだ。
「仲間の居場所を教えて貰う」
銃を構えたまま、アムロはカトックとの距離を縮め、後ろ手でドアを締めた。
「あんたもNTをどうこうしようってクチかい。……話をしたら、普通の人間と変わらんのになぁ」
だが、彼女の知らないカトックの妻と娘の絵を描けるのはNTの力なのである。
「仲間の居場所を知りたいといった……その絵は?」
アムロはティファがキャンパスを抱えていたのを見ている。
「ティファの絵か」
そう、NTの力でモチーフを知ったとして、これを描いたのはティファという一人の少女の優しさなのだ。
「……これぐらい年頃の娘がいたとしてもおかしくない」
「そうだな。そういう風に見える」
ああ、だからラルさんとハモンさんは自分を気に懸けてくれたのか、とアムロは僅かに感慨に耽った。
その隙を、歴戦の軍人であるカトックは見逃しはしなかったが、しかし動かなかった。
「大人なら、大人の役割を果たすべきだ」
「俺は軍人だ。戦争が否定出来ん」
カトックは自分の主張を口にし、キャンパスを丁寧に机の引き出しにしまった。
もしアムロの銃が火を噴き、自分の身体を貫いたとしても、この絵が返り血で汚れるのだけは許せなかった。
その行動に、アムロはカトックが何かを抱え、揺れ動いているのではないかと、初めて気づいた。
「それで満足なのか」詰め寄るアムロに
「ガロードとかいう小僧と同じことを言う……そう、あいつもティファと同じ年か……」
「だから巻き込むべきじゃない。戦争や連邦、NTなんかに。
 NTを貴方が恨むのを、その怨念を捨てろと言う若さは俺にはない。俺も軍人だ」
一年戦争の頃はホワイトベースという特殊な環境で、アムロは十代の一兵士だった。
だがグリプス戦争、ネオ・ジオン戦争を通じて、MSの小隊長として様々な人間と一緒に作戦を行ってきた。
だから、言えない。
「貴方の家族を殺したのはジャミルでは無いはずだ」
一年戦争以来、戦場で最も勇敢に戦う連邦兵は実はスペースノイドだと言われた。
ジオン公国が「スペースノイドの自由」を掲げる度に、彼らは歯を食いしばって戦った。
なぜなら彼らはジオンのコロニー落としの為に殺されたコロニーの住人の類縁だったからだ。
だからジオン公国の憂国の志士、解放の戦士という気風を誰よりも唾棄した。彼らがそれを気取る資格など、ない。
そうやってジオン公国が、ジオンの残党がスペースノイドの為という欺瞞の旗を振る度に、本当の自由・解放が困難になると憂いた。
故に彼らはスペースノイドの未来の為に、ジオンを叩き潰そうとした。
仇をとり、汚名を濯ぎ、そして戦果によって新たな居場所を、未来を得ようとした。
だが、連邦政府は与えなかった。
彼らは勇敢で、哀しかった。
憎しみで戦うな、憎しみは連鎖する、と彼らに説くことができるだろうか?
それは報われないから戦うな、と彼らに説くことができるだろうか?
彼らはその言葉を理解しても、拒絶する。そして分かり合えず、傷つけあい、ついには互いに壊しあう。
人間の心というのはそういうもので、どこかで折り合いをつけていくしかない。
それを知っているニュータイプというのがアムロであり、他を探せばジュドーであった。
故に彼らはNTではなく人間として生きることを選んだと言える。
「コロニー落としに使われたコロニーは、革命軍に制圧された段階で、全ての住民は死んでいる……違うか?」
アムロは自身の世界の経験から、推測を立てた。
それは正しかった。


449:通常の名無しさんの3倍:2010/10/15(金) 01:36:22 ID:???.net

「貴方は……直接銃爪を引いたニュータイプ、ジャミル=ニートを恨むことで、家族を失った心の傷を癒そうとした」
それを当時最新鋭のGXを駆り、エースパイロットだったジャミルが知らない筈もないだろうと、アムロは考えた。
なのにそれを言わないのを見て、アムロはカトックの言い分が正しいのではなく、
ジャミルがカトックの心を理解し、同時にGXの銃爪を引き、戦後を作った自分の罪の一つとして受け入れているからだと感じた。
そういうジャミルは好きだが、状況による。
「満足だろうな」
カトックも、そしてジャミルも、だ。
「満足な…もんかよ……」
項垂れるカトックに、アムロは思わず銃を降ろした。
人に説教をできるほど、アムロも次の世代を守れたとは言えない。
(人の気持ちは繋げることができるって、知っていたのにできなかった)
アクシズを押し返す光の中で、チェーンの、クェスの、ハサウェイの叫びが聞こえた気がした。
シャアと戦うことを選んだアムロが救えなかった人達の叫びだ。
そうやって、矛盾に満ちた幾億もの光が、世界の片隅で生まれては消えていく。
「人間は、なりたい自分が分かってるのに、なれないんだよな……」
それでも、サイコフレームの起こした人間の光は、暖かかった。



エニルは何度自分に問いかけたのか、分からない。
アイムザットの前に立ち、自分の選択がもう引き返せないと分かっていて、考えてしまう。
フリーデンクルーの脱走の情報を教える代わりに、自分とトニヤの身柄を保障させること。
少なくとも、フリーデンクルーの脱走計画よりは、それを阻止するほうが成功率が高い。
だが、それは本当にトニヤの……自分の為になるのだろうか。
トニヤは言った、幸せも不幸せも自分の力で手に入れる、それが自分の生き方だと。
今、自分がこういう方法でトニヤを助けることは、彼女の生き方への冒涜ではないのか。
トニヤが生き残ったとして、彼女は仲間を失うだろう。
大切な人を失う辛さを、自分は知っているのに、友人に同じ道を歩かせようとしている。
もしトニヤと自分が逆の立場ならどうだろう。
可能性が低くても、全員が助かる道を選ぶのではないか。
――もう少し、未来を信じてもいいはずだ。
フリーデンの赤毛の男の言葉が今頃になって脳裏に響く。
「さ、話してもらおうか? 連中の逃亡計画とやらを」
アイムザットに促され、エニルは決意がつかぬまま、その内容を話した。
話しながら、エニルは思う。
エニル=エルがなりたいエニル=エルは今ここにいるのだろうか、と。



カトックはアムロの事をアイムザットに告げなかった。
そのアイムザットは、フリーデンクルーの脱走計画を口実にクルーを殺害する腹積もりだ。
アイムザットは委員会を無視して、独自にニュータイプ研究所とコンタクトを取るつもりのようだが、それはカトックには興味の無いことだ。
だが……
迷いを持ったまま、カトックはティファの部屋を訪れた。
この少女は貴重なNT、殺されることはないだろう。だがガロードは……
ドアノブを持つ手が止まる。
ティファの能力の前に、嘘は効かないかも知れない。ガロードの死を知り彼女は哀しむだろう。
それ以上に……自分の中の迷いも見透かされてしまうのではないか、という気がする。
NTの能力に対する恐怖に、カトックは頭をふった。
この扉の先にいるのはか弱く、そして優しい少女だ。
捕虜にされたとき、不安そうにガロードに寄り添う姿が思い出される。
――満足だろうな
ガロードが、アムロが放った言葉を、反芻したとき、何かに押されるように急いてカトックは部屋の中に入った。
「……どうした?」
少女は泣いていた。


451:通常の名無しさんの3倍:2010/10/15(金) 01:40:05 ID:???.net

「もう、みんなとはいられない……そんな夢を見たんです……」
少女の言葉を、夢だろうとカトックは切り返す。
「私の夢は現実です」
毅然と、少女は答えた。
「仲間だけではありません。あなたにも、もう会えなくなる……お別れです」
カトックとも別れるのが辛いのだと、ティファは言外に答えた。
「なぜ哀しむ。その夢が現実だとして、お前の仲間の仇だ!」
「……大切な人を失うことは辛いことです。あの人もそうです」
カトックがティファの指す人物を聞き返す。それはアムロの事だった。
「あの男もそうだというのか……」
「アムロは悲しみを乗り越えることができたから……」
自分も、この先過酷な未来があったとしても受け入れる、そうティファは達観しているのだろう。
「……っ!」
カトックは言葉を失った。
気付いてしまったのだ。この少女はニュータイプという重い力を"背負ってしまって"生まれ生きてきた。
決して望んでこの力を得た訳ではないのだ。そして、それでもティファという少女は清冽な心根を捨てずに生きてきた。
「……なら、一つだけ言っておく。お前らの艦長は、俺の家族を殺したってのは嘘だ!」
カトックは必死に悪役を演じようとした。でなければ自分が捨ててしまったものを直視できない。
それはアムロの予測した通りの事だ。コロニーの住人を殺したのは革命軍だということ。自分の慰めの為にジャミルを恨んだこと。
……そしてジャミルがそれを知っていたことまで、"ティファは分かっていた"。
「ジャミルが、俺の気持ちを分かっていたと言うのか!?」
その事実は、ティファのようなNTでなくとも察することができる。それはアムロが証明した。
カトックもまた、真実を知った衝撃からすぐに立ち直ったのはそこに思い至ったからだ。
「……お前、前に言ったな。"信じてほしい"と。どういう意味だ?」
「人の…心です……」



ガロード達は、ガンダムを回収することが出来ず、連邦兵の攻撃を受けていた。
計画が洩れたのはエニルがしたことだと、テクスは銃を突きつけられながら知った。
だが、銃口はテクスだけでなくエニルにも向けられたのだった。

援護を受け、仲間達から離れティファを探すガロードの前にアムロが現れる。
「アムロ!」「ガロード、ガンダムはこっちじゃない!向こうの格納庫に……」「なかったんだよ!」
カトックから得た情報が偽だった?アムロの疑問は、ガロードによって逃亡計画が洩れていた可能性を聞き、払拭される。
「どこにいるんだ、ティファは!」「どうしたんだ、ティファ。俺に居場所を教えてくれ」
アムロの焦りに、ガロードは怪訝な顔をする。
アムロがまるでジャミルのように、NTの力でティファと交信できるかのような台詞を吐いたからだ。
(ティファ……君は助けを求めていないのか!? 諦めたのか……?)
結局、アムロ達は兵士を一人掴まえて、アイムザットがティファやガンダムと一緒に船で脱出を謀っていることを知った。
ハロがコードを延ばし、専用エレベーターのロックを解除する。
「このエレベーターから港に直行できる」
エレベーターにガロードを乗せたアムロは、扉を閉めようとした。
アムロはテクス達の救助に向かうつもりだ。
それに、生身の戦闘ではガロードのお荷物になるとアムロは考えていた。
できれば、自分に情報を教えてくれた歴戦の兵がガロードを助けてくれることを信じて。


452:通常の名無しさんの3倍:2010/10/15(金) 01:42:13 ID:???.net

ガロードは出航する船を追いかけた。タイミングは一足違い。
人間の走力では追いつけない。だが、自分の姿を認めたティファが叫んでいる、助けを求めている。
「ティファァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!」
船のコンテナに陣取ったフロスト兄弟のガンダムがガロードを狙った。
「どうやら君の完敗だな」
アイムザットは艦橋でジャミルに勝ち誇った。

瓦礫と炎と霧に包まれた港で、ガロードは立ちあがる。
手詰まりか。いや、諦められる筈がない。
ガロードは船を探す。そんな少年の前に、男は現れ、尋ねた。
「お前さん……未来を変える気、あるかい?」



銃を突きつけられて歩くテクスは、同じ姿の隣のエニルに言った。
逃亡計画を話すべきではなかった、しかし後悔はしていない、それが医者としてはベストの答えだったと。
エニルは笑みを零した。これがトニヤの仲間かと。
そして罪滅ぼしを……彼女は胸元のボタンを外した。
自身の胸の谷間に仕込んでいた閃光弾で場を眩ますと、エニルは手際よく兵士を気絶させていった。
「!!」しかし、タイミングがわるく通りかかった兵士がそれに気づき銃を向ける。
エニルは死を覚悟した……が、次に聞こえたのは自分を貫く鉛玉の音ではく、兵士が倒れる音だった。
「ずいぶんとセクシーな格好をしているな」「この前の貴方ほどじゃないわ」
兵士を気絶させたアムロに、エニルは皮肉を返す。



アイムザットの船を、小型の船艇が追う。
その中で「なぜ俺に手を貸す?」
アイムザットの船の背中――コンテナを睨みながら、ガロードは尋ねた。
「未来なんかが見えてたまるか。ニュータイプとやらの鼻を明かしてみたい。それだけだ」
生き生きと、船の舵を握るカトックは答えた。
「くるぞ!」
コンテナの上からフロスト兄弟が攻撃を仕掛けてくる。
それを卓越した操縦技術でカトックは避けてみせた。
的が小さいこともある。オルバは苛立ち、アトミックシザースで直接攻撃をかけようと飛び出した。
コンテナの防衛が薄くなる。それがコンテナに取り憑くチャンスだ。
ガロードは船の上からMSハントに使っていた吸盤銃を構える。
だが、シャギアのヴァサーゴが陣取ったままだ。
「ふっ……」ガロード達の意図を察したシャギアは逆に彼らを狩ろうとクロービーム砲を構えた。
「ナント―!!ナント――!!」
「なにぃ……っ!!」
本来味方であるはずのバリエントから体当たりをくらい、シャギアは呻く。
バリエントは拳をヴァサーゴの腹に押しつけたまま、その腕に隠したミサイルを発射する。
「兄さん!!」
「借りを返させてもらうわっ!!」
反転するアシュタロンの背中を、もう一機のバリエントが撃つ。
「なかなか、いい機体だわ。こっちが病み上がりなのが残念だけど」
バリエントのパイロット、エニルは痛む身体に歯を食いしばった。
「エニル、無茶はするな」シャギアに組み付いたバリエントの中でアムロが叫ぶ。
「基地のMSを奪ったか……だが、新型といえどガンダムに勝てるものではない!」
至近距離からミサイルを受けて尚無傷のヴァサーゴが、アムロのバリエントの腕をもぐ。
「まだだ!」「マダオワランヨ!!」ヴァサーゴの背面スカートからビームサーベルを奪い、斬りつけるアムロ。
「兄さん!」兄のサポートをしようとするオルバの背中を
「借りを返すって言ったでしょ!」エニルのバリエントが蹴り飛ばす。
「貴様ァァァ!!」激昂するオルバ。
その隙にガロードは吸盤銃をコンテナに取り付けることができた。
「助けて貰った借りは返したわよ、アムロ。私はトニヤを救いにいく」


454:通常の名無しさんの3倍:2010/10/15(金) 01:45:15 ID:???.net

「しまった! このぉっ!!」
離脱するエニルのバリエントを諦め、船に狙いを定めるオルバ。
しかし、カトックが一枚上手だ。ガソリンと手榴弾で船を時限爆弾に仕立てた。
ガロードとカトックが海に飛びこむ。同時に船の爆発がアシュタロンを吹き飛ばした。
「ええい、何をやっている! シャギア達に伝えろ! 本艦に帰投し、牽引ワイヤーを切り離せ!」
アイムザットの指示に、シャギアはアムロを引きはがすと、ガロード達が組み登ったコンテナを切り捨てた。
「ふふ……侮って後で痛い目に遭いたくないのでな。コンテナを破壊しろ!」
ヴァサーゴとアシュタロンがコンテナにビームを放つ。
「ガロードッ!!」「キケン!キケン!」
アムロのバリエントが盾になって割って入る。
コンテナは沈んでいったが、ガロードとカトックは無事だ。
海上に浮かんだバリエントは穴だらけで、起動する気配もない。
アムロも腕から血を流しながら、コクピットから身を乗り出す。
「アムロ!ケガ!ケガ!」ハロが心配そうにアムロの周りを跳ねた。
「ガロード、進め!!」アムロはずぶ濡れのガロードに叫んだ。
アイムザットが虎の子のDXを島に残す筈がない。まして沈める筈もない。
新型はアイムザットの船の中にある。ティファたちを助け、それを奪い、勝つ。
それが残された一つの光明だ。
ガロードは頷き、牽引ワイヤーのブイにしがみつく。船がこれを巻き取る。労せずして船に侵入できる筈だ。
「ガロード、ティファは助けを求めていたか?」
「え……あったり前だろ!」
「それならいい。ティファも運命を受け入れてはいないってことだ」
アムロは額に汗を掻きながら、カトックを見上げた。
「ガロードを、頼みます」
「ああ……」
カトックは短く答えた。
アムロは安心して倒れた。



「アムロ!アムロ!!」
暫くしてアムロは目を覚ました。
船はもう目視できないほどに遠い。腕の応急措置はハロがやったものか。
曇天の空をアムロは見上げた。もうすることがない。フリーデンの仲間の救助を待つだけだ。
「乗り越えなきゃ、ダメなんだ……」
空に向かい、アムロは呟いた。
ティファはアムロが悲しみを乗り越えたといった。
乗り越えることと受け入れることは違う。
ティファが悲しみを受け入れようとしているなら、アムロはそれが我慢ならなかった。
それは死んでいると同じだ。
アムロは地球にしがみついてた七年間を振り返った。
空を白鳥の群が横切っていった。
「もう一つの世界(あす)があるなら……想いのまま走ってみせる。俺は……」

ララア、シャア、戦友達、そして宇宙世紀のNTにアムロは誓った。




第二十三話「二度と迷わない魂で」


458:通常の名無しさんの3倍:2010/10/15(金) 07:31:15 ID:???.net

GJ 乙です。すごいドキドキしながら読んだ。
すごい…!


460:通常の名無しさんの3倍:2010/10/16(土) 00:08:58 ID:???.net

ジャミルとティファを監禁しようと、兵士達は二人をせっついた
「みんな、頑張ってる……」
ティファの言葉を、ジャミルは聞き返した。
「みんな、未来を変えようと必死で頑張っています」
ティファはもう一度、語った。
「……私も未来に逆らうか」
戦後を引き起こしたNTとしてではなく、一人の人間として、一人の大人として。
ジャミルは見張りの兵士の脳天にハイキックをぶちかました。
「いくぞ、ティファ」
銃を奪い、NTの予測した未来を乗り越える事に
「はい!」
ティファは力強く頷いた。

同じ頃、ガロードとカトックも後部デッキに乗り込み、DXを目指していた。
「なあオッサン! オッサンって意外とイイ奴だったんだな!」
「へっ…死んだ女房もそう言ってたぜ!!」
二人の歩兵としての戦闘能力は異常に高く、アイムザットと共に行動する兵士達をモノともしなかった。
それでも進行速度には限界があり、その時間がアイムザットに二人の目的を予測された。
その為、DXのある格納庫に先に狙撃兵を配置された二人は、足止めを食らっていた。
「お前、俺に命を預けられるか?」
打開策をカトックが提示する。それは経験に裏打ちされた発想ではあったが、奇策であった。
大丈夫か?と尋ねるガロードに、カトックは言い返す。
「"人を信じろ"って、ティファが言ってたぜ?」
ガロードは笑った。


一方、ジャミルはティファの導きであるモノが保管されている部屋へ来ていた。
それは……

「DXにも、Gコンがいるのか!!」

ようやくDXに乗り込んだガロードの窮地を救う為だ。
DXのGコンはアイムザットが所持している。
だが、互換性のあるGXの、かつてジャミルが使い、ガロードに受け継がれたGコンは、ティファの手の中にある。
二人は走る。ガロードに再び「力」を届ける為に。



アムロはフリーデンに回収された。
脱出の状況を聞くに、エニルの助けがあったとはいえ、ゾンダーエプタの静謐さが気になった。
ウィッツやロアビィはAWを生きる者として直感でそれを感じていたが、アムロはやや整理して考えることができる。
まずアイムザットが軍を離れて、独自にNT研究所なる勢力とコンタクトを取るとして、
アイムザットの船に乗り込んだ兵士はアイムザットのシンパ、私兵になったと考えるべきだろう。
だが、それはゾンダーエプタの総兵力の一部である筈だ。
だというのにアイムザットが島を離れてから、引き潮のように残存兵が撤退した。
ゾンダーエプタに残った兵士も全てアイムザットのシンパで、彼に合流しようとしているのか?
それは考えにくい。基地の駐留部隊一つ丸ごと反乱を起こすというのは、如何に軍隊が上官の命令遵守の組織であるとはいえ
反乱の頭にカリスマが無くては成功しないものだ。アイムザットにそのような魅力があるとは思えなかった。
もし基地の兵士全員に計画を打ち明けていたとすれば、反対派が出るはずであり、彼らが抑留されているならばこれを気に行動を開始する筈だし
反対派を予め粛正しているような雰囲気は感じなかった。
ゾンダーエプタに残っている兵士を欺いていると考えるのが妥当だが、それではこのタイミングで撤退を開始するのはおかしい。
フリーデンクルーは抵抗しているとはいえ、数ではゾンダーエプタの兵士の方が多いのだ。情報部であるアイムザットが機密保持を重要視しない筈がない。
ここでフリーデンクルーを逃すなら、わざわざ手の込んだ処刑計画など必要ないのだ。
簡単にバリエントを奪取できたことも気になる。幾つかのバリエントはアイムザットの船の中にあるが、運びきれなかったものを放置はしないだろう。
「……別系統の指令が出ているのか?」


461:通常の名無しさんの3倍:2010/10/16(土) 00:12:39 ID:???.net

ガロード、カトック、ジャミル、ティファらの抵抗で混乱する船の中で
戦いに加わること無く、その喧騒を不敵に笑う男達がいた。
暗がりの中で通信を行う弟。
「ゾンダーエプタからの撤退はそろそろ完了するよ、兄さん。もちろん『アイムザットからの命令』でね……」
アムロによる思わぬ抵抗はその二人を苛立たせはしたが、彼らの目的を妨げるものではなかった。
「海鳥の群れが来た時に、DXは誰の手にあるか、だな……」
兄は暗い喜びをその瞳に浮かべた。



「私も、未来に逆らいたくて……」
「うんっ!」
少女は手にもったGコンを少年へ託した。
この冒険が始まった日、彼女が少年を白き巨人の元へと導いたように。
だが、一つだけ違うことがある。
あの日、少年にGXを与えたのは、夢の導き。運命の誘い。
今、少年にGコンを与えるのは、少女の意志。運命へのあがらい。
その二人を挟んで、ジャミルとカトックは満ち足りたものを共に感じていた。
「いいもんだなぁ……」
カトックはようやく、自分の中で戦争を過去のものにできたと感じた。
きっと「貴方はいつも遅すぎるのよ」と妻は笑うだろう。
「ハッ!」
アイムザットの兵士の殺気にティファが反応する。
扉を背にしていたジャミルや、ティファが死角になったガロードは反応が遅れた。
ただ一人、カトックだけが飛び出せる位置にいた。
そしてカトックは自らの身体を差し出し、彼らを守った。
「やめろぉっ!」そう叫んだ。それは敵に対する哀願ではなかっただろう。
アイムザットの兵士達は、大なり小なりアイムザットに共感しえる部分があるから付いてきている筈だ。
カトックはNTが気に入らないと言った。だからアイムザットも好かないのだと。
しかし戦争という過去に拘っている部分で、アイムザットとカトックは同じだった。そしてこの場にいる兵士達も。
だからカトックは気付いて欲しかった。もう戦争は終わったのだと。新しい時代が来ているのだと。
その象徴であるガロードとティファを、自分たちの手で失うことをして欲しくなかった。
だから、止めた。
それは通じる筈もなく、カトックの身体は穴だらけになり、力を失った。
だが、守ることはできた。今度は。
望んだ自分になれたのだ。
「……ずっと……死ぬ場所を探してたが……これなら悪くない……」
ジャミルの背中をカトックは見た。彼はアイムザットらの攻撃を迎え撃っている。
ガロードとティファとの別れの時間を、守ってくれていた。
それが、大人のすることなのだろう。
「ガロードのこと、大事にしてやれよ……」
カトックの手を握るティファの手が強くなる。
強くなっているとカトックは思ったが、もう感覚が無かった。
「ガロード……お前、言ってたよなぁ……
 "今の大人は、お前らをごたごたに巻き込むだけだ"って」
「そんなことは今はいいっ!」
そんなこと、か……。そう、そんなことだ。
だが言わなければならないことがある。
「戦争も、ガンダムも、お前達からすりゃぁ生まれる前の代物だ
 ……振り回されるこたぁない。すきにしろ……
 ただし! これだけは……忘れるなっ!」
カトックはしっかりとガロードを見上げて、言った。


462:通常の名無しさんの3倍:2010/10/16(土) 00:15:18 ID:???.net

「過ちは……繰り返すな……!」
カトックは自分を振り返ったジャミルと僅かに視線を交わした。
NTでもなんでもなかったが、二人は確かに声なき言葉を交わした。
それは謝罪でも後悔でもなく、「二人と頼む」というカトックの言葉を、ジャミルは受け取った。
「じゃあ…な……」
何かが、カトックの身体の中から抜けていった。
NTであるティファにはそれを感じることができた。
それが、命であったか、怨念であったか、あるいは別の何かであったか、分からない。
しかし、それとは別にカトックの中に芽生え、留まった温かいものが、確かにあった。
「ジャミル……援護を頼む!」
確かにあって、ガロードに受け継がれたのだと。
ガロードが駆ける。
DXへ。15年前の悲劇を起こした力を受け継ぐ機体へ。
運命に逆らうGコン(ちから)を握りしめて。
「ダブルエックス……起動ッ!!」




フリーデンの医務室で、エニルと共にテクスの治療を受けていたアムロは、身体を震わせた。
「ドウシタ?ドウシタ?」アムロを心配するハロの頭を、彼は撫でた。
「優しい人がね、家族のところに帰ったんだよ。だから少し寂しくなった」
エニルが怪訝そうな顔をアムロに向ける。
「あの男か?」
アムロが別の世界のNTであることを、つまり人の死を察することができるという事に思い至ったテクスが尋ねる。
「俺に、ガロードとティファを……未来を頼むと言っていた」
アムロは一つ、溜息を吐いた。
「ダメだな……大人になると、涙の流し方が分からなくなる……」
その言葉にエニルは押し黙った。
自分は、逃亡計画を話したことを、どう明かし、どう償えばいいのだろうと。
「帳消しだろう」
テクスの言葉に、アムロとエニルが顔を見上げる。
「哀しいことを哀しいと言える代わりに、哀しさを別の何かに変えられるのなら、素直になれないことに苦しむ必要はない」
船が揺れた。DXに乗ったガロードがジャミル達を降ろしにフリーデンに着艦したのだ。

「うおおおぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ライフルもシールドも持たないDXだが、アイムザットの放ったバリエントの編隊をモノともせずに撃退していた。
「アシュタロンとヴァサーゴは何故出ない!? シャギアとオルバはどこへ行った!?」
アイムザットは焦りを隠そうともせずに叫んだ。
確かにフロスト兄弟は姿を消していた。それもかなり前から。
彼らが職務に忠実であるならば、アムロの特攻でダメージを追ったとはいえ、ガンダムで生身のガロードとカトックの侵入を防げない筈がない。
勝敗はDXの完全勝利に終わる。
しかし、ゾンダーエプタの向こうに機影が映る。
それは「参謀本部直属の極東軍! どうしてこんなところに!?」アイムザットは戦慄した。
彼に従った兵士達も、彼を振り返る。反乱が失敗すれば自分たちに未来はない。
戦力はDXも、バリエントも失っている。
残っているのは……
「海鳥達がやっと来たか……」
フロスト兄弟のガンダムである。しかし彼らこそ、参謀本部の軍を手引きした張本人であることは明らかだった。
兄弟に銃口を突きつけられたアイムザットが、彼らに裏切りの理由を問う。
「復讐、と言ったら見当違いかな」
『似て非なるモノ』と烙印を押された者の苦しみ……それがフロスト兄弟の行動理由だ。
「ニュータイプでもないお前達をここまで取り立ててやった恩を忘れて! カテゴリーFめ!!」
アイムザットが二人を罵る。それこそが兄弟の苦しみであると、アイムザットは理解できない。
普段、感情を露わにしないシャギアが目を見開き、臓腑を振り絞るように叫んだ。
「一つ言っておこう。未来を創るのはニュータイプではない。"カテゴリーF"と呼ばれた我々だ!」


463:通常の名無しさんの3倍:2010/10/16(土) 00:18:49 ID:???.net

サテライトキャノンのマイクロウェーブがDXへと舞い降りる。
黄金の羽根が粒子を吐き、その充電を主張した。
ガロードは躊躇う。
今、サテライトキャノンを使えば、敵の増援を全て消滅することができるだろう。
だが、今、この新しいガンダムで、人を殺す為に、憎しみの為に、サテライトキャノンを使えば、それは戦争の時と同じ使い方だ。
――過ちは繰り返すな!!
カトックの魂が、ガロードの中に焼き付いている。
それが、銃爪を引かせた。
「ガロードッ!」
ジャミルが叫ぶ。
ティファが、アムロが、フリーデンの仲間が、見守る中、サテライトキャノンの銀光は敵軍ではなく、
無人となったゾンダーエプタを飲み込んだ。
「敵が、後退していきます!」
島一つを蒸発させるサテライトキャノンの威力を見、敵は撤退を決意した。
それにはフロスト兄弟からの報告もある。
サテライトキャノンの光が海を支配する頃、二機のガンダムが空へと消えた。
アイムザットという、NTに幻想を抱いた男の亡骸を残して。






その日、世界に向けてブラットマンによる新政府樹立宣言が発表された。


         ――あの、忌まわしき大戦から15年……――
          ――ついに今日という日が訪れた!!――

アムロは、カトックが置き忘れていたティファの絵を持ってきていた。
彼の棺の中に、その絵を添える。

  ――混沌たる戦後は幕を閉じ、今我々の前にあるのは、輝かしき未来である!――

ルチルの時と同じように、また一人、過去を生きた人間をフリーデンは弔う。
斜陽の海に、棺が沈んでいく。

――しかし、世界はいまだに一つではなく、多くの混乱が人々の苦しみの根源となっている――
    ――だが、その苦しみも今日という日を境に新たな局面を迎えるだろう――

希望は決して捨ててはならない……NTの白イルカは語った。
過去に生き、未来を信じたモノ達の命の輝きは、
枯れることのない泉の中に溶けて新しい時代を見守ってくれると、アムロは信じたかった。

        ――我々は、死んでいった多くの同胞に約束しよう!――
         ――あの忌まわしき戦争を、二度と起こさぬと!――

サテライトシステムの光に導かれたフリーデンの海の旅は、終焉を迎えようとしていた。

        ――生き残った我々は、決して、過ちを繰り返さない!――
         ――新たな秩序が輝かしき未来をもたらすだろう――

ティファの心に、現在を信じる強さを、
ジャミルの心に、過去の後悔との決別を、
ガロードの心に、未来を切り開く決意を、
出逢えた人が与えてくれたすべてを勇気に変えて、この旅を終わりにしよう。


         ――私は今ここに、新連邦政府の樹立を宣言する!――


464:通常の名無しさんの3倍:2010/10/16(土) 00:21:05 ID:???.net

『貴方はまた一人旅立つのでしょう?』
アムロの心に語りかけたそれは、ララアの声かと思ったが、ティファの心であったようだ。
前を見据え、落暉を睨むガロードの背は大きく見える。
彼自身が越えたいと思った男達の背中であるように。それよりももっと先の一歩を感じさせるように。
そんなガロードとは反対に、等身大の少女がアムロを正視していた。
『悲しみからそっと守りたい、君達の未来を……。そう思ったからね』
この世界に自分がやってきて、帰るまでに、自分を迎え入れてきた人達に恩返しをしたいんだ。
アムロは風と光の中で微笑みを見せた。
『大丈夫だ、離れていても。僕達は感じあえる』





第二十四話『命を繋いだもの同士なんだから……』


466:通常の名無しさんの3倍:2010/10/16(土) 00:51:24 ID:???.net




467:通常の名無しさんの3倍:2010/10/16(土) 00:56:44 ID:???.net

一気に進んだなぁ(´ω`)

乙です


469:通常の名無しさんの3倍:2010/10/16(土) 08:46:50 ID:???.net

GJ!乙です!鳥肌たった…!すごい


472:通常の名無しさんの3倍:2010/10/16(土) 16:38:39 ID:???.net

もともとGXは「1年戦争が最悪の形で終わった世界」という
1stガンダムのオマージュとして作られてるんだから
世界観の親和性が高いのはある意味当たり前ではあるんだけどね。


576:通常の名無しさんの3倍:2011/11/17(木) 18:10:00.72 ID:???.net

初めて、このスレ来たけど上手いあらすじの人が居て驚いた
クロスオーバー物には、ちょっと偏見があったんだけど
Xの世界の登場人物の見せ場を奪わない&Xのストーリーに沿いつつも
アムロを絡ませ尚且つ精神的に成長させる微妙なバランス加減が凄く良い


577:通常の名無しさんの3倍:2011/11/21(月) 22:55:48.24 ID:???.net

帰ってきてほしいな、あらすじの人
今どうしてるんだろうな


578:通常の名無しさんの3倍:2011/11/22(火) 22:15:42.65 ID:???.net

Xの世界に転移してるんだよ


関連記事まとめ

もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら☆
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もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 2 (未完SS)☆
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もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 3(未完SS)☆
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もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 4 (未完SS)☆
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もしもCCAアムロがガンダムXの世界にいたら 5 (未完SS)☆
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